記事:Popular Science, 2021/4/14, “This century-old technology could be the key to unlocking America’s renewable energy future”
再エネ 大量導入を予定している アメリカ において、揚水発電 が果たす役割に関する記事がありましたので紹介いたします。
Goldendale 揚水発電 プロジェクトの概要
コロンビア川 渓谷東部近郊があった山々に沿って、Shepherd’s Flatウィンドファームの338基のタービンが順風で旋回し、200,000もの オレゴン州 の家に電力を供給している。これは、化石燃料 からの脱却を目指す他の地域と同様に、太平洋北西部の 電力網 ( Pacific Northwest )において、大量の 太陽光 発電に加えて、風力 発電にこれまで以上に依存するようになっている。
風が吹き、太陽が照っているときには、電源として申し分ないが、 シアトル の霧雨の通りを歩いた人なら誰でもわかるように、いつもそうした状況を期待することはできない。 カーボンフリー な電力を円滑で自由に供給するために、 電力網 には膨大な量のエネルギー貯蔵を必要とし、予測としては、2030年において カーボンフリー を100%にするという目標を達成するために バックアップ の貯蔵量として10,000MWの容量が必要となる。
そうした中、オレゴン 州ポートランドの東約100マイルにある コロンビア川 渓谷において、 揚水発電 というローテクを使って、Copenhagen Infrastructure PartnersとRye Developmentがその不足分を補うことを計画している。施設の広さは、650エーカーである。
揚水発電 という技術は、もともと 石炭火力発電 や 原子力発電所 からの 余剰電力 を保持するために使用され(両電源は、ベースロード発電であり、停止をほとんど行わずに電気を発生させることを基本としているために、需要が少ない際には余剰電力となることが多い)、上池に、電力網 上の 余剰電力 を使って 下池 から水を上げて貯留する。電力網 で追加電力が必要な時に、水を上池から 水力発電 タービンを通して放流して発電する。形式としては、貯水池の一方、または両方に河川( Open Loop )を使用するものと、河川内には建設しない貯水池( Closed Loop )の間で水を循環させるものがある。
このような 揚水発電 という技術のおかげで、アメリカの23,200MWの エネルギー貯蔵 容量の約95%を補うことができている。しかし、電力消費が増え、停電の頻度が増するにつれて、州間の 電力網 を支えるために、大小を問わず 揚水発電 を増やす必要がある。
今回の 揚水発電 所を建設するには、建設開始前に1つの最終許可を受ける必要がある。Copenhagen and Rye’s Goldendale Energy Storage Projectは、この地域で最大の開発であり、最大出力で稼働する約500基の 風力 タービンに相当する、最大で20時間、1,200MWの 電力 を供給することができる。一方、全国各地で 電力網 に接続されるようになったバッテリー貯蔵で、4時間以上の間、100MW以上の電力を供給することは難しく(ニューヨークの事例)、現状では費用体効果が優れていない。 揚水発電 の場合は、貯水池のサイズによって、その発電可能時間や出力が決定される。
こうした中、2028年に運転開始になる予定のこのプロジェクトは、米国で数十年ぶりに建設された新しい 揚水発電 所の1つでもある。他の州の建設は、高い資本コスト、環境問題、その他の貯留技術との競争によって長い間停滞してきた。しかし、脱炭素化の緊急性が再燃したことで、 揚水発電 所が再び脚光を浴びている。ボイシ州立大学エネルギー政策研究所のStephanie Lenhart氏によれば、「低炭素化と方向性が合っている。石炭や原子力発電所を支援するために開発されたこの技術が 再エネ によって復活しようとしている。」
揚水発電 のように古いものがよい
そこに多くの新しい 貯蔵技術 (記事:An All-Liquid Battery For Storing Solar And Wind Energy)とは異なり、 揚水発電 は長い間使われてきた。実際、1929年、Popular Scienceは、コネチカット州ニューミルフォードのフーサトニック川のすぐ近くにある「10マイルの蓄電池」である同発電所を取り上げていた。その記事を書いた著者は、現在も運用されているその発電所は、当時の国内のすべての自動車バッテリーよりも多くのエネルギーを貯蔵できると聞いて驚いていた(図3:当時の記事)。
