AGL Energy の買収提案に関する概要
2022年2月20日に、カナダの大手アセットマネジメント会社のBlookfieldとオーストラリアのTech大手Atlassianの創業者Mike Cannon-Brookesが、豪エネルギー大手である AGL Energy に対して、買収の提案を行いました。内容的には、A$7.16の株価に対して、約5%のプレミアムを付けたA$7.5、総額で8 Billion USDの買収額で、大きなポイントとしては、 AGL Energy が有する石炭火力発電所の早期廃止になっています。
本件は、オーストラリアという資源大国がどのような方向に向かっていくか、非常に興味深い案件です。リチウムなどの鉱山会社も絡み、若干、新しき権益の人々と旧権益との人々による、電力というエネルギーを中心とした綱引きの体があり、中止していきたい案件となります。次の記事は、本件に関する2022/2/21時点での状況を伝えるものであり、過去の状況もわかるため、取り上げたいと思います。ただ、再エネよりで AGL Energy に対しては批判的ですので、それも踏まえて読んでみてください。
記事:Renew Economy, 2022/2/1, “Cannon-Brookes’ unstoppable billions pierce the bubble of fossil fuel denial”
背景
大富豪であるMike Cannon-Brookes氏とカナダの巨大ファンドであるBrookfieldが提示した AGL Energy に対する巨額の買収提案(8 Billion USD)は、非常に驚きな出来事であった。
2か月前、オーストラリアのエネルギー市場運用者であるAEMO(”Australian Energy Market Operator”)は、2032年までに国の全ての褐炭用の石炭火力発電所を閉鎖することを前提とした将来数十年に向けた計画を発表した。
その「段階的変化」シナリオは、エネルギー業界の利害関係者の圧倒的多数(70%以上)によって支持され、水素超大国シナリオと呼ばれるものもと、その時点までに全ての石炭火力が閉鎖される可能性が高いと、その1/4近くが考えている。
理由は単純である。技術にかかる費用は急速に下がっており、伝統的なビジネスモデルに挑戦してる。異なる形式の系統用に設計された数十年前の機器は、急速にその価値を失いつつある。こうした中、エネルギー転換に足りないものは、移行を実現するために必要な資本であった。
買収提案が起こるまでの状況
Cannon-Brookes氏とBrookfieldは、科学者が言うよりも少なくとも10年長く、汚染度の高い褐炭石炭火力発電所を稼働し続けることができるし、アナリスト達はそちらの方が財務的に件名であるという空気のもと、囲まれた化石燃料産業の壁を越えて AGL Energy に対する買収を働きかけ、こうした勢力を打ち負かすことに貢献している。
Cannon-Brookes氏の申し出に対する AGL Energy の頑固な反応ほど、強い拒否反応はない。AGL Energy 側は、買収額が低すぎると述べた。更に、自分たちの良いタイミングで生まれ変われると主張している。これは、会社を緑から黒に変え、今は会社分割に直面している会社から出てきた意見である。
それはまるで AGL Energy が、捕虜となった規制当局やイデオロギー的な政治的利益によって緑の勢力から保護された、一種のエネルギーの泡の中で活動しているかのようである。しかしながら、その泡は今や破られようとしている。
AEMOの「段階的変化」シナリオの最大の批判者は、 AGL Energy 、Trevor St Bakerなどの化石燃料に対する楽観主義者、連邦連立政権やその技術大臣であるAngus Taylorである。オーストラリアのエネルギー規制当局でさえ納得していない。
しかし彼らは、技術の変革とグローバル資本の力について議論する能力はない。オーストラリアでは、Cannon-Brookes氏と鉄鉱石の億万長者Andrew Forrest氏がオーストラリアのエネルギーの方向性の議論を変えた。
オーストラリアのエネルギー界における新勢力
Cannon-Brookes氏とAndrew Forrest氏は協力して、Northern TerritoryのSun Cableで世界最大の太陽光および蓄電プロジェクトを立ち上げた。Forrest氏は、グリーン水素とグリーンアンモニアに対する野心的なプログラムを展開しており、これまでにはないような目標を宣言した。
Cannon-Brookes氏はこれまでとは異なった戦術をとり、エネルギー業界を徹底的に攻撃し、最大のプレーヤーと最大の汚染者を孤立させようとしている。買収提案が成立した場合、彼はオーストラリアの電力系統において、脱炭素化の先駆者となるだろう。更に彼は、それが2035年までにできると考えている。市場や他の多くの専門家も同様に考えている。
