記事:停電が生じた2021年2月15日以降の記事
テキサス停電の時系列と状況
2021年3月1日に読売新聞より、「再エネ依存 危うさ露呈…米テキサス停電 風力割合20% 全米の3倍」と題する記事が出されました。実際、再生エネルギー導入が全米で極端に大きな2州カルフォルニア(2020年夏)、テキサス(2021年冬)において、大規模な停電が生じています。
source: US Energy Information Administration
実際に、停電が生じたのは2021/2/15 1amであり、その直前の2/14 9pm頃に、大統領令として、ERCOTが要請していた環境基準を超える発電の実施許可が下りています。そこのころには、既に需要と供給がギリギリの状況となっていました。
その後、需給のひっ迫により2月18日まで断続的な停電が続き(図3)、一時期は9,000USD/MWh(約900円/kWh)の上限値の値が付くなどの状況が生じましたが、2月20日にはひと段落が付いたという状況でした。その時には、逆には逆に全体の電力需要が一気に緩み、電力市場価格が-32USD/MWh(約-3.2円/kWh)つくなど、電力市場が完全自由市場であるテキサスならでわの状況となっていました(図4)。
こうした中、様々なメディアにおいて、テキサスの停電の理由が挙げられていますが、主としては次のような視点のいづれかで書かれています。
- 再エネ電源の占める割合が多く、また冬季に期待する出力が出せなかった
- 多くの供給設備・インフラが冬場の十分な対策が取れていなかった(休止及び補修を冬に実施したことなども含む)
- ガス火力の割合が高く、冬季の暖房需要と重なって、燃料確保ができなかった(天然ガス需給ひっ迫)
- ERCOTは他の送電網との連携が少なく、電力融通が不十分であった
- 最も自由市場が進んでおり、電力供給安定への投資が少なかった
別の投稿記事においても、原因を考察した記事を記載していますが、そこでは②、③、⑤を原因として指摘しております。
その後、様々な記事が出ていますので、各記事がどういった視点で書かれているのかを、簡単にまとめたいと思います。新聞記事の場合、主張したい話の流れで原因を強調していることが多いように思います。電力は生活必須品であり、代替が効かないことがおおく、停電や高騰は複合的な原因で生じることが多いと思います。そこで一度ここでまとめておきたいと思います。
視点1:再エネ電源の占める割合が多く、また冬季に期待する出力が出せなかった
比較的初期の段階でも述べられ、またこの政策のために、有用な火力発電所が廃止してしまった点を挙げている。
- 2月23日 記事 Houston Chronicle .com What went wrong with the Texas power grid? (houstonchronicle.com)
- 2月23日 記事 NTD Energy Expert: Pro-Renewable Energy Policies Contributed to Texas Blackouts (ntd.com)
- 2月26日 記事 日経ビジネス 「4500基の洋上風力」が並ぶ日、再エネの理想と現実:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
- 3月1日 記事 読売新聞 再エネ依存 危うさ露呈…米テキサス停電 風力割合20% 全米の3倍 : 経済 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
SNS等でも盛んにあった議論だと思います。実際、この停電の時には出力が極端に低下しており(図5)、災害や厳しい気象の条件では供給力として期待ができていません。確かに今回のテキサスの停電は、再エネが発電できなかったことが主要因ではなかったかもしれませんが、一因であるとデータから言えます。今後、更に再エネの導入量が増え、火力発電所が廃止されるとなれば、再エネが出力が出せずに停電が起こる可能性はあると思います。テキサス以外の寒い地域では、結局石炭火力などの化石燃料火力があったおかげで停電を回避しており、「化石燃料火力発電が動かなかったから停電が起こった。よって再エネに問題はない。」という論理は、一面的にしか今回の事象はとらえられていません。
視点2:多くの供給設備・インフラが冬場の十分な対策が取れていなかった
これは、数多くの記事で指摘されている点で、視点5とも関係します。つまり、冬場の需要増加、停電の可能性を想定して、企業が十分な投資を行ってこなかったという点です。しかし、企業は供給に責任はあっても、想定以上の事象に対して、責任はないため、必要以上の投資は行うとは思えません。
