PMBOK

PMBOK Guide第7版とこれまでとの違いとは?

PMBOK の変遷

PMBOK は、1996年に初版がリリースされてからこれまでおよそ4年ごとに改訂されてきました。
PMBOK の「知識エリア」と「プロセス群」のマトリックスが完成されたのが2004年にリリースされた第3版であり、その後も修正を繰り返しながら現在に至っています。図1(PM協会さんが作成されており、非常にわかりやすいので参照させていただきました)には、PMBOK の変遷とともに、プロジェクトマネジメントの歴史を示しています。2000年にアジャイルの概念が生まれて以降、 PMBOK は下記の通り変遷(改定)してきたのですが、ウォーターフォール型やアジャイル型など、あらゆるプロジェクトマネジメントの手法が PMBOK に融合するにいたったわけです。

  • 1996年 初版
  • 2000年 第2版
  • 2004年 第3版 9つの知識エリアと5つのプロセス群
  • 2008年 第4版 2プロセス追加、2プロセス削除、2プロセス統合
  • 2013年 第5版 ステークホルダー、マネジメント追加(10の知識エリア)、 5プロセス追加
  • 2017年 第6版 アジャイル開発に関する記述追加、3プロセス追加、1プロセス削除

これに伴い、PMIが提供しているPMPの試験についても大きく変更する可能性が高く、全く第6版がなくなるわけではないのですが、第7版についても十分な理解が不可欠になってきています。

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図1 プロジェクトマネジメントの歴史(PM協会作成)

PMBOK 第7版の主な変更点

PMBOK 第7版の主な変更点はいくつかありますが、私自身が考える主な変更点は以下の通りです。

  1. プロセス重視から原則重視へ
  2. 成果物から価値の提供重視へ
  3. 「知識エリア」「プロセス群」から「原則」「パフォーマンスドメイン」へ、構成の大幅変更
  4. 「インプット・ツールと技法・アウトプット」がPMI Standard+へ

結果として、PMBOK 第6版はプロジェクトマネジメントの原則を達成するための手段となり、第7版に吸収されたともいえるように思います。事項以降に、もう少し詳細に記載していきます。

プロセス重視から原則重視へ

この点に関して非常にわかりやすくまとめているサイトがありましたので、それを参考に下記に記載していきます。

“原理 : 何かがどのように働くか、またはなぜ何かが起こるかを説明する自然界の法則または事実 -Merriam Webster Dictionary”

PMIは、 PMBOK 第7版の開発にあたり、これまでとは明らかに異なるアプローチで改正しています。第6版以前とは異なり、プロセス重視ではなく、原則重視としました。つまり、これまで5つのプロセスを定め、インプット、ツール、テクニック、アウトプットという方法で説明してきましたが、重要なプロジェクトマネジメントの原則を12、定義しています。

原則重視とはどういうことかとですが、第一に、原則を最優先とし、それを達成するために方法があると考えたものです。原則を理解すれば、その原則を達成するためにさまざまな方法を用いることができるようになります。例として、プロジェクトマネジャーがリスク評価の重要性を理解すれば、様々手法(例えば、Probability and Impact Assessment)でリスク分析することができます。

次に、原則は普遍的なものです。「情けは人のためならず」ということわざがありますが、 もし私たちが他人に親切を示せば、他人も親切に応えてくれるので、これは時代や場所がかわっても変わりません。

第三に、原則は数が少なくて済むというものです。何千もの原則があるわけではなく、PMBOK 第7版 において、プロジェクトマネジメントの原則を12しか挙げていません。

最後に、原則を理解するのは、方法よりも時間がかかるかもしれませんが、いったん何がどのように機能し、なぜ何かが起こるのかを理解すれば、その知識を何度も、様々な方法で活用することができるようになります。例えば、複利の原則を理解していれば、時間をかけてお金を貯め、元本と利息を増やしていくことができるでしょう。何かが起こるのかを理解することは、行動を起こす動機になります。

ところで、スティーブン・コヴィー氏が「7つの習慣」を紹介したのは有名な話です。それぞれの習慣は原則です。彼は75の習慣を持たず、7つだけ持っていたことに注目してください。

7つの習慣 人格主義の回復

スティーブン・R・コヴィー

その習慣の1つが 「終わりを意識して始める(Begin with the End in Mind)」というものですが、これはどういう意味でしょうか?これは、毎日、仕事、プロジェクトを、自分の望む方向と目的地を明確にイメージしてスタートして、物事を実現するために積極的に取り組むとともに、継続するということです。

成果物から価値の提供重視へ

概説

PMBOK 第7版では、「価値」とはプロジェクトの成果が、ステークホルダーの利益を獲得するのに貢献することで、ステークホルダーが享受できるものと定義されています。

