建設契約

建設契約 契約条件書 – FIDIC をもとに概説 –

建設契約 契約条件書 について、内容が非常に多いため、順次、内容を追加、更新をしていきます。更に詳細については、別途記事を記載、ページ間リンクにより、相互確認できるようにしたいと思います。

追加・更新
2021/4/10 17.4, 17.5, 18.1
2021/4/13 契約書の構成, 2.1, 8.9
2021/4/18 Contra Proferentem, 8.5
2021/4/21 8.7
2021/5/19 1.1, 1.6
2021/6/26 18.2, FIDIC 2017年版と旧版との違い

建設契約 契約条件書 に関する 全般的な話題

契約書の構成

これは 建設契約 に限ったことではありませんが、 英文契約 には一定の構成があり、大別しますと、「 権利義務 」「 取引条件 」「 一般条項 」に大別することができます。前者2つは、ビジネスモデルに関わってくるものであり、個別で作成、読み込み、交渉を進めていくことになります。

一方、「 一般条項 」は紛争を事前に予防するものであり、一定の分量が必ず 英文契約 には使用されますので、 英文契約 を読む際には必要となる知識になります。よって、この部分を理解しておくと、 英文契約 を理解できるものの、こうした内容については、書籍やブログも多く、ここであえて述べるものではないと思うので、 再エネ プロジェクトでどうしても注意しておくべき点についてのみ、詳しく触れることにしたいと思います。

系統的に学べる本があまりありませんが、エンジニアが最初に学ぶには以下の図書がおすすめです。

英文EPC契約の実務

本郷貴裕 (著)

英語が得意な方や 建設契約 の業務の経験がある方は、下記の本がおすすめです。この本には、日本語版もあり、大成建設で海外プロジェクトに携わり、その後、京都大学の教授をされていました大本俊彦先生が翻訳されています。大本先生は日本では珍しい仲裁士の資格も持っていらっしゃいます。

Construction Contracts Law and management

Will Hughes (著), Ronan Champion (著), John Murdoch (著)

建設契約 法とマネジメント

ジョン マードック (著), ウィル ヒューズ (著), 大本 俊彦 (翻訳), 前田 泰芳 (翻訳), & 1 その他

FIDIC におけるリスク分配の観点

FIDIC は2017年に改訂されています。もともと業界団体(コンサルや建設会社)が作成しているため、最新の FIDIC では 請負者 (コントラクター)
に有利な内容となっています。そのため、このままでは、 プロジェクトファイナンス では使えない 契約約款 となっています。

FIDIC では、 リスク 分配において、 コントラクター はある限定された範囲(図1)のみを リスク 配分され(具体的に FIDIC 上に記載されている)、残りはすべて オーナー という立て付けになっています。つまり、 コントラクター にとっては リスク 評価しやすく、 オーナー 側は非常に広い範囲の リスク を負うことになります。 プロジェクトファイナンス における レンダー の観点は、誰が リスク を保有しているか、どう対処するかであり、建設中の リスク は、請負者が負うべきというのが観点ですので、これでは到底、 プロジェクトファイナンス などは組むことができません。私のような開発事業側の プロマネ を営む身としては、 FIDIC から建設契約を作り始めると、抜本的な修正が必要であり、 Particular Conditions で修正していくのが難しいです。そのため、私が所属する会社では、 リスク アロケーションを FIDIC の反対の立て付け(図2)にした契約書を独自で作成し、そこから コントラクター と交渉することにしています。

再エネ において 建設契約 を策定・契約するには、 火力発電所 でよく使われている EPC Turnkey 契約にて 建設契約 を結ぶことが難しく、 分割発注 により契約することが多くなります。そのため、 リスク 分配をどうするか、 リスク をどう見積もるかが非常に重要で、上記に示した オーナー 側の リスク が限定から始めることがキーとなります。

Contra Proferentem

ある 契約条項 が曖昧な表現がされており,一義的に解釈が明らかでなかったとします。その場合,その条項により利益を受けることとなっている方が,不利益を負うことになるという原則が Contra Proferemtem です。一般には、契約書を作成した側が有利とみなされ、それを受けた側の方が有利に解釈できるというものです。