- 2月15日 記事 Business Insider テキサス大寒波で電力卸売価格が急騰…電気代が5日間で50万円以上に
- 2月18日 記事 New York Times ”A Plan to Future-Proof the Texas Power Grid“
- 2月26日 記事 CNN CNN.co.jp : 電気代100万円請求された女性、電力会社を提訴 寒波襲来の米テキサス州
視点3:ガス火力の割合が高く、冬季の暖房需要と重なって、燃料確保ができなかった(天然ガス需給ひっ迫)
寒さにより、暖房需要が増加したことにくわえ、急遽運転が可能である発電所がガス火力しかないために、更にガス需要が増えました。しかし、ガス供給設備が寒さによるトラブルで十分に稼働しませんでした。
- 2月18日 記事 Wade Schauer “The latest Polar Vortex resurrects the fuel diversity question as the US pursues decarbonization“
- 2月19日 記事 EIA Extreme winter weather is disrupting energy supply and demand, particularly in Texas
視点4:ERCOTは他の送電網との連携が少なく、電力融通が不十分であった
この観点は比較的素人にわかりにくいためか、また他州もひっ迫していた事実もあってか、ほとんどの記事では見受けられない視点です。専門家や事情をよくしっている人はこの点を挙げていますが、付近のMISOやSPPにおいても緊急宣言されていましたので供給には寄与しなかった可能性もあります。ニューメキシコの発電会社では緊急に石炭火力を立ち上げて急場をしのいだようです。
3月2日 記事 Utility Dive Texas must increase ties to the national grid and DER to avoid another power catastrophe, analysts say | Utility Dive
視点5:最も自由市場が進んでおり、電力供給安定への投資が少なかった
この視点だけを述べている記事は少ないですが、他の原因は、この点とつながっているとする記事が多いように思います。
- 2月16日 記事 Houston chronicle .com What went wrong with the Texas power grid? (houstonchronicle.com)
- 2月16日 記事 The Economist How America can rid itself of both carbon and blackouts
- 2月25日 記事 The Wall Street Journal テキサス州住民、電力自由化で料金負担280億ドル増加 – WSJ
- 2月26日 記事 日経経済新聞 米南部の大寒波、電力信用危機に: 日本経済新聞 (nikkei.com)
現状のテキサスにおいて、火力発電所を有する企業が、設備更新や強化のために投資をするインセンティブがなく、テキサスにある発電設備の多くが、苛烈な環境や事象に対して脆弱であり、今回の停電が、複合的に生じたものと思います。
考察
今回、2011年でも同様なことがおこってにもかかわらず、ERCOTが努力してこなかったとの指摘もあるものの、ERCOTの検証資料によると、2011年以降、対応はしてきたとの主張です。
これが本当かどうかなどは今後の検証事項だと考えられますが、いづれにしろ、再エネが大量投入され、平時の電力費用が低下したことで、多くの火力発電所が閉鎖されました。非常時やひっ迫時の電源としての火力発電所は、電力価格スパイク(高騰)を狙った電源として温存されることはあるかもしれませんが、今回のようなケースを想定して、電源を確保したいり、燃料を大量に確保することは、民間企業では難しいと考えます。実際、燃料費用も今回の需給ひっ迫で信じられないほどの価格を付けていました(平時の数百倍)。
更に、テキサスでは容量市場もないため、なおさら予備力のために、発電所を存続させることはないと思います。
日本でもこうした議論を現在実施していていますが、再エネの大量投入は送電網への影響だけではなく、様々な供給システム維持に影を落とす可能性もあり、電力供給の安定性、ひいては電力費用の安定させるための市場制度の議論が望まれます。
下記の図書は、素人でもわかりやすく電力システムについて説明してあります。参考にされてはどうでしょうか。
岡本浩