その他

国際 建設契約で代表的な FIDIC 標準約款 とは?

FIDIC 標準約款

日本の ODA や海外での建設工事において、契約を作る際に、 FIDIC (Federation International des Ingenieurs-Conseils)が発行している 標準約款 を基にすることが多いです。

ご存知の方も多いかと思いますが、FIDIC は、英語で” International Federation of Consulting Engineers ”、日本語で” 国際コンサルティング連盟 ”であり、1913年に設立され、ジュネーブに本部があり、世界各国のコンサル、エンジニアリング会社が加盟しています。 FIDIC では様々な形態の 標準約款 を発行しており、目的、また契約スキームによって、使い分けることができます。次に主な FIDIC が発行している 標準約款 の概要を示します。

FIDIC 標準約款 の種類

概要

FIDIC の 標準約款 は、1957年に最初の約款が公表され、以後、概ね10年毎に改訂を行っており、至近では2017年に更新が行われています。この改訂は、18年ぶりであり、特にイエローブックについては大幅な改定がなされています。この改訂は1999年版をベースにしており、過去の不具合やプロジェクトでのベストプラクティスを参考に改訂されていますが、これまでよりも請負側に立った内容となっており、発注者側には不利となります。そのため、 プロジェクトファイナンス で FIDIC 標準約款 をそのまま用いることには難しく、 FIDIC を参考にしつつ、独自フォームを使っていることが多い。

Red Book

Red Bookの概要

Conditions of Contract for Construction for Building and Engineering Works Designed by the Employer ( Red Book )は、請負者が基本、施工のみを担当し、設計は発注者が行う請負契約になっています。日本における 建設契約 スキームに近く、比較的なじみやすい契約条件になっているかと思います。ただ、日本での建設と大きくことなるのは、 FIDIC では Engineer という第三者技術者(コンサルタント)が発注者の代わりに工事監理などを行うという点で、日本の土木工事では、こうした Engineer はおらず、発注者が直接やっていることが多いですが、建築工事などでは、建築士がこの立場に立って工事監理している点は、同じようなスキームといえそうです。ただ最近では土木工事においても、インフラの発注者である国や自治体、また電力会社や鉄道会社など、インハウスエンジニアが減ってきているために、コンサルタントに施工監理を任せるスキームも増えてきているように思います。 Red Book は1987年版が広く使われていたのですが、1999年に非常にシンプルでわかりやすく改訂され、2017年の改訂では、このバージョンを基に作成されている。

詳細については、下記の記事で詳しく述べています。随時更新中で、興味があるかたは、適宜確認いただければと思います。

建設契約 契約条件書 - FIDIC をもとに概説 -建設契約 のうち、 契約条件書 について、 FIDIC をもとに概説。詳細については、別記事、もしくは関連するリンクを添付してデータベース化しています。...

特徴

後に説明する 標準約款 との違いとして、① Engineer の存在、②支払い方法、③ リスク分担 (別の記事にその観点について記載しています)が挙げられる。もちろん、これだけにとどまらないですが、多くの項目は共通であり、②や③に応じて、変更されていると考えるとわかりやすように思います。一般的には、 FIDIC は公平にリスク分担されているといわていますが、Private Companyが発注する場合には、請負者に有利なリスク分担がされています。以下に①、②および③の概要を述べていきます。

Engineerの存在

Engineer は、発注者から起用されて、建設の施工監理や建設監理を行うコンサルタントですが、発注者の権限を持つ一方で、第三者として公平な判断を求められます。設計に基づく請負者への指示や支払い、完成検査に対する証人など、発注者の代わりに行います。また、請負者からの工期延長や追加費用に対するクレームについても、第三者の立場として決定を行いますが、それで解決しない場合には、紛争手続きを行うこととなります。一方、 Silver Book には、この Engineer は出てこず、 Employer (発注者) のみです。理由は、設計も含め建設に関わる責任をすべて請負者が追うため、発注者側が実施しなければならい責任はほぼなくなり、支払いだけになるためです。

支払い方法

Red Book では、工事の支払いについては、数量に応じて清算されます。数量清算方式と呼ばれていますが、設計に基づいて、数量明細書( Bill of Quantities )が作成され、各工事項目ごとに単価( Unit Price )が積算されます。実施した工事数量に基づいて、単価を掛け合わせた費用を決められた期間毎(通常毎月)に支払いが行われるものです。土木や建築工事では、現場の状況、特に地質条件によって、設計や工事数量が変化するため、 Engineer のもと、工事数量が現場で測定されて、それに応じて支払われるというものです。

