ニューヨーク沖 New York Bight エリア 洋上風力 入札
2022年2月25日に、アメリカにおいて、 洋上風力 の開発権をめぐる過去に例を見ない大規模な入札結果が発表されました。New York Bight(ニューヨーク湾)は、ニューヨーク州とニュージャージー州の沖合にある海域で、洋上風力発電開発のために6つのエリアに分割して入札が行われました。
New York Bight内でオークションが行われたのは、488,000エーカー(約1975km2、東京都の約3倍の面積)であり、計画容量は5.6GW〜7GWとされており、200万世帯分の電力に相当します。落札額は4.37 Billion USDであり、1MW当たり最大で約0.8M程度、つまり1万kW当たりが10億円程度の負担金となります。海洋エネルギー管理局(”BOEM”)は、開発計画によっては現在の想定よりも容量を大きくできる可能性があるとしています。
今回の落札者が、EnBWとTotalEnergies(EnBWは落札後に撤退を発表)、ShellとEDF、RWEとUK National Grid、ENGIEとEDP、Invenergy、CIPとなっております。今回、洋上風力大手のOrstedも入札したものの、落札しており、本件に関する同CEOの記事も以下に示します。本ブログでも取り上げましたら、洋上風力のプレイヤーは、欧州事業者、金融プレーヤー、石油メジャーに分かれます。
今回は、欧州事業者でもパートナーリングをして資本金を大きくした企業群、残りは大きな自己資金を有するプレーヤー達が独占しました。日本においても、三菱グループが洋上風力の第一ラウンド入札を総取りしたことからも、資金を豊富に有するプレーヤーが自己資金の力を使ってパワープレーを仕掛けている感があります。
そうした状況に関する2つの記事(入札のポイントのまとめ記事とOrsted CEOインタビュー)を以下に取り上げたいと思います。
記事:Renewable Energy World, 2022/2/28, “New York Bight: 5 takeaways from the record-breaking offshore wind auction”
以下は、New York Bightにおける 洋上風力 リース競売から得られた5つのポイントである。
1. 記録的な落札
New York Bightの 洋上風力 リース競売では、この海域の開発を希望する企業により過去最大 4.37 Billion USD で落札された。
New York Bightは、バイデン政権初の 洋上風力 リース競売であり、米国では2018年以降で初となった。前回のオークションでは、マサチューセッツ州沖の開発権について、個別のリース売却額が135.1 Million USD、オークション全体の総額が405 Million USDとなっており、これまでの記録であった。
ロイターの報道によると、New York Bightの競売で確保された4.37 Billion USDは、「過去5年間に米国のすべての海上石油・ガスリース競売で得られた収入の3倍以上」とのことである。
2. ありがとう、ヨーロッパ
BOEMは、64ラウンドのリース競売の後、暫定的な落札者として6社を発表した。落札企業の国名を見ると、米国 洋上風力 市場への国際的な関心の高さを物語るものである。
落札企業のうち5社は欧州企業であり、欧州の洋上風力発電容量は2020年末時点で25GWに達するが、それ以上に進んでいる市場である。一方で米国では、Rhode Island沖のBlock IslandウィンドファームとVirginia沿岸の試験ウインドファームという2つの小型洋上風力発電設備が稼働しているのみである。
ドイツのエネルギー大手RWEとイギリスの電力会社National Gridが1.1 Billion USD で最も高額で落札した。この2社はBight Wind Holdings LLCを設立し、OCS-A 0539の開発権を獲得した。この地域は、New York Bightの中で面積、計画設置容量ともに最大である。
このほか、EnBWとTotalEnergies、EDP Renewables社とENGIE、ShellとEDF Renewablesなど、欧州勢が落札している。Copenhagen Infrastructure Partners (CIP)は単独で落札した。
CIPの共同設立者であるChristian Skakkebækは、米国の 洋上風力 市場の軌跡を踏まえ、New York Bightの競売を「強力な投資機会」と評価した。CIPは、建設中のマサチューセッツ州沖の 洋上風力 プロジェクト「Vineyard Wind 1」も支援している。
シカゴに本社を置くInvenegyは、欧州のパートナーを持たない米国企業で唯一落札した。
3. サプライチェーンの機会が豊富
米国の 洋上風力 市場が黎明期であるのと同様に、そのサプライチェーンも黎明期である。東海岸の港湾は、急速に拡大する市場のニーズに応えるため、まもなく製造・組立の拠点となることであろう。その際、どのような立場の企業が有利になるのか?
