Commencement, Delays and Suspension

請負者に与えられる 工期延長 ( Extension of Time for Completion : EOT ) の権利

工期延長 の権利に係るカテゴリー

工事実施中に何等かの理由で工事が遅延したり、請負者に追加コストが発生したりする事象が生じることはしばしあります。特に工事の遅れ(Delay)が生じた場合、請負者の観点から、① Excusable か、 Non-Excusable か( Extension of Time for Completion : EOT の権利を有するかどうか)、② Compensable か、 Non-Compensable か に分類でき、更には②で Compensable の場合に、Costのみか、Profitを含むかに分類されます。

こうした分類において、発生した遅れが許されるのか、また 工期延長 が認められるのかという判断は、契約書に明記する必要があります。発注者の立場で契約書を作成する場合は、生じた事象に対して、請負者の権利が契約書に記載されていなければ、請負者に対して 工期延長 及び 追加費用 というのは認めないとするべきです。

しかし、FIDIC の2017年版においては、発注者リスクとするものは、 EOT 、利益を含めた追加コストを認める、発注者リスクであるものの、第三者影響によるものは、 EOT と追加コストを認めるとなっており、請負者の権利がコストと EOT がほぼセットとなった条項になっています。工事の遅れに関して分類をしたとしても、明確に分けられない場合も多いですが、各分類は図1に示すような関係にあります。

図1 EOTに係る事象の分類 参照:CNC Counsel

多くの 国際契約 においては、 Force Majeure ( FM )も含め、工期の延長は認めるが、それに伴う追加費用は認めないというのが、契約条件に明記されたものが多いにも関わらず、 FM ですら( FIDIC ではExceptional Eventと名前を変えています)、 EOT とコストをセットにしています。このように、2017年版の FIDIC 標準約款は、特にプロジェクトファイナンスを組む場合、発注者には不利な条件書となっていることに注意が必要です。以下の表に、2017年版 FIDIC の EOT に関する条項をまとめておきます。

概要
工期延長
追加コスト
1.9 発注者による図面の発行や指示が遅れる
C&P
1.13 発注者が取得すべき許可やライセンスの取得が遅れる
C&P
2.1 サイトへのアクセス権及び占有権供与が遅れる
C&P
4.6 第三者(工事業者など)との協力に伴い想定以上の負担となる
C&P
4.7 基準点の設置がおくれる、もしくは不備が発見される
C&P
4.12 予見不可能な事象に遭遇する
C
4.15 予定していたサイトへのアクセスルートの条件に変更が生じる
C
4.23 遺跡等が発見される
C
7.4 請負者がエンジニアの指示に従い、試験を実施した結果、発注者に責任がある要因により遅延が生じる
C&P
7.6 安全を確保するために、発注者に責任がある要因で生じた損傷を補修しなければならない
C&P
8.5 事前に想定できないような気象条件が生じる
伝染病や政府規制により事前に想定ができない労働力や資材の不足が生じる
発注者に責任がある要因により遅延や障害が生じる
工事量が契約時の量よりも10%以上増加する
8.6 規制当局が原因で遅延が生じる
8.10 発注者都合で工事の中断が生じる
C&P
10.2 部分引き渡しにより追加コストが生じる
C&P
10.3 発注者が責任がある要因により完成検査に遅延が生じる
C&P
11.7 補修工事を実施するにあたり、発注者によるアクセス権供与が遅れる
C&P
11.8 損傷の原因についての調査を実施し、その原因が発注者にある場合
C
12.3 数量や単価に契約時に比べて変更があった場合
C&P
13.3 Variationを指示する
C&P
13.6 法令に変更が生じる
C
13.7 法令に変更が生じる
C
14.8 支払いに遅れが生じる
C
16.1 発注者の不履行に起因して請負者が工事を中断、再開する
C&P
16.2 発注者の不履行に起因して請負者が契約解除する
C&P
17.3 知的財産及び産業資産の権利を侵害された
C
17.5 発注者が責任を有する要因で請負者に損害が生じる
C
17.6 発注者及び受注者の両者に損害が生じる
C
18.4 Exceptional Eventのうち、(a)から(e)かつ(b)から(e)は対象国内で生じる
C
上記以外

同時発生で起こる遅延

工事中において、複数の理由により工事が遅れることがあります。Consurrent Delay と呼ばれるもので、請負者が EOT を有する遅れとそうではないものが複合することはしばしあります。それによって、紛争が起こるケースもしばしばみられます。発注者の立場である場合、

  • Excusable Delay が平行して起こっている場合は、その大きな遅れをもって妥当な 工期延長 を与える
  • Excusable Delay と Non-Excusable Delay が平行して発生している場合は、その差をもって妥当な 工期延長 とする(the Contractor is not entitled to an extension of time for the period of that concurrency)
  • EOT が与えられる遅れは Critical Path 上のものだけである(Condition precedent of the Contractor’s Entitlement)。

であるべきです。FIDIC には Sub-Clause 8.7 の最終パラグラフにおいて

“, the Contractor’s Entitlement to EOT shall be assessed in accordance with the rules and procedures stated in the Special Provisions”