建設契約 においては、紛争が生じた場合、契約書の条項を受けた側である請負者の方が有利な立場に立つことになります。そのために、曖昧な条項は発注者側に不利に解釈されることになります。つまり、紛争が起こりうると想定される条項については、明確に記載することが重要となります。一方で、それを打ち消す条項を入れるのも一つの方法であり、例えば、下記の通りです。

“This Agreement shall be construed without regard to the identity of the drafter as though all Parties hereto participated equally in the drafting of this Agreement.”
“The parties have participated jointly in the negotiation and drafting of this Agreement and have had the opportunity to review this Agreement with counsel of their choosing.  In the event an ambiguity or question of intent or interpretation arises, no presumption or burden of proof shall arise favoring or disfavoring any party by virtue of the authorship of any of the provisions of this Agreement.”

更には、 請負者 にその十分な精査を求める条項、例えば”The Contractor shall be deemed to have scrutinized, prior to the Commencement Date, the Specifications and Design and undertaken all such dur diligence and made all such inquiries in respect of the Specifications and Design, to the extent expected of an experienced contractor exercising international industry practice”などが挙げられます。

FIDIC 2017年版と旧版との違い

FIDIC 2017年版は旧版に比べて、全体のボリュームが増えています。ここでは2017年版のRed Bookをベースに記載していますが、変更で重要と考えらえる点については、当該の条項で記載していきたいと思います。まず、FIDICとしての基本原則は以下の通りです。

  • 使命、権利、義務、役割及び責任は一般的にはGeneral Conditionsに定義する
  • 明確で、疑義がない記載である
  • リスク分担が公平でバランスが取れている
  • 義務を履行し、権利を行使するのに合理的な時間が与えらえる
  • 紛争に関して、仲裁や裁判の先行条件として、Dispute Boardが一時的な拘束力をもった決定を行う

次に、今回の改訂に伴う思想が以下の通りとなっています。

  • プロジェクトマネジメントのツール及び仕組みを強化する
  • 設計や建設の経験を有する技術者がドラフトする
  • Engineerの役割を強化する
  • バランスのとれたリスク配分を行う、これは当事者間で互恵関係が構築することができることを狙っている
  • 明確さ(Clarity)、透明性(Transparency)、確実性(Certainity)を実現する
  • 最近の国際的なベストプラクティスを反映する
  • 1999年版を用いて生じてきた過去17年間以上の経験を反映する
  • 最も最近作成されたFIDIC標準約款、特に2008年に発行されたFIDIC Gold Bookの内容を反映する

以上が変更全般に伴う内容であり、これを踏まえて変更がなされていますが、重要な変更については、解説とともに記載していきます。

1. General Provisions

1.1 Definitions – 定義

繰り返し使われる言葉で、複数の意味を有する言葉をここで規定しています。定義語は語頭を大文字で表しており、名前等以外で、語頭を大文字で表す言葉は、すべて定義が必要となります。一般的な契約用語は固定ページに記載していますが、ここではFIDICで定義されている言葉の一覧を示します(概訳です)。

単語
意味及び解説
Accepted Contract Amount契約に基づいて工事を実施するために、Letter of Acceptanceに記載された合意金額
Advance Payment Certificate前渡金に関してEngineerが発行する支払い証明書
Base Date契約基準となる日。インフレ条項やその他リスク配分をする際に、双方で決定する基準となる日。
FIDICでは、
Date 28 days before the latest Date for Submission of the Tender
となっており、入札を前提に、提出前28日を基準日として、請負者リスクを下げている。
Bill of Quantities
数量表
Claim
契約に基づいて権利や免除を得るために一方が他方に実施する要求や主張。
Commencement Date
Engineerが発行する告知に係れた日にち。工事の開始日。
Compliance Verification System
契約に基づき作成及び準拠する品質管理のための証明手続き。
Conditions of Contract or these Conditions
契約条件。
Contract
契約、契約関連図書全体。
Contract Agreement
契約合意書
Contract Date
契約合意日
Contract Price
契約金額
Contractor
請負者
Contractor’s Documents
請負者によって準備された文書
Contractor’s Equipment
業務を行うために請負者が必要とする重機やプラントなどの機器
Contract’s Personnel請負者代表、業務を
実施するのに必要な人員及び業務を実施するのを支持するその他の人員。
Contractor’s Representative
請負者の代表者
Cost
請負者が合理的に使った全ての費用であり、利益は除く。
Cost and Profit
Costに加え、契約日に取り交わした利益として比率を加えたもの。特別な記載がない場合は5%を適用する。
Date of Completion
完成証明が発行された日、業務が完了とみなされた日、もしくは成果物が引き渡されたとされた日。
Delay Damage
遅延損害
Drawings
契約に含まれる業務に関する図面。
Extension of Time, or EOT
工期延長
Final Payment Certificate
エンジニアが発行する支払い証明書