Forrest氏とCannon-Brookes氏は両社ともに莫大な富を有しており、産業界であろうと政治界であろうと、現職の人々と戦うことを恐れていない。次もゲームチェンジャーの一つであるが、Cannon-Brookes氏は公で、Scott Morrison氏が石炭とガスを説明する際に、”Fair Dinkum Energy“、つまり「本物のエネルギー」という言い方は意味がないと指摘している。
Forrest氏は、Scott Morrison首相に太陽光発電設備を訪問させることができる唯一の人物であるが、彼は化石燃料プラントや化石燃料に関する偽善に対して必要に攻撃している。彼は、オーストラリアが将来「水素超大国」になることを確信している。
将来のオーストラリアの電力系統
1兆ドルのファンドである Brookfieldにおけるエネルギー転換セクターの長は、イングランド銀行の元総裁であるMark Carney氏であり、エネルギー転換は我々の生涯で最大の投資機会の1つになると述べている。更に、「エネルギー市場と経済の脱炭素化を推進するには、2050年までに世界で150 Trillion USD以上を投資する必要がある。これは、毎年5 Trillion USDが必要ということを意味している。」と述べている。また、「行動する時が来た。BrookfieldやGrokVenturesなどの投資会社は、資本へのアクセスと、電力市場および再エネにおける深い運用の専門知識と開発能力を備えており、 AGL Energy などのビジネスに大きく貢献し、株主、従業員、そしてより広いコミュニティの利益のために、ネットゼロという希望を達成することに貢献できる。」とも述べた。
これからの課題は、技術や資本へのアクセスではなく、国とそのさまざまな政治、政策、規制機関が共通の目標に向かって取り組む能力であり、可能な限り迅速にネットゼロに到達することである。つまりこれまでは、連邦連合とそれを統合するさまざまな力、および主要な規制機関がこうした取り組みを拒否してきた。
連邦エネルギー大臣のAngus Taylor氏は反射的に反対しており、Origin Energyが、ニューサウスウェールズ州のEraring石炭火力発電所の閉鎖を早急に進めるとしたことに対する最初の反応が、KurriKurriで提案しているガス火力発電所の大きさが計画の2倍になるといって脅したことはなんら驚きではなかった。
Taylor氏が行った政府の介入は、民間による投資を思いとどまらせるには最も効果的である。彼はそれが名誉であると思っているようである。しかし、Taylor氏と彼の支援者は根本的に間違っていると証明された。しかしまだ彼らはそれを理解していない。
そのようにする必要はありません。ニューサウスウェールズ州政府、州の財務及びエネルギー大臣であるMatt Kean氏は、エネルギー転換がどのように行われ得るかを示し、国内最大の電力系統でグリーンエネルギー転換に対する超党派の支援を(彼自身の連合内でさえ)組成した。
Matt Kean氏は、これを実現するための詳細なインフラストラクチャロードマップの概要を説明した。確かに、非常に多くの詳細を検討する必要があり、プログラム全体を加速する必要があるが、彼が考える必要がない課題は、プロジェクトへのアクセス、資本調達である。
電力系統に加えることができる風力、太陽光、蓄電のプロジェクトは150GW以上あり、それは州内の石炭火力に終止符を打つのに必要なプロジェクトの10倍に相当する。ただし、プログラムを調整する必要があり、すべての関係者がその中で役割を果たす必要がある。
である現実は、このエネルギー転換は最も楽観的な現在の予測よりも更に加速するものと考えられる。それはまさに過去20年間に起こったことであり、まさに次の20年間に起こることである。
Cannon-Brookes氏とBrookfieldによって提案された買収は、このエネルギー転換がもはや電力系統とレガシービジネスモデルで行われている小競り合いではないことを意味する。これは内外からの攻撃であり、我々も支援しなくてはならない。これは危機に瀕している我々の未来のことである。
考察
オーストラリアは元々再エネ、太陽光や陸上風力のポテンシャルが高いものの、面積が広く、また石炭産業も盛んであることから、石炭火力の全廃には消極的でした。しかしながら、ネットゼロに対する世論や気候変動が原因とする事象により、より積極的な動きが出ている状況です。
そうした中で、オーストラリアのエネルギー市場運用者であるAEMO(”Australian Energy Market Operator”)が、2032年までに国の全ての褐炭用の石炭火力発電所を閉鎖することを前提とした将来数十年に向けた計画を発表したもので、それもあって、Cannon-Brookes氏とBrookfieldによる今回の買収提案の後押しとなっています(本件に関するCannon-Brookes氏のインタビュー等)。
一方で、再エネを提唱しているのが、リチウムなどの鉱山開発に近いForrest氏であることは見逃せない点であり、再エネが推進されると、リチウムなどの鉱山資源が高騰することになり、同氏には大きな利益がもたらされそうです。
本案件は、オーストラリアという国において、社会実験が行われるかもしれないということで、今後も注目すべき事案だと思います。