アメリカにおける歴史的なインフレ
2022年2月にロシアがウクライナを侵攻、それに伴い、欧米によるロシアに対する制裁が行われています。そのため、ロシアからの資源、特に石油や天然ガス、穀物などの供給が細くなり、全世界で歴史的なインフレが起こっています。
アメリカでは歴史的なインフレが生じており(図1)、その対策としてFRB(Federal Reserve Board)米国連邦準備制度理事会によって金利引き上げ政策が行われています(図2)。
これらにより大型プロジェクトは大きく影響を受けて、とりわけ、投資費用が巨額で、建設に時間がかかるプロジェクトへの影響は甚大です。洋上風力プロジェクトもそうしたものの内の一つです。
アメリカの東海岸では既に洋上風力の開発権の入札が行われ、落札者が決定、現在、売電契約(PPA)交渉を実施しているプロジェクトがあります。そのうち、Avangridが落札したCommon Windに関して、開発者が州政府に対してPPAの再交渉を申し出たものの、州政府が交渉を拒否しています。Avangridの再交渉申請と合わせて同じように再交渉を申し出ていた
アメリカ東海岸における記事については以前まとめていますので、下記を参考ください。
今回、 洋上風力 プロジェクトの逆境に関する記事をお伝えしたいと思います。
記事:Recharge, 2022/11/7, “‘Extraordinary conditions’ | Second US offshore wind pioneer seeks deal rejig as inflation bites”
概要
洋上風力 セクターがコストと利率高に直面している中、ShellとOcean Windsが保有するMayflowerプロジェクトも、Avangridが志向する売電契約の再交渉に参画した。ちょうど1年前、米国の開発会社Mayflower Wind 社は、第一フェーズに当たる804MWの 洋上風力 電プロジェクトの経済性に自信を持っており(Mayflower Windは合計で2400MWが計画出力で、1200MWをBrayton Pointへ、1200MWをFalmouthへ送る)、Massachusetts州の規制当局に、20年間で5億ドルが節税となる連邦税額控除の内10%を返還する約束できるものと思っていた。
これが当時の話だ。現在、第二フェーズの400MW 洋上風力 発電プロジェクトの電力契約が州当局の精査を受ける中、ShellとOcean Windsの合弁会社であるMayflowerは、同じMassachusetts州のプロジェクトCommonwealth Windと共に、今年初めに締結したラウンド3の売電契約(PPA)交渉の中断を求めている。これは収益が出せないという予測に基づいている。
「Mayflower Wind社は、現在の異常な世界的経済状況の影響を明らかにするには、(事業者と州電力会社との間のPPA契約手続きを)1ヶ月間中断することが必要であると、Commonwealth Wind社と意見を同じにしている」とMayflower Wind社はMassachusetts公益事業局(DPU:Department of Public Utilities)への嘆願書で述べている。
Mayflowerが有する400MWプロジェクトは、昨年12月の州第3ラウンドの入札でIberdrola傘下のAvangridが取得した1.2GW、Commonwealth Windとともに77ドル/MWhで落札されたが、高騰するインフレ、金利上昇、原材料や部品の価格高騰によるサプライチェーン問題の慢性化にさらされ、プロジェクトの実現性に疑念が呈されてきた。
Mayflower Wind社は、「現在のPPAの下では、このプロジェクトはもはや経済性がなく、融資可能なものではないかもしれない」と述べている。
PPA再交渉の申立ては、Mayflowerの第2フェーズの400MWプロジェクトに限定されており、2019年に受注した804MWの第2ラウンドのプロジェクトには言及していない。同社は、以前のプロジェクトに関して後戻りがまだ可能か、同様のPPA再交渉を求めるかどうかについてのコメントを避けた。
売電価格上昇の圧力
Mayflowerが直面している経済性の問題は、再エネ 分野全体に見受けられ、エネルギー金融分析会社のLevelTen Energyは、風力と太陽光のコーポレートPPAの平均が今年第3四半期に45.93USD/MWhと過去最高を記録したと発表している。
再エネ 業界団体の米国クリーンパワー協会(ACP)は、2022年第3四半期の市場報告で次のように述べている。
「全国風力コーポレートPPA価格指数は最も大きな上昇を示しており、前四半期から11%、2021年第3四半期から37%上昇、現在49.66USD/MWhとなっている。」
と述べている。
BloombergNEFの風力エネルギーアナリストであるChelsea Jean-Michel氏は、Rechargeに次のように語った。
「陸上風力発電や太陽光発電においてPPAを再交渉する動きが見あるため、 洋上風力においても同様の動きが見られるのは驚くべきことではない。」
今のところ、MayflowerとAvangrid以外に契約再交渉に向けて正式に動き出した開発会社はないが、候補となりそうな会社はいくつかある。
Orstedは米国で5GW近い契約容量を持っているが、木曜日の第3四半期の投資家向けプレゼンテーションでは、米国の 洋上風力 発電プロジェクトについてPPAの再交渉を求める準備をしているかどうかは明言を避けた。
US Windは、昨年12月に受注した1200MWのMomentum Windプロジェクトについて、Maryland州と75.20USD/MWhでPPA契約を締結しており、Mayflowerの売電契約よりも低い水準であるが、契約再交渉については何も表明していない。
米国のインフレ率は8.2%と40年ぶりの高水準にあり、米連邦準備制度理事会(FRB)は6回利上げを行って金利を4%としており、業界の苦境は続きそうである。
BNEFのJean-Michelは、「業界関係者は、当面、高い価格が続くと表明しており、今後数年間に融資を受けるプロジェクトは、コスト上昇の対象となることを意味する」と述べいる。
最後に
今回の記事の内容については、決してアメリカにおける洋上風力プロジェクトだけの問題ではなく、他国のビックプロジェクトにおいて言えることです。今回は収入がキャップしているために、コスト上昇の影響が非常に大きかったため、このような事態になっています。かといってPPAなしにプロジェクトファイナンスを組成するのが難しいのも事実です。収入の予見性が低い中ではほぼプロジェクトファイナンスは組めず、コーポレートファイナンスを組む、自己資金で対応するしかありません。
別の記事でもありますが、コーポレートファイナンスもしくは自己資金での資金調達となると、ただでさえ、巨大資本でしかできない 洋上風力 プロジェクトにおいて、実施できる企業が相当限定され、州政府がなんら対応しない場合、最悪多くの企業が撤退という状況も十分あり得ると考えます。
今回の申し出に対して、州当局は即時回答をすることを要求しておりますが、Mayflower社は申請を撤回しています。いづれにしろ、2021年から2022年のはじめにかけて入札が行われ、落札されてプロジェクトの動向を見守っていきたいと思います。