1.6 Contract Agreement 契約合意書

概訳

別段の合意がなされていない限り、請負者が 入札受諾書 ( Letter of Acceptance )を受領してから35日以内に、当事者双方は契約合意書を締結しなくてはならない。契約合意書は、特記条件書に添付された様式に基づくものとする。契約合意書の締結に関して課される印紙税及び同様の費用は、発注者が負担する。

請負者がJoint Ventureであるならば、JVメンバーのそれぞれの代表が契約合意書に署名するものとする。

考察

FIDIC標準約款の最後に下記のフォームが添付されています。

  • Letter of Tender
  • Letter of Acceptance
  • Contract Agreement
  • Dispute Avoidance / Adjudication Agreement

Contract Agreementは、公式に両者が合意してことを証明する文書であり、凡その形式は決まっています。

契約合意書 Contract Agreement とはどういった内容か契約合意書 の一般的な形式とその解釈について解説。...

1.15 Limitation of Liability

概訳

いづれの当事者も、他方の当事者に対して、以下に示す場合を除き、工事の使用による損失、利益の損失、契約機会の損失もしくは契約に関連した他方の当事者が被ることのある間接的もしくは派生的な損失、または損害に対して責任を負わないものとする。
(a)8.8 [Delay Damage]
(b)13.3.1の(c) [Variation by Instruction]
(c)15.7 [Payment after Termination for Employer’s Convenience]
(d)16.4 [Payment after Termination by Contractor]
(e)17.3 [Intellectual and Industrial Property Rights]
(f)17.4 [Indemnities by Contractor]の最初のパラグラフ
(g)17.5 [Indemnities by Employer]

下記の条項を除き、契約における、または契約に関連するは発注者に対する請負者の賠償責任は、特記条件に明記されている金額または受諾契約金額(特にその金額が明記されていない場合)を超えることはないものとする。
(i)2.6 [Employer-Supplied Materials and Employer’s Equipment]
(ii) 4.19 [Temporary Utilities]
(iii) 17.3 [Intellectual and Industrial Property Rights]
(iv) 17.4 [Indemnities by Contractor]の最初のパラグラフ

ただしこの条項は、不履行の当事者による詐欺、故意の債務不履行または無謀な違法行為の場合における賠償責任を制限しないものとする。

考察

2017年以前では、17.6に記載されていた。ここには2つの要素が書かれており、1つは間接損害に対する賠償範囲、もう一つは賠償の上限となります。イメージは図1-1に示す通りであり、これらの2つの項目は分けて考える必要があります。前者に関して、間接損害や直接損害に関わらず、事前に規定をしておくことで、それが直接損害にあたるのかどうかの紛争を避けることができます。2については、契約交渉で最も難航する項目であり、請負者側としては、これをできる限り限定するか、保険による移転を目指すこととなります。

このFIDICでは、かなり請負側に沿った配分になっているため、発注者側の立場でいえば、当初より修正が必要になる項目と言えます。

図1-1 賠償責任の範囲

2. The Employer

2.1 Right of Access to the Site

概訳

発注者は、契約に定める期日以内に、請負者に現場への立入り権及び占有権を与えるものとする。この立入り権と占有権は、請負者に対して、必ずしも独占的に与えられるものではない。契約の定めにより、発注者が基礎、構造物、プラント、または立入り手段を占有させる必要がある場合、発注者は仕様書に定める期間及び方法でこれを遂行する。ただし、発注者は履行補償を受領するまでは、かかる立入り権又は占有権を保留することができる。