リスク分担

FIDIC では基本、経験豊富な請負者によって予見できないもの、コントロールできないものは発注者のリスクとされています。予見できないものを、 Unforeseeable Physical Conditions 、コントロールできないものを、Force Majeureとして、いくつかは具体的に定義されています。これに加えて、 Red Book では設計に関わる変更や瑕疵についても、発注者の責任となります。

Yellow Book

Conditions of Contract for Plant and Design Build For Electrical and Mechanical Plant and For Building and Engineering Works, Designed by the Contractor ( Yellow Book )は、請負者が設計及び施工を行う請負契約であり、主にはプラント建設に適用されることが多いです。発注者に起用された Engineer が施工監理および契約管理を行うところは、 Red Book と同じですが、設計は請負者が行います。また支払いは、一括支払い( Lump-sum Payment )である点も Red Book とは異なります。一方で、リスク分担は、設計以外は Red Book と基本的には同じになっています。次に示す Silver Book と同じように思われる方がいらっしゃいますが、大きな違いは、 リスク分担 であり、請負者が行う設計の条件は発注者に責任があり、その条件に変更などの問題が生じた場合は、発注者の責務となります。それに伴う工期延長や追加コストの支払いの権利が、請負者に認められることになります。こうした点が、土木工事が中心となる大型インフラプロジェクトには適しておらず、その最も大きな理由は、地質条件が事前調査と実際とは大きくことなり、工事前や工事中に設計変更が予測され、事前の請負者の設計、またそれに基づいた一括支払いの意味がなくなってしまうからです。この点も解決するために考えられたのが、次の Silver Book となります。

Silver Book

Conditions of Contract for EPC Turnkey Projects ( Silver Book )は、 ターンキー 、発注者はプラントのキーを回すだけ、つまり請負者が設計、施工、調達など、建設にかかる全ての責務を負うという 契約形態 となります。発注者からすると、建設にかかる全ての責務が請負者が負担するために、工事に伴う工事代金、工期など、確実性が高く、仮に状況が変化したり、工期が遅れたりしたとしても、コスト負担、また遅延の保証などが受けれるなど、発注者には多くのメリットがあります。そのため、請負者の負担するリスクが高いため、他の 契約形態 に比べて、 リスクプレミア が高く、請負金額が高くなることとなります。また、こうした契約を受けることができる企業も少なく、企業によっては途中で工事を放棄するなどのプロジェクトそのものが破綻するリスクもあるという点を注意しなければなりません。ただ、 発電プロジェクト (Independent Power Producer, IPP ) などでよく使われる資金調達方法、 プロジェクトファイナンス では、建設時の不確実性から、最も好まれる建設契約における契約形態となります。

最後に

FIDIC 標準約款 は、世界銀行 や JICA などの 国際開発金融機関 が融資を行う インフラプロジェクト でもよく利用されており、特に新興国では、自国の建設契約書が整備されていないことから、そのような傾向があります。上に挙げた3つの建設約款のほかに、 Pick Book と呼ばれる Red Book の Multilateral Development Bank ( MDB )版が用意されています。

FIDIC は一緒の世界標準の建設約款であることから、世界各国で使われており、またこの約款になれた技術者も多いのが特徴といえます。そのため、国際建設契約 を学ぶには、最も参考にできる建設約款だといえます。ただし、 FIDIC を契約に使う場合、 FIDIC 事務局とのライセンス契約が必要となり、1文書ライセンス920ユーロとなっています。ライセンス期間は1年ですが、以後変更せずに使う場合には追加ライセンスは不要ですが、ライセンス付与の年を超えて、変更する場合は、再度ライセンス料が発生することに注意が必要です。

ただ、契約約款には、その中の意味や思想などは記載されておりませんので、その中身を学ぶことはできません。あまり系統的に学べる本があまりありませんが、エンジニアが最初に学ぶには以下の図書がおすすめです。

英文EPC契約の実務

本郷貴裕 (著)

英語が得意な方や建設契約の業務の経験がある方は、下記の本がおすすめです。この本には、日本語版もあり、大成建設で海外プロジェクトに携わり、その後、京都大学の教授をされていました大本俊彦先生が翻訳されています。大本先生は日本では珍しい仲裁士の資格も持っていらっしゃいます。

Construction Contracts Law and management

Will Hughes (著), Ronan Champion (著), John Murdoch (著) 形式: Kindle版

建設契約 法とマネジメント

ジョン マードック (著), ウィル ヒューズ (著), 大本 俊彦 (翻訳), 前田 泰芳 (翻訳), & 1 その他

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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など