Unforeseeable Physical Conditionsとは
予見不可能な事象(Unforseeable Physical Conditions, “UFPC”)という概念は、FIDICの標準契約約款において使用されているもので、過去から議論されてきた重要項目となります。FIDICの標準契約約款には
In this Sub-Clause, “physical conditions” means natural physical conditions and physical obstructions (Natural or man-made) and pollutants, which the Contractor encounters at the Site during execution of the Works, including sub-surface and hydrological conditions but excluding climatic conditions at the Site and the effects of those climatic conditions.
If the Contractor encounters physical conditions which the Contractor considers to have been Unforeseeable and that will have an adverse effect on the progress and/or increase the Cost of the execution of the Works,
とあり、最初の条文にありますように、気象条件やその影響を除いた自然もしくは人工による物理的条件をPhysical Conditionsと読んでおり、インフラ事業でその最たるものがSub-surface Conditions、つまり地質条件、水力を含む河川工事ではHydrological conditions、河川の流況が重要な項目になってきます。
更に、こうした事象が誰の責任になるかについては、次項が重要であり、経験のあるコントラクターが予測できな事象であったと判断されて初めて、コントラクターにExtention for Time Completion(”EoT”)及び追加コストをクレームする権利が発生します。
UFPCに関する運用
ただ、上記だけを読んでいても実際の契約の運用はうまくいかず、その基本概念から派生した経験や通念化した常識によって支えられているルールによって実際は運用されるからです。これは、運用の時もそうですが、契約書を作成する際、また契約を交渉する際にも重要なポイントです。
UFPCは工事の全体現象として認められるのか、自然の一部の現象には適用しないのか、などの補足条件が設定される必要があります。そもそも、このUFPCは非常に広い概念であるため、発注者、請負者のいづれのリスクを限定するのかということが非常に重要となってきます。発注者の立場の場合、工事にかかるUFPCはコントラクターがとるべきとして契約条件に書き込んだうえで、発注者が取るべきリスクは何かを考え、UFPCの定義を設定していきます。一方、FIDICはこのリスク分担が逆になっておりますが、工事現場において、そのリスクを管理できるのは、コントラクターであることを考えると、発注者が取るべきリスクを限定する方が公平のように思います。
地質に関しては特にその判断に関して紛争や裁判になることが多かったため近年では、Geotechnical Basement Reportなる基準図書を定め、これをもとに、予見可能であるかどうかを判断する契約が多くなっています。詳しくは下記の本が参考になろうかと思います。
Geotechnical Baseline Reports for Construction: Suggested Guidelines
Randall J. Essex
UFPCに遭遇した場合の認識
次に重要なのが、UFPCという条件に遭遇していると認識できるのは、コントラクターだけであり、コントラクターが自覚しなければ、誰もそのような指摘はしてくれません。つまり、クレームとはその損害の回復を求める行為ですので、仮に発注者側がUFPCの一部を負担したとしても、その自覚および理由が明確に示されなければ、コントラクターはクレームできないということになります。この点は、双方にとって重要であって、発注者の観点からすれば、むやみにクレームがなされないように、双方が合意しているForeseeable Physical Conditionsを決めておき、そのうえで、請け負うべきリスクを定め、そのリスクに至っているかどうかの証明をコントラクターに求めるように契約書を作成する必要があるのです。残念ながら、FIDICはそうはなっておらず、あらゆる場面でクレームができる記載となっています。契約するまでは、入札者、つまり請負者(コントラクター)は弱い立場ですが、いったん契約してしまうと、通常、コントラクターは強い立場なるので(工事を止められると、事業が成り立たなくなる)、しっかりと契約書で義務を定めておく必要があります。日本では、甲乙の関係があって、コントラクターは発注者にものを言いにくく、お願いするといった関係になっていますが、国際契約では、契約書が書いていることがすべてであり、決して日本のようなことにはなりません。
経験のあるコントラクターであれば、工事期間中にわずかでもUFPCと認識すればクレームを出してくるはずであり、契約書上のEmployerもしくはEngineerはその正当性について、タイムリーに判断していく必要があります。UFPCの判断基準としては、Experienced Contractorがforeseen(予見)できなかった事象とありますが、契約書上では、「入札(契約)図書に記載された条件と現実に遭遇した条件との差異のある現象」と判断されるため、発注者としては、UFPCのうち、発注者が負担する事象は明確に記載しておく、また合意しておくことが重要となります。