期間が定められていない場合は、Sub-Clause 8.3にもとづいて提出されて工程表に沿って請負者が工事を進めるのに必要とされる期間内に、現場への立入り権及び占有権を請け負者に与える。

発注者が、かかる期間以内に立入り権や占有権を認めなかった結果として、請負者が工事の遅延をきたし、費用を要した場合、請負者はエンジニアにその旨の通知を行い、Sub-Clause 20.2に従って、工期延長と、利益を含む追加費用を得る権利がある。

ただし、発注者の不履行が、請負者の書類の誤り、又は提出の遅延等の請負者の起因する場合は、その範囲において、請負者は、期間の延長、利益を含む費用を請求する権利は有さない。

考察・解説

アクセス権や占有権の取得、供与は発注者の責任であり、これによる遅れ等はEmployerの責任となる。建設契約では、17.5及び18で定めるEmployer’s Risks以外に、別途個別にEmployer’s Riskは定められている。その損害はあくまで、直接損害のみであり、双方ともに間接損害には責任は有さないものの、間接・直接損害に関わらず、記述にそって支払いが行われる事象につては、1.15に定められている。

4. The Contractor

4.12 Unforeseeable Physical Conditions

概訳

”Physical Conditions(PC)”とは、物理的な自然条件や物理的な障害物や汚染物質をさし、工事中に請負者がサイトで遭遇するものであり、地中や水文条件を指すが、サイトの気候に関する条件や気候による影響は除く。請負者がPCに遭遇し、そのPCが予見不可能であると判断され、PCが進捗に悪影響を及ぼすとともに、工事費の増加につながる場合、次のことを適用する。

請負者による通知
PCを発見したのち、請負者はエンジニアに対して通知を行わなければならない。通知については以下に従わなくてはならない。
・PCの状態が変わらないうちに、かつエンジニアがPCをすぐに視察・調査ができるように、できるだけ早く通知する
・エンジニアがすぐに視察・調査ができるように、PCを記載する
・請負者が何故そのPCが予見不可能であったか理由を記載する
・PCが進捗に影響を与え、工事費の増加につながったのかわかるように記載する

エンジニアによる視察・調査
エンジニアは、請負者からの通知後、7日以内もしくは請負者と合意した期間以内で視察・調査を実施しなくてはならない。請負者は、引き続き業務を実施し、PCに対して適切であり、エンジニアが視察・調査できるように、PCに対する的確かつ合理的な対策を実施しなくてはならない。

エンジニアによる指示
請負者は、エンジニアがPC対応に関する指示に従わなくてはならず、指示がVariationだと判断した場合、13.3.1を適用しなくてはならない。

遅延と/もしくは費用
請負者が、4.12.1から4.12.3に従ったうえで、遅延もしくはPCに対応する費用が生じた場合、請負者は20.2に従い、工期延長(EoT)もしくは追加費用の支払いを受ける権利を有する。

遅延と/もしくは費用に対する合意と/もしくは決定
Sub-Clause 4.12.4のもとのいかなるクレームの、Sub-Clause 20.2.5にもとづく決定もしくは合意は、PCが予見不可能であったかどうかの約因がなくてはならない。
エンジニアは、工事の一部で他のPCが、基準日(Base Date)以前に合理的に予見できた状況よりも良い状態になっているかを照査することができる。より良いPCに遭遇している場合、Sub-Clause 4.12.5のもと、追加費用が決定されているが、エンジニアは、これらの条件により費用の低減を考慮してもよい。しかし、全ての追加費用と削減額の合計が結果としてマイナスになったとしても、それを合計費用に考慮してはならない。
エンジニアは、基準日以前に請負者が予見可能であったPCのいかなる証拠も考慮してもよい。請負者は、Sub-Clause 20.2.4のもとクレームに関する説明資料を含めてもよく、そのようないかなる証拠によって縛られるものではない。