のみが書かれており、上記の原則を本文もしくは Special Provision に記載することは、発注者側では重要なこととなります。しかしながら、英国法において、紛争事例に示すように、発注者と請負者の原因による遅延が同時に起こった場合、請負者の原因に関わらず、発注者による遅延期間は EOT を与えられるべきとの判断が主要となっています。よって、発注者の立場においては、こうした事象が起こった場合、請負者の原因による遅れが同時に発生した場合は、その期間を排除することを明記しておくことは、必須であり、紛争時においても重要になると思います。一方、遅延の主となる原因が何であるかということから、EOT の期間は決められるべきとの判断もあります。そうしたことから、クリティカルパス を含め、工事状況を詳細に記録、分析しておくことは、双方にとって重要となります。上記に関する考察は、下記の添付の記事が非常に参考になります。

”Consequences of concurrent delay on construction projects”

ただし、発注者原因で後れが生じた場合には、延長期間はどれだけかはさておき、工程の見直し指示を出さないと工期の期限がなくなり、請負者が自由に完成時期を決められる事態となることには注意を払いたいところです。

工期遅延 に関する 紛争 の事例

ケース

ケース:請負者と発注者の両方の原因の同時発生による遅延 ホテル建設工事
当事者:請負者 Henry Boot Construction、発注者 Malmaison Hotel
契約約款:JCT 1980版
国:英国

概要

この訴訟は1999年の英国における建設訴訟の内で最も重要であると考えられる訴訟と言われています。請負者の責任である遅延が発注者の責任による遅延と同時に発生した場合の請負者の EOT に関する問題を扱ったものです。

この訴訟は以下の通りとなります。
請負者Hnry Boot社(H社)は、発注者であるMalmaison社(M社)のホテルをマンチェスターで建設していました。契約上の完成は1997年11月でしたが、4カ月遅れで完成しています。しかし、アーキテクト(FIDICのエンジニアにあたります)は、 EOT として1カ月のみを与える裁定をしました。

その結果、M社はH社に対して、3カ月分のLiquate Damageを工事費から差し引きました。それに対してH社は、発注者の責任による遅延の理由で、実際の完成日である4カ月遅れが正当な権利と主張して、仲裁にかけました。JCT1980版の25条には、工事の完成がRelevant Event(請負者に工期延長を与える事象)によって、契約上の完成日を超えそうである場合には、アーキテクトが公平で合理的であると見込む完成日を確定することによって、請負者に EOT を与える義務を規定しています。

そのためH社は仲裁において、EOT の正当性を訴えましたが、M社はその抗弁の中で請負者の主張の全てに異議を唱え、請負者が責任を持つべき事象、Culpable Delay であったので、アーキテクトが1カ月の EOT を与えたのは正しかったとしました。一方、H社は、請負者の遅延があったとしてもそれは EOT の権利には無関係として反駁しました。しかしながら、仲裁者はM社の訴えを正としたため、H社は裁判に訴えました。

そうした中、裁判において裁判官は2つの事例を挙げています。一つ目は、悪天候と労務者不足が同時に発生した場合であり、請負者に労務不足があったとしても、請負者は悪天候によって EOT の権利を持つと裁判官は認めました。2つ目は、現場立ち入りが遅れた場合であり、現場立ち入りの付与が遅れたことを理由とするクレームに対して、発注者が契約期間中の請負者の工事進捗が全体的によくなかったことを理由に、その権利を認めないことはできないと述べています。

一方、上記の2つの例に関わらず裁判官は、発注者に起因する遅延の原因が、 クリティカルパス 上にある工事に影響を与え、それによって工事全体に遅延が生じた場合にのみ、請負者に EOT があるとして、仲裁人が請負者自身の遅延を考慮したうえで EOT を裁定する権利があるとしました。

以上、争点は、請負者に責任がある原因とない原因により遅延が同時発生した場合、 EOT の幅を裁定する際、請負者の原因による遅延期間を EOT から差し引くべきかということでした。それに対して結論としては、発注者に起因する遅延原因が、 クリティカルパス に影響を与え、工事の完成に遅延が生じた場合にのみ、請負者には EOT の権利があり、請負者責任の原因による遅延期間があってもそれは発注者責任による遅延に対する請負者の EOT の権利を妨げるものではないというものです。

考察

この内容は、発注者の遅延と同時に発生した請負者責任の遅延が発注者責任の遅延に対する EOT を拒否する根拠とならないの原則を裁判所が受け入れた最初の例とのことです。つまり、何ら合意がなければ、英国法においてはこの裁判の考え方がデフォルトとなるということです。よって、発注者の立場で契約書を作成する場合は、この点において発注者にとって有利な立場で同時遅延事象について記載しておく必要があります。ここで注意すべきなのは、完成日にむけての請負者の進捗に対して発注者が何らかの妨害もしていない場合にのみ発注者は完成日を強制できるもので、発注者が請負者の進捗を遅延させた場合は、完成日は強制できないということです。契約上の完成日を復活させる唯一の方法は、工期延長を与えるということを忘れてはなりません。そうしない場合、完成日は請負者が勝手に決めることができるということになります。

次に裁定では、 EOT を与える遅延は クリティカルパス 上のものでなくてはならないとしていますが、これはフロート(余裕時間)は発注者もしくはプロジェクトが優先的使用権を有するとの前提に立っています。ただ、この点についても、フロートの議論になりかねないために、明記しておくことが望ましいです。

最後に、請負者が EOT の権利があるからといって、それは必ずしも請負者が工期延長に対する費用の支払いを受ける権利があることを意味しておりません。発注者がその費用を支払う必要があるかどうかは、契約書上に記載しておくことはもちろん、請負者責任による同時遅延の存在も注視しておくことが大事となります。


ABOUT ME
Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など