リスク管理

スポンサー 間での協定書(パートナーリスク)

概要

パートナーリスクとは、事業開発を行う スポンサー の遂行能力に関するリスクとなります。プロジェクトがうまくいかない理由の一つとして、このプロジェクトリスクは決して小さいものではありません。

スポンサー が複数存在する場合、事業開発協定を締結して事業開発を進めるのが一般的です。その中で、費用分担や役割など、事業を進めるうえでの取り決めを決めておきます。その後、事業性を確保し、種々の許可などを得て、実際に事業を開発する段階となると、プロジェクトファイナンスに関わる契約の借入主として、特別目的会社(Special Purpose Company:SPC)を設立することになります。そのSPCを設立にあたり、 スポンサー 間で取り交わす契約がStakeholder Agreement(SHA)となります。

借入主であるSPCが事業の全面に立つとしても、自体は親会社である スポンサー の技術力や財務能力、経営能力にプロジェクトが左右されることは多いです。したがって、 スポンサー は実施する事業分野における豊富な経験・知見が求められます。更には、プロジェクトに問題が生じる、可能性がある場合には、それがサポートできるような十分な信用力が必要となります。再エネ電力事業のように、建設工事が複雑で、また事業としても長期である場合、 スポンサー が事業経験を有しているかというのは、信用力のうえで、重要となります。

大型プロジェクトでは、多様な スポンサー 、海外事業であれば、様々な国籍の企業が参画することが考えられます。アジアをはじめとする発展途上国でのプロジェクトになると、現地企業が スポンサー になることも多く、これらの企業は事業実績や財務力が外国企業に比べると劣ることもあります。そうした場合は、他の スポンサー に履行補償が求められることもあります。

そうした様々な想定されうるリスクをできる限り明記するとともに、対処方法を事前に規定しておくことが重要であり、そうした決め事をSHAに記載していくことになります。

Shareholder’s Agreement

スポンサー 間の取り決めとしては、出資額に関わる事項、会社経営に関する事項、利益の配分に関わる事項、紛争解決事項などであり、いづれも スポンサー 間で生じる可能性のあるリスクを事前にどのように解決するかを記載していきます。

出資額に関わる事項

SPCを設立にあたり、各 スポンサー がどの程度出資するかを規定します。プロジェクトファイナンスにおいては、 スポンサー のプロジェクトへの取り組む姿勢を示すものであり、出資金の多寡とその払込時期について、レンダーから種々に条件が付くことになります。レンダーにとっては、プロジェクトを安易に放棄されては困るために、こうした行為を規制するように スポンサー に求めることが多く、それらの条件をSHAにも反映させる必要があります。つまり、プロジェクトを放棄した場合、そのコストを大きくするために、出資金をできるだけ早い時期に注ぎ込むことが要求されることがあります。 スポンサー 側の立場では、その反対でリターンを高めるために、融資額を大きく、また振り込み時期を遅らせることを志向します。

プロジェクトファイナンスでは、出資額と融資額の合計が事業費となりますので、事業費や融資割合の確度が高い場合は、各 スポンサー の出資額を想定しやすいですが、そうでない場合は、最大出資額は多めに想定したうえで、SHAにおいて取り決めしておくことが望ましいと考えます。さもなければ、SHAの改訂を行わなくてはならなくなります。

次に、 スポンサー 間の出資割合ですが、これは株主総会における議決権の割合にも通じ、出資額を スポンサー 間でどの程度の割合で振り込むかを定めることになります。出資割合が大きな スポンサー は当然、議決権や発言権を有することとなり、プロジェクトの牽引役となります。出資比率が50%を超える場合、連結等、会計上・税務上の規制を受けることになるとともに、プロジェクトファイナンスのオフバランス化ができなくなるので、50%以下にするのが一般的です。

プロジェクトファイナンスにおいて、出資額を小さくすることは、 スポンサー にとって有利であり、再エネ発電事業では収入の蓋然性が高いことが多いため、出資金と借入金との比率は、20~30:80~70が一般的であり、出資金の支払いは、それぞれの比率に応じてプロㇻタで同時に行われることが多くなります。もちろん、それらの条件はプロジェクトのスキームや スポンサー の信用力によって変わることは指摘しておきたいと思います。

会社経営に関する事項

会社経営に関する事項として、株主総会における議決事項、会社運営者の氏名や権限付与、利益相反に対する処置などがあり、株主である スポンサー によるSPCへのかかわり方にも通じます。

利益の配分

SPCはプロジェクトから生み出される利益を配当として スポンサー にもたらすことが使命でし、その利益配分について明確に規定することが重要となります。配当以外にも、ファイナンシャルクローズにともない各社に対する開発費や成功報酬の支払いについても記載する必要があります。

例えば スポンサー がコントラクターになる場合も少なくなく、こうした場合はSPCと利益相反になる可能性が考えられます。その場合、議決権が制限される、利害関係者は株主総会や取締役会の議決にも参加できず、また定数にも含まれないなどが考えられます。

紛争解決

複数の株主がいる場合、デッドロックと言われる均衡状態が生じる可能性があります。こうした場合における紛争解決に関する規定や、スムーズに撤退ができるようにする株式の売却に関する規定などをさだめます。例えば、デッドロックが継続すると、プロジェクトの進捗が止まる可能性が高まり、SPCにとって非常に好ましくない状況であるため、これを解決する方法としても撤退がスムーズにできることは望ましいといえます。既存株主が先買権(First Refusal Rignt)を持つなどがその方法の一つです。

また少数株主にとっては、自らの権利を守るために、重要項目に関して全会一致にすることが考えられます。

まとめ

スポンサー に関するリスクを回避するためには、各 スポンサー に期待する役割を明確にしたうえで、各社の信用力を十分に確認しておく必要があります。

そのうえで、SPC設立前は事業開発協定書、SPC設立に際してはSHAを締結することで、予測される事態、その解決方法を明記していくことが、パートナーリスクの回避、低減につながることになります。また、SHAのような企業活動・組織・運営に関する英文契約に関して、話題が豊富でかつ分かりやすい図書を如何に紹介しておきます。

ABOUT ME
Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など