考察・解説

再エネプロジェクトにおいて、最も交渉が難しい契約事項と言えます。特にSub-Surface Conditionsと呼ばれる地質リスクについては、入札時に請負者が判断が難しい点でもあり、プロジェクト開始から調査を行い、サイトについて十分知見があるはずの発注者が、このリスクをとるのが一般的ともいえます。

一方、請負者は、発注者から与えられたデータから読み取れる知見については、責任を有しており、リスクがあると判断した場合、十分な費用を積むことを求められています(Sub-Clause 4.11)。過去にも、この点で裁判で争われております(Obrascon Huarte Lain (OHL) v Her Majesty’s Attorney General for Gibraltar [2015] EWCA Civ 712)。判決は、受注者が与えられた情報から事象は予見できるもの(Foreseeable)であり、費用をそれに応じて積んでいなかったのが問題というものでした。事前のForeseeable Testが行われていなかったのが問題とされています。更に詳細な考察を以下で行っています。

Unforeseeable Physical Conditions再エネ電源を建設する際、自然を相手にしているため、予想しなかった地質の発生、仮定していた以上の洪水や台風が起こったなど、予見不可能な事象に対するリスク分担が重要となる。ここでは、事業者側の立場として、このリスクをどう扱うべきかについて述べている。...

8. Commencement, Delays and Suspension

8.5 Extension of Time for Completion

概訳

請負者は期限の延長(Extention of Time:”EOT”)について、以下の理由のいづれかによって、Sub-Clause 10.1を目的とする完成が遅延する場合、もしくは遅延の恐れがある場合は、Sub-Clause 20.2によってEOTの権利を有する。

(a)Sub-Clause 20.2に従う要求がない場合を除く、変更指示、
(b)本条件書に記載された条項にもとづき、期間の延長の権利を有する遅延理由がある場合、
(c)例外的な悪影響を及ぼす気象で、Sub-Clause 2.5のもと、発注者から与えられたデータもしくはその地域の公表されたデータからは予見できない気象のことを指す、
(d)伝染病もしくは行政の変更による予見不可能な要因による物資や人員の不足、
(e)発注者、発注者の要員もしくは現場における発注者のその他の請負業者に関する全ての遅延、妨害もしくは予防行為。

Clause 12に従って計測された数量が数量表ないし添付に記載された数量より10%以上多く、その数量の増加がSub-Clause 10.1の目的とする完成期限の遅れの原因となった場合、請負者はSub-Clause 20.2に従って、EOTの権利を有する。Sub-Clause 20.2.5のもと、その要求に関して合意又は決定には、著しく少なくなっているその他の数量についてエンジニアが照査することも含んでいる。計測された数量が少ない場合において、エンジニアは、計画上のクリティカルパスに与える好ましい影響も考慮することができる。しかし、そのような配慮については、完成期限を短くすることになってはならない。

請負者がEOTを有すると考える場合、請負者はSub-Clause 20.2に従い、エンジニアに通知するものとうする。Sub-Clause 3.7にもとづいて期限の延長を決定する場合、エンジニアは既往の判断を照査し、全体のEOTを延長することをできるが、減じてはならない。

発注者の要員による遅れが、請負者の要員による遅れと同時に生じた場合、請負者のEOTの権利は、特別条項(もし記載されていない場合は、関連する全ての状況を十分に考慮する)に記載されている規則や手続きにそって精査されなくてはならない。

考察・解説

遅延による期間延長の権利(Extention of Time for Completion)の有無は、紛争が生じる多くの原因でもあります。そのため、どういったときにEOTがあるのか、またそれに伴う追加コストはどうなるのかを明記することは発注者にとって重要となります。

旧版と2017年版において大きくことなるのが(a)であり、旧版では「設計変更もしくは大幅な数量の変更がある場合」でした。これが、2017年版の主要な変更要素である、”詳細な説明の追記”に従い、文章が増加しています。しかしながら、これで十分かといえば、そうではなく、スキームによって変更を認める部分はことなるため、さらなる追記が必要とも言えます。

(b)は旧版と同じですが、各条項にどういったときにEOTの権利が与えられるか、詳細に記載が必要です。(b)は請負者との交渉の中で駆け引きの重要な要素となりますが、発注者の立場では、できる限り限定しておくべきです。

請負者に与えられる 工期延長 ( Extension of Time for Completion : EOT ) の権利建設契約 において、請負者が 追加費用 もしくは 工期延長 (Extension of Time for Completion : EOT ) の権利を得ることができるケースについてまとめ、考察する。...