現在、米国には22,000MW以上の 揚水発電 容量があり、これは最大出力で発電する約9,000台の 風力 タービンと比較される。これらのシステムの大半は、原子力による過剰な電力を無駄にしないように、1970年代と1980年代に建設された。米国エネルギー省の2016年水力発電ビジョンレポートによると、 再エネ の成長率に応じて、その容量は2050年までに2倍以上になる可能性がある。この1年で、連邦エネルギー規制委員会は、電力不足のロサンゼルス市がフーバーダムに技術を追加する数十億ドルの提案を含む、30,000MW以上の 揚水発電 プロジェクトに対して予備許可を与えた。
これらのプロジェクトのいくつが実際に建設されるかについては言うのは時期尚早であるが、許可の急増は、市場が エネルギー貯蔵 の価値を認めつつある可能性がある。米国エネルギー省の再生可能電力担当副次官補Alejandro Moreno氏は、「 揚水発電 に多くの関心が集まっている。規制当局からこれらの資産の価値について確認しているところだ。」と述べた。
この技術が米国で復活する可能性があるという兆候は他にもある。昨年末(2020年12月)に国家支出法案が可決される中、議会は今後5年間で エネルギー貯蔵 分野の研究開発に10億ドルを投入した。そして昨年、水力発電会社と環境保護主義者の連合は、 揚水発電 開発は、Closed loop形式で、既存のダムの改造により実現する場合には両者の意見が一致すると述べている。
更に、解決すべき課題はあるものの、将来は小規模な(ギガワット未満を考える)プロジェクトに関心が広がるかもしれないと、オークリッジ国立研究所の水力技術研究プログラムを管理するBrennan Smith氏は述べている。これには、地下に水を押し込み、その結果得られた圧力を使用してタービンを回転させることによってエネルギーを得る新しい設計が含まれている。
「新しい設計は、 揚水発電 を異なる電力網の要求に適用できる。非常に柔軟に電力を供給することができ、以前よりも更に多様な技術だ。」とエネルギー研究者のレンハートは述べている。
揚水発電 による脱炭素化の深化
「すべての革新をもってしても、 揚水発電 は依然として、米国における財政的および政治的な障害に直面している。」とSmith氏は述べている。
揚水発電 は、非常にコストがかかり、建設まで10年以上を要するため、魅力的な投資とはいえない。新たな計画はこうした問題に一部は対応できるかもしれないが、地理的制限や環境への影響については依然残っている。例えば、Goldendaleプロジェクトでは、Yakima民族と環境団体から反対をうけており、文化的に重要な場所や近くの黄金のワシの生息地を脅かすのではないかと懸念を示している。
揚水発電 は、今後価格が低下するとされる リチウムイオン蓄電池 と競合することになり、蓄電池はどこでも設置することができるうえ、短い時間帯における市場バックアップ容量としての価値がある。アメリカにおける 電力網 では 風力 と 太陽光 が占めるようになってきたが、「確実性及び収入を約束する資金調達システムがなければ、長期間の貯蔵が構築されるのは難しい。」とMoreno氏は述べています。
しかしLenhart氏は、「ある一定の 再エネ の普及率、約80%、それは電源の組み合わせによるのであるが、 蓄電池 が供給できる短い期間の容量だけでは 電力網 を支えるには十分ではない。」と主張している。非常用電力を供給する電解質の巨大なタンクを有する フローバッテリー や、余剰な 再エネと水から カーボンフリー燃料 を生成する グリーン水素 など、長期間にわたって エネルギー貯蔵 を提供できる新しい技術が想定されている。
しかし 揚水発電 は、現時点で唯一の長期間電力供給できる電源であり、それは100年の運用実績が証明している。Lenhart氏は、「その時点で、風がない期間、夜を通して、またその両方の期間において、容量と安定性がある 揚水発電 が必要になるかもしれない。」と述べている。またLenhart氏は、「今、投資を始めるために何かをしなければ、電力が必要なときにはありません。」とも述べている。
考察
オーストラリア においても、Kidston金鉱山の跡地を利用した 揚水発電 プロジェクトがファイナンシャルクローズを迎えました。
未だ詳細なスキームは不明ですが、政府が後押しする形で、 揚水発電 事業が成立するようになってきたようです。大量の 再エネを導入するにあたっては、過剰な 再エネ による電力をどのように貯留し、不足するときにどう補うかは目の前の問題であり、未だバッテリーでは対応できないのが現状です。一方、 揚水発電 所は ローテク であり、また新たな技術としての 可変速 揚水発電 が追加されています。
今後も、欧米を中心に、新規プロジェクトが開発されるかと思いますが、一つのキーワードとして、既存ダムや既存の炭鉱などを使って、環境負荷を抑えるということがポイントとなってきそうです。