- TOCとは、制約に注目して問題解決を行えば、小さな変化と小さな努力によって、短時間のうちに、著しい成果が得られるという理論
- TOCを実行するための具体的な5ステップ
- TOCをプロジェクトマネジメントに適用したクリティカルチェーン
- プロジェクトバッファーで全体工程を最適化
TOCとは
概要
TOCとは日本語では、制約条件の理論と訳され、イスラエルの物理学者エリヤフ・M・ゴールドラット博士が1980年代にアメリカで提唱した生産スケジューリングをベースとした経営手法です。この理論は、組織全体のパフォーマンスを左右するごく少数の要素に焦点を当てて、複雑で理解しにくい状況を単純化するというものです。日本では、「ザ・ゴール」という本が話題になり、一躍ベストセラーになりました。TOCの解説書ですが、物語調であるため、非常に読みやすく、自分の仕事にも参考になることが多いように思います。漫画でもあるので、そっちからでも入っていけるかと思います。
フォーカスすべき5つのステップ
TOCの理論の基礎として、3つの基本概念があります。
- 組織には達成すべきゴールがある。
- 組織の部分最適化は全体最適化にはならない。
- 組織の能力は、ごく少数の変数によって制約されている。
この仮説に基づいて、組織の障害を明確にして、その障害の中でいかに組織全体を最適化していくかというのを実践していきます。つまり、制約に注目して問題解決を行えば、小さな変化と小さな努力によって、短時間のうちに、著しい成果が得られるというもので、それを実行するためのガイドラインとして、「フォーカスすべき5ステップ」を提唱されています。
- システムの制約を特定する
- 多額の投資を行うことなく、制約を取り除ける場合は、直ちにそれを行い、ステップ1に戻る。それができない場合は、システムの制約を活用する方法を編み出す。
- 他のすべての事柄をステップ2で決定した次項に従属させる。
- 制約の一つ、あるいはいくつかの制約条件を高める代替案を見積もる。ステップ3が今後、制約条件や全体のパフォーマンスに与える影響を予測する。現在の制約を高める方法を実行する。
- ステップ1に戻る。現在の制約は当初に予測したものと異なっているかもしれない。制約の特定においては、ゆるみが生じていないか十分に注意する。
ステップ5は、すでに知られている制約にいつまでもとらわれていると、真の制約を無視することになりかねず、真の制約に不意打ちを食らいかねないことへの警告です。「誤った制約」への従属を優先させてしまうと、どのような組織でも大きな痛手を受けるため、ステップ5で再度、真の制約は何かを点検するものです。
クリティカルチェーン
プロジェクトマネジメントへのTOCの適用
このTOCの理論を用いてプロジェクトをマネジメントしようとした手法が、クリティカルチェーンと呼ばれており、従来のPERT(Program Evaluation and Review Technique)やCPM(Critical Path Method)のクリティカル・パスをもとに、リソース(人・もの・金)の競合を考慮してクリティカル・チェーンという、タスクに含まれる安全余裕を取り除いた上でタスクをつなげたものを構築するというものです。
つまり、プロジェクトの全体を短期かつ納期通りに完了させるためには、すべての作業を平均的に完了できる状態で計画を行う一方で、プロジェクト全体のスケジュールを守るために、プロジェクト・バッファーと呼ばれる余裕を挿入して、不確実性からプロジェクトを保護をするというものです。図1に概念的なものを書いていますが、上図がCPMによる工程、下図がクリティカルチェーンによるもので、遅れが生じた場合に、このバッファーを使ってプロジェクトにあたるというものです。ここは工期だけではなく、人やモノなど、他のソースに関しても同じ考え方です。
プロジェクトバッファーの考え方
これは、従来のPMBOKに代表されるかなり「固定的」なプロジェクトの計画・実行に対して、現実のプロジェクトに存在する「不確実性」を考慮にいれたものです。計画と実施において、「バッファー」を取り入れ、それを管理(マネジメント)することで、不確実性に伴う事象を管理・吸収していくもので、動的なモデルとも言えます。最近では、ソフトウェア関連では「アジャイル」といわれる手法が流行っていますが、これはバッファーをマネジメントするというよりも、最終成果の前に、マイルストーンを組み入れ、PCDAを回していくというものです。
それでは何故、こうしたクリティカルチェーンが、こうしたプロジェクトに有効かというと、例えば、インフラを作る際、基礎を掘る、山を切るといった地質に関わる工事は不確実性が高く、その工事工期の長さは、同じ数量の工事であっても、図2のように正規分布には従わず、人によって、予測される工期が倍以上変わるということが予測されます。一方、いったんその予測された工期で工事を始めると、最初から全力で取り組まず、ある余裕を使ってしまい、結局、当初よりも時間がかかるという状況が起こりえます(私は中学生の夏休み病と呼んでいます)。そのため、平均的な工期で、余裕を持たせずに工事に取り組みをさせ、予測しなかったことが生じた場合、バッファーで後れを吸収させるというものです。
皆さんもよくあるかと思いますが、後工程に時間があると思うと、前工程から活動(工事)を受け取っても取り組まないってことありますよね。これが、そもそもの遅れの原因というのが、このクリティカルチェーンのベースとなる考えです。
実際は、図1のような簡単なものではないので、各相互関係が複雑に絡んでいます。よってプロジェクトの工程を計画する際には、フォーカスすべき5ステップに沿って、工期を推定し、クリティカルパス上にバッファーを備えるようにします。つまり、
- CPMにより、CP(a)を見つけ、最もネックとなりうる工種を見つける。
- 最もネックとなる工種において、どのようなリソースを使うことで短縮・もしくは改善できるかを検討する。
- その工種(A)を優先的にリソースを使うことを前提に、他の工種の工程を決める。
- その結果、工種A以外の工種への影響を見積もる。またバッファーをまとめてCPaにプロジェクトバッファーを加える。
- 当初見積もったCPa以外に新たなCPが生じていないか確認する。
以上が考え方になりますが、こうした考え方を例題を交えて説明している本がゴールドラット博士により出版されています。
クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?
エリヤフ ゴールドラット (著), 三本木 亮 (著)
最後に
プロジェクトマネジメントにおいて、工程管理は重要なスキルです。再エネ開発のようなプロジェクトにおいて、工程管理では、CPMやPERTがよく使われていますが、不確実性が多くなっている昨今、この不確実性をどのように管理するかが重要となります。
その中でもクリティカルチェーンを用いた工程管理は非常に有効だと思います。本ブログに加え、先にあげました本などを参考に、自らの業務に適用してみてはいかがでしょうか。