New York Bightが米国最大の 洋上風力 地帯となった今、北東部の各州は東海岸のサプライチェーンの中心となる可能性がある。
ニューヨーク州とニュージャージー州は、すでにBOEMとの間で、今後数年間でサプライチェーンと製造インフラの構築に協力する意向を詳細に示す報告書を発表しており、主導的な役割を果たしている。ニューヨーク州は、 洋上風力 のサプライチェーン構築を支援するために500 Million USDを支出する意向である。BOEMは、 洋上風力 プロジェクトの許可プロセスを改善し、産業界への働きかけを見直すことを約束すると述べた。また、製造部品の国内調達を奨励する計画もある。
ニュージャージー州は、地域の 洋上風力 産業のための人材開発、訓練、研究を促進するために、Wind Instituteを設立する。同州は、 洋上風力 のサプライチェーンへの参入機会に中小企業が参加できるように支援することを目指している。
ニューヨーク州は、 洋上風力 の再エネ証書に対する競争入札において、経済的利益とサプライチェーンの発展を促進すると述べている。
BOEM、ニューヨーク州、ニュージャージー州は、作業部会を通じて、 洋上風力 の相互目標について協業することに合意した。
BOEMのAmanda Lefton長官は、「高賃金、組合員の雇用、地域住民の経済的利益を実現するためには、強固で弾力性のある国内 洋上風力 のサプライチェーンが必要である。」と述べた。「我々は、本当の意味でコミュニティーが参加することの価値を理解しているので、洋上エリアを借用しいている企業にBOEMへの活動の報告を求め、特に、そこから得た情報を将来の計画にどのように組み込んでいくかに注視していく」と述べている。
米国の洋上風力発電のサプライチェーンの一部は、すでに構築されている。全米海洋産業協会のErik Milito会長は、New York Bightの 洋上風力 リース競売の成功により、より多くのメーカーや開発業者がこの市場に参入することになるだろうと述べている。
Erik Milito氏は声明で、「すでにテキサス州で 洋上風力 変電所と風力設置船が、ルイジアナ州で 洋上風力 サービス運用船が、ノースカロライナ州とサウスカロライナ州で送電ケーブルが製造されており、その他に多くの事例がある」と述べている。
Erik Milito氏は、風力発電の税額控除を拡大し、プロジェクトやサプライチェーンのインフラ整備にさらなるインセンティブを与えるよう議会に働きかけた。
4. BOEMが方針を決定
New York Bight 洋上風力 入札に参加した企業は、3日間の過程におけるBOEMの効率性と実行力を賞賛してる。New York Bightは、バイデン政権初の 洋上風力 リース入札であり、今後行われる入札の方向性と期待を示すものであった。BOEMは今後3年間でさらに6件の 洋上風力 入札を計画している。次いで、カロライナ州、カリフォルニア州北部・中部、メキシコ湾、大西洋中部、オレゴン州、メイン湾が予定されている。
オフショア・ウインド・カリフォルニアのAdam Stern事務局長は、New York Bightの競売は、2022年秋に予定されているカリフォルニア州の競売に向けて、「来るべきものを予見する」好材料であると語っている。
5. バイデン氏の目標は手の届くところにある
S&P Global Market Intelligenceによると、2030年までに30GWの洋上風力発電容量を開発するというバイデン政権の目標は、手の届くところにある。洋上風力 プロジェクトのパイプラインは、2030年までに30.7GWとなった。現在41MWに過ぎないが、S&Pのアナリストは、米国の 洋上風力 の設備容量は2025年までに4,733MWに達すると予想している。
2022年1月現在、米国で計画されている 洋上風力 事業者は、Ørsted、Iberdrola SA、Dominion Energy、BPが上位となっている。
記事:Recharge, 2022/3/16, “‘It doesn’t help offshore wind’: Orsted US chief says .4bn New York Bight slows energy transition”
Orsted 北米洋上風力 CEOのDavid Hardy氏は、過去最高額のリース料がコスト上昇を招き、今回の入札が「失敗だった」と述べた。Orsted米国支社長は、2月に行われたNew York Bightの洋上風力 リース競売で4.4 Billion USDという記録的な金額が支払われたことにより、洋上エネルギーの転換に遅れが生じるとともに、 洋上風力 のコストを押し上げることになると主張した。
Orsted 北米洋上風力のCEOであるDavid Hardy氏は、Financial Times紙に対し、米国の業界は地元のサプライチェーンへの投資の必要性と管理コストのバランスを取っていたが、今回の入札は失敗だったと述べた。