ここで注意すべきは、価値の捉え方は、ステークホルダーによって異なるということです。例えばある設計会社について考えます。発電所設計において、基準を満たし、かつ納期通りに設計が終了したとすると、社内的にはプロジェクトは成功と言えます。一方、その設計はかなり安全側の設計で、その設計をもとに建設を行うと、想定以上の費用が掛かるとすれば、顧客側にとっては決して成功とはいえないのではないでしょうか?むしろ、設計費よりも工事費が多大にかかり、プロジェクト全体とすれば失敗と言えると思います。このように、プロジェクト目標や要求事項をすべて満たしたとしても、最終的にステークホルダーの利益獲得に貢献していないのであれば、プロジェクトは失敗です。これが価値の考え方であり、PMBOK 第7版が「価値」を成功指標としている意図と言えます。

PMBOK 第7版のうち、「The Standard for Project Management:プロジェクトマネジメント標準」は3章から構成されており、第一章が「概説」、第二章に「価値実現システム」、第三章が「プロジェクトマネジメントの12原則」となっています。このように、「価値」の提供を最終目標としていることから、「価値実現システム」について一章が割かれており、PMIがそれを重視していることがわかります。

価値実現システム

第二章では価値実現システムについて記載されており、大きく分けて

  1. 価値を生み出す
  2. 組織のガバナンス
  3. プロジェクトへの支援機能
  4. プロジェクトの環境

となっています。

1は、ポートフォリオ、プログラム、定常業務などの価値提供コンポーネントとそれぞれの組み合わせやプロセスについて記載されています(図2)。2は、活動の指針となる機能やプロセスを備えたフレームワークを提供するシステムについてです。3は、効果的で効率的に実行するために必要な組織機能についてです。4は、プロジェクトの内部・外部環境についてです。これらを考慮し、バランスを取りながら価値を提供するシステムを構築しましょうという内容となっています。

図2 価値実現システム

まとめ

これまではプロジェクトの成果物を収めることが最重要でしたが、その成果物からステークホルダーが利益を得るのに役立つ、それを「価値」としており、ステークフォルダーごとによってその価値はことなることから、仮にステークホルダーが価値を感じなければプロジェクトは成功したとは言えないと考えるものです。よって、 PMBOK 第7版ではプロジェクトやチームは価値を最大することを求めています。

いかにステークホルダーの声を成果物に反映させるかが重要であって、必要に応じてSOWの記載や品質担保の方法を変える必要がでてきます。正にアジャイル方法の考え方にあたるわけです。

アジャイル 開発についてプロジェクトマネジメントには大きくわけて2つの手法があります。一つは旧来からあるウォーターホール型、もう一つがアジャイル型です。これらに関して、概要を記載しています。...

「知識エリア」「プロセス群」から「原則」「パフォーマンスドメイン」へ、構成の大幅変更

PMBOK第6版と第7版の構成の違いは、図3に示す通りですが、両方ともに大きく2つのパートに分かれています。つまり、StandardとGuideです。名前は同じであるものの、順序として、第7版はStandardが前にきており、これは前述した「原則」を中心としているため、Standard>Guide>Standard+(事例集)という構成になったものと考えられます。

図3 PMBOK第6版と第7版との構成の違い

ただStandardとGuide共に、第7版の内容は大きく変化しています。

まずStandardですが、第6版では「5つのプロセス」だったものが、「12の原則」に変更されています。昨今のDXなどはプロセスベースによるアプローチでは達成できない事象が増えています。これらに対応できるよう原理原則に焦点を当てることで柔軟なアプローチができるようになったというものです。

次にGuideについてです。「10の知識エリア」から「8つのパフォーマンスドメイン」になっています。10の知識エリアを踏襲しており、知識エリアの考え方が完全に無くなったわけではありません。実際は各パフォーマンスドメインに要素として散りばめられています。

「インプット・ツールと技法・アウトプット」がPMI Standard+へ

PMBOK第6版に記載されている具体的な事例は、「PMI Standards+」というデジタルコンテンツプラットフォームに移管されています。随時更新されていくWebサイトに集約されるので、最新情報をいつでも参照できるようになりました。つまり、PMBOK第7版とこのPMI Standard+の併用を前提としており、変化の激しいこの時代、詳細かつ具体的な方法は、WEB上のデータベースにて随時更新、各PMはこれらを参考にプロジェクトを進めるべしという考え方のようです。

図4 PMI Standard+

最後に

以上のように、第7版は抽象的な原則を述べるのみで、これを実現するために、これまでの様々な手法を使おうというものです。よって、第6版は第7版に吸収されたと言える気がします。また、PMI Standard+は、変化の激しい時代、4年ごとの改正では手法が追い付かないことへの新たな取り組みともいえるように思います。

上記は私なりの理解で違いをまとめたものですが、PMI Standard+にも、第6版と第7版の違いについてまとめていますので、参考で図5に添付します。ここには上記の違いにも触れられており、第7版を読むうえでも参考になるのではないでしょうか。

図5 PMBOK 第6版と第7版の違い(PMI Standard+より)
ABOUT ME
Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など