最後のパラグラフのCocurrent Delayについても、請負者と発注者ではその立場が大きくことなり、発注者の立場でいえば、仮に同時で起こったとしても、EOTを認めるべき期間は、Critical Path上に限定され、かつ請負者による遅れ部分については厳しく査定されるべきです。そのためにも、①EOTはどういったときに認められるのか、②Concurrent Delayはどのように認められるのかについては、本文ないし添付に明記しておく必要があります。

8.7 Rate of Progress

概訳

いかなる時にも

(a)実際の工事進捗が、工事もしくはその一部を完成期間内に完成するには余りにも遅い場合、及び/又は
(b)Sub-Clause 8.3にもとづき、工事進捗が現在の工程計画よりも遅れている(遅れそうな)場合

Sub-Clause 8.5に列挙された原因によるものを除き、エンジニアは、Sub-Clause 8.3にもとづいて、請負者が進捗を上げて完成期限内に完成するために必要と考える提案改訂工程計画と、修正工法を記載した補足説明を提出するように指示することができる。

エンジニアが別段の通知をしない限り、請負者はこれらの改善策を採用しなくてはならない。改善策の実施にあたっては、必要となる作業時間、及び/又は請負者の要員数、及び/又は物資の増加は、請負者のリスクと費用によって実施しなくてはならない。改善策により発注者に追加の費用負担が生じた場合、発注者は、遅延補償に加えて、Sub-Clause 20.2に基づいて、発注者にかかった費用を受け取る権利を有する。

Sub-Clause 8.5に記載されている要因により生じた後れを取り戻すために、エンジニアが指示した、促進対策を含む変更計画に対して、Sub-Clause 13.3.1を適用しなくてならない。

考察

当初の計画工程に対して、工事進捗が遅れている、もしくは遅れそうな場合の対応について記載している。2017年版では、最終パラグラフが追加されています。これは促進工事に関するものであり、発注者原因で後れが生じた場合に、促進工事を指示するためには、不可欠な条項となります。この例では、発注者の立場は弱く、受けるか受けないかは請負者次第であるため、より強い権限を記載しておくほうが良いと考えられます。

工事遅延 と 工事促進工事遅延が生じた場合、遅れた期間を取り戻すために 工事促進 が行われることがある。その考え方と事例について、建設契約の観点から述べる。...

8.8 Delay Damage

概訳

請負者は、Sub-Clause 8.2に従うことができない場合、請負者はSub-Clause20.2に従い、この不履行による遅延損害額を発注者に支払わなくてはならない。これらの遅延損害額は、契約書に基づいて算定される合計額とし、関連する完成期限から、引渡し証明書が発行されるまでの日数で算出される。ただし、総額については契約書に定められている遅延損害の上限(ある場合)を上回らることはない。

これらの遅延損害賠償は、Sub-Clause 8.2に従わなかったことに対する請負者による不履行による損害に限るものとする。ただし、工事完成前にSub-Clause15.2に基づいて契約が終了した場合を除く。これらの損害賠償によって、請負者が契約に基づく工事の完成義務、そのほかの任務、義務又は責任から免れるものではない。

この条項は、詐欺、重過失、意図的な不履行及び悪意のある行為の場合、遅延損害に対する請負者の責任は限定するものではない。

考察・解説

遅延補償(Delay Damage)については、1.15における除外条項であり、遅延損害そのものは、直接損害だけではなく、間接損害も含む可能性があるためです。つまり、事前に損害算出額を決めておかなければ、どこまでが直接損害と判断するかは難しく、契約書に定めておくことで、そういった議論を回避できるというのが重要な点となります。遅延損害は、上限額、算定方法など、重要な検討ポイントがあるため、個別の記事で詳細に述べたいと思います。