Hardy氏は、「(4.4 Billion USDは)業界にとって何の役に立つのか」と述べた。「連邦政府の財源になり、 社会保障費の足しやヨーロッパで助けを必要としている国を守る手助けになるかもしれない。しかし、それは洋上風力発電の助けにはならない。ニュージャージーとニューヨークの 洋上風力 の価格は上昇した。エネルギー転換、少なくとも洋上エネルギーの転換を遅らせることになる」とHardy氏は述べ、連邦海域での入札を管理する海洋エネルギー管理局(BOEM)によるシステムの見直しを求めた。
Orstedの幹部は、米国水域で計画されている最大規模の 洋上風力 をすでに開発しているデンマークのグループが、価格が上昇したためNew York Bightでの入札から手を引いたとFTに語った。
このラウンドでは、RWE、ShellとEDFの合弁会社Atlantic Shores、シカゴのInvenergy、Copenhagen Infrastructure Partners、フランスの石油大手TotalEnergiesが落札し、米国の洋上風力発電セクターにとって過去最高水準のオークションとなった。
3GWの開発を目指すリース区域に7億9500万ドルを支払ったTotalEnergiesのHardy氏は、入札後のインタビューで、支払った金額は国際的な 洋上風力 市場の文脈に沿ったもので、米国の主要2州沖の海底の「戦略的価値」を考えると妥当だと述べました。フランス・グループの米国洋上風力部門責任者であるDavid Foulon氏は、「昨今において、 洋上風力 用地には価値があり、率直に言って国際市場基準で取引されるものだ」と述べた。「2022年現在、洋上風力の場所には、そうしあ価値がある。我々は、それが顧客にとって安い電力価格と見合うものであると確信している。」
Foulon氏は、New York Bightの価格は、今思えば信じられないほど安かった米国沖の初期ラウンドでの結果ではなく、他の大規模な世界的な開発権の入札と比較されるべきであると述べた。「2018年の基準(マサチューセッツ州)を参考とすれば高いが、ラウンド4(昨年初めに英国で行われたリース入札)を参考とすれば高くはない。」とFoulon氏は語った。
Orstedはラウンド4の後、TotalEnergiesを含む勝者が英国の海底に対して支払った価格が高く、英国の洋上風力の価格を押し上げる危険性があると主張し、同様の懸念を表明した。
デンマークのグループの長年にわたる研究開発責任者であったChristina Aaboは、今月のRechargeとのインタビューで、この分野における熾烈な競争は、洋上風力を紙一重のマージンと持続不可能な圧力に直面しているサプライチェーンの底辺への競争へと駆り立てていると述べている。
考察
New York Bightの今回のリース契約以前でいえば、Massachusett沖であり、計画設備容量が2.5GWで、落札金額が405 Million USD、つまり1M当たりで0.16 Million USD、つまりNew York Bightの落札金額は、これの4倍以上となっています。
この3海域では、ノルウェー石油メジャーのEquinor、ShellとEDPの合弁会社Mayflower社、CIPとAvangridとの合弁会社Vineyard社が落札しました。ここでも、石油メジャーと金融プレーシャーという大きな資金を有する企業が落札しています。
これらのプロジェクトはNew York Bightよりも先行して実施されており、その建設の設備として、開発者(EquinorとBP)自ら港湾の増強を実施している点も注目です。というのも、本来は公共が実施すべき事項であるものの、スピード等を考えた場合、実施する企業群で共同出資増強したほうが早く、確実との判断からだと考えられます。そのキックとしては、New York州とのPurchase and Sales Agreement(”PSA”)を2022年1月に締結したことが要因ともいえると思います。
Orstedの北米支社CEOが今回の入札は洋上市場にとって失敗だったと述べる一方、石油メジャーや金融プレーヤーは、洋上風力サイトそのものが価値がある、つまり、不動産や油田と同じような位置づけで見ているようです。ここに、3つのプレーヤー間で洋上風力に取り組む姿勢が異なっており、将来、電力価格が上昇、また顧客が風力などの再エネ電源を求めるようになれば、その価値が上昇すると考えているようです。
今回の記事では、TotalEnergiesのHardy氏が入札結果の正当性を述べていますが、ラウンド4が実施されたときに、トタルのCEOプヤネ氏は、OrstedのHardy氏と同様のことを述べていました。
これは、2022年2月のウクライナ紛争の前後における化石燃料の高騰が、こうした風力サイトもエネルギー価値を見出したうえでの発言かもしれません。いづれにしろ、今後の洋上風力入札では、こうした大資本による獲得競争が行われる可能性があり、今後注目すべき、新たな事象と言えそうです。