17. Care of the Works and Indemnities

17.4 Indemnities by Contractor

概訳

請負者は以下に示すことに関して、発注者、その職員及び代表エージェント(合わせて”発注者”)に対して、全ての第三者によるクレーム、損害、損失及び費用(法務費やそれにかかわる費用を含む)へ賠償を行うとともに、発注者が損害を被らないようにしなくてはならない。

(a) 発注者により不注意、悪意のある行為、契約不履行が原因でない限り、請負者による業務の履行中もしくはその行為が理由によるいかなる人がケガ、病気や死亡

(b)次のことが理由によって生じたいかなる資産に対する損害や損失
(i)請負者による業務の履行中もしくはその行為が理由によること
(ii)請負者、その職員、代表エージェントもしくはそうした人々が間接的もしくは直接的に雇用した人(合わせて”請負者”)が不注意、悪意のある行為、契約不履行が原因によること

請負者が4.1に従い永久構造部の設計、もしくは契約で規定された一部の設計に対して責任がある場合、業務に組み込まれる設計責任を履行に際して、施工は完了したが、4.1で規定している目的に沿っていなければ、全ての行為、誤り、除外に対して、賠償を行うとともに、発注者が損害を被らないようにしなくてはならない。

考察・解説

ここでは、1.15と関連してくるが、IndirectもしくはDirect Lossに関して、損害を行う必要がある。特に設計に関して重要なのがFit for the puroposeというものであり、明記されているDesign Scopeだけではなく、間接的に求められるその機能も考慮して設計しなくてはならないというものである。またここは、2017年版以前では、17.1にあたる項であり、請負者の最も基本的な義務としてこれを履行できない場合、その責任は有限とならないことになっている(1.15)。

17.5 Indemnities by Employer

概訳

発注者は以下に示すことに関して、請負者、その職員及び代表エージェント(合わせて”請負者”)に対して、全ての第三者によるクレーム、損害、損失及び費用(法務費やそれにかかわる費用を含む)へ賠償を行うとともに、請負者が損害を被らないようにしなくてはならない。

(a) 請負者により不注意、悪意のある行為、契約不履行が原因でない限り、請負者による業務の履行中もしくはその行為が理由によるいかなる人がケガ、病気や死亡

(b)事象が 17.2に記載する(a)から(f)のもとに定められている原因で生じる範囲において、工事以外のあらゆる財、土地、人に対する損害や損失

考察

2017年版以前のFIDICでは、Employer’s Riskを別途定義し(17.3 Employer’s Risks)、その結果に対する対処方法を17.4 Consequences of Employer’s Risksに定めて、Extention for Time CompletionとAdditional Paymentを与えてきました。これにより、Employer’s Risksを定めて、FMとの扱いの違いを分けてきたのですが、2017年版では、Exceptional Eventsを全て、Employer’s Risks扱いにしてしまっています。よって、このままではほぼProject Financeでは用いることはできないと考えます。

2005年Pink BookによりますとEmployer’s Risksに関する条項は以下の通りとなります。

17.3 Employer
The risks referred to in Sub-Clause 17.4 below, insofar as they directly affect the execution of the Works in the Country are:
(a) war, hostilities (Whether war be declared or not), invasion, act of foreign enemies,
(b) rebellion, terrorism, sabotage by persons other than the Contractor’s personnel, revolution, insurrection, military or usurped power, or civil war, within the Country,
(c) riot, common or disorder within the Country by persons other than the Contractor’s Personnel,
(d)munitions of war, explosive materials, ionising radiation or contamination by radio-activity. with the Country, except as may be attributable to the Contractor’s use of such munitions, explosives, radiation or radio-activity,
(e) pressure waves caused by aircraft or other aerial devices travelling at sonic or supersonic speeds,
(f) use or occupation by the Employer of any part of the Permanent Works, except as may be specified in the Contract,
(g) design of any part of the Works by the Employer’s Personnel or by others for whom the Employer is responsible, and
(h) any operation of the forces of nature which is Unforeseeable or against which an experienced contractor could not reasonably have been expected to have taken adequate preventative precautions.

17.4 Consequences of Employer’s Risks
If and to the extent that any of the risks listed in Sub-Clause 17.3 above results in loss or damage to the Works, Foods or Contractor’s Documents, the Contractor shall Promptly give notice of the Engineer and shall rectify this loss or damage to the extent required by the Engineer.
If the Contractor suffers delay and/or incurs Cost from rectifying this loss or damage, the Contractor shall give a further notice to the Engineer and shall be entitled subject to Sub-Clause 20.1 [Contractor’s Claim] to:
(a) an extension of time for any such delay, if completion is or will be delayed under Sub-Clause 8.4[ Extension of Time for Completion], and
(b) payment of any such Cost, which shall be included in the Contract Price. In the case of sub-paragraphs (f) and (gg) of Sub-Clause 17.3, Cost plus profit shall be payable.
After receiving this further notice , the Engineer shall proceed in accordance with Sub-Clause 3.5 to agree or determine these matters.

ここで(a)から(c)はFMでもあり、一般には、17.4の(b)は認められません。(d)と(e)については、保険の特約でカバーさせることが多いです。(f)と(h)は、プロジェクトごとによりスキームも異なりますが、Employerが制御できる、もしくはスキームによって、Contractorリスクとします。(h)が最も揉める内容の一つであり、ベースとしてContractorがリスクを負うのか、Employerがリスクを負うのかは交渉次第ですが、Project Financeで資金を調達するには、Contractorにリスクを負うか、スポンサーサポートが必要なリスクとなります。

18. Exceptional Events

18.1 Exceptional Events

概訳

Exceptional Eventとは以下のような出来事や状況を指す。
(i)両者の扱える範囲を超えている
(ii)両者が契約を履行する前に合理的に想定できない
(iii)両者が合理的に避けるもしくは対処できずに結果的に生じる
(iv)実質的に相手に責任がない

Exceptional Eventは、上記にしめした(i)から(iv)を満たす下記を含む出来事や状況を指す。
(a)戦争、戦闘行為、侵略、外敵の行動
(b)反乱、テロ行為、革命、騒乱、軍やその他のクーデター、内戦
(c)請負者の職員または請負者及び下請けのその他被雇用者以外のものによる暴動、動揺、混乱
(d)請負者の職員または請負者及び下請けのその他被雇用者が関わっていないストライキ、ロックアウト
(e)請負者が使用する弾薬、爆発物、イオン照射や放射能に起因するもの以外の戦闘用弾薬、爆発物、イオン照射や放射能
(f)地震、津波、火山活動、ハリケーンや台風などの甚大な天災

考察・解説

2017年版以前は、Force Majeure(“FM”)としていた事象であり、本質的には大きな違いはありません。一般には、FMにあたる部分は、Extention of Time for Completion(”EOT”)のみでしたが、追加コストに関しても認めるような事象を定義することに焦点が当てられています。至近では、COVID 19に関して、どのような扱いにすべきかということが交渉の焦点になることも多く、より具体的に規定していくことが重要と言えま。

Exceptional events clauses: negotiating infrastructure contracts

Force Majeure Clauses and the Impossible and the Impractical

18.2 Notice of an Exceptional Event

概訳

当事者の一方が、Exceptional Event ( “EE” )により契約上の義務の遂行を妨げられる場合、または遂行を妨げられるおそれがある場合、その当事者は他方の当事者にEEの事態もしくは状況を通知し、遂行を妨げられるか、または妨げられる怖れのある契約上の義務を特定しなくてはならない。

通知は、当事者がEEの事態もしくは状況を認知して(又は認知し得た)時点から14日以内になされるものとする。当事者は、EEによって義務が妨げられた日から、かかる義務の履行は免除される。この通知が14日の期間以降に他方が受け取った場合、通知を受け取った日以降のみ、当事者は妨げられた義務の履行を免除されるものとする。

それ以降、当事者はこの通知によって、EEによって義務の履行が妨げられる限り、かかる義務の履行を免除されるもとのする。妨げられている義務以外について、当事者は契約書上の義務は免除されない。

本条項のその他の規定にかかわらず、契約に基づいて当事者が他の当事者に支払いをなす義務はEEによって免除されない。

考察・解説

1999版に比べて、多少の文書の追加となっているものの、大きくは変わってはいません。14日の通知期間を超えた場合について、少し情報が追加されたのみとなっています。

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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など