2021年の夏及び冬における北米の 電力危機
2021年の春の時点において、テキサスやカルフォルニアなどの州では、夏及び冬において 電力危機 があると伝えられていました。
テキサスにおいて生じた2021年2月の大停電では死者も出たため、停電に対する法案等も定められました。しかしながら、北米電気信頼性公社(North American Electric Reliability Corp:NAERC)によれば、最悪のシナリオの場合、ERCOT域内において、最大37%も需要に対して供給力が足りなくなる可能性があるとのことです。加えて、石油の高騰、それに伴う天然ガスの高騰、世界のロジスティックの混乱など、仮に事故等がおこっても復旧ができずに、状況が悪化する可能性もあります。
こうした状況を報道している記事のまとめとしては以下の3点となります(2021年から22年の冬季信頼性評価書) 。
- NAERCは木曜日、2021年から22年の冬季信頼性評価で、異常気象、天然ガス供給不足、水力の供給力低下に対して脆弱な米国の地域ではこの冬、送電線信頼性にリスクが上昇していると述べた。
- ERCOT(Electric Reliability Council of Texas)地域が最も危機的であり、極端なシナリオでは電力需要が供給予備力を37%以上上回る可能性がある。ピーク需要または発電機の停止が予測を大幅に上回った場合、NERC(National Electric Reliability Council)は、テキサスに加え、南西電力プールおよび中央独立系統運用者の地域で「エネルギー緊急事態」が発生する可能性があると警告した。
- カリフォルニアとニューイングランドのガスインフラは限られており、長期間気温が低い場合には供給量の低下につながる可能性があるとNERCは指摘した。カリフォルニア以外の他の西部地域では、干ばつに直面しており、異なる州で融通ができない可能性がある。
記事:UtilityDive, 2021/11/19, “Extreme weather, low hydro and fuel shortages could threaten grid in multiple regions this winter: NERC”
NERCは、供給力と送電システムの安定性を評価するために、夏と冬のピークシーズンに先立って、毎年2つの広範な信頼性評価書を作成する。しかし、テキサス州と中西部で数百万人に電力を供給できなかった2月の異常気象を機に、NERCはレポートの作成方針を変更した。NERCの信頼性評価およびシステム分析の取締役であるJohn Moura氏は、木曜日の記者団との電話で、「最近、NERCは繰り返し作業を実施しているが、これはNERCの評価方法を段階的に変更しているからである。」と述べた。
「以前の評価では、容量、通常の気候、および発電の停止に焦点を当てていたが、現在は、エネルギーの必要性と極端な気象条件に耐える能力に焦点を当てている。問題は十分な容量があるかどうかではない。」とMoura氏は述べ、更に冬のエネルギー計画が異常気象やその他の極端な条件に耐えうるかどうかについて詳しく述べた。
NERCの系統上に存在する設備は、過去10年間で70 GWを超えるベースロード発電所を廃止し、新しいガスおよび可変発電電源に置き換えたとMoura氏は述べている。
「系統はますます天候に依存するようになった。」と彼は述べた。「異常気象により、非常に特殊な状況が起こり、新たな課題が浮き彫りになっている。そして、我々が経験している現在の事象は、電力業界が系統計画及び運用を再考する機会となる。」とのことであった。
「NERCによると、信頼性リスクが異常気象に対して脆弱な地域で上昇していると指摘しており、ガス供給や干ばつ状態が発電機に影響を与える可能性がある。」とNERCの信頼性評価マネージャーであるMark Olson氏は木曜日の電話会議で述べた。
「潜在的な供給不足を管理するために運用計画を確実に準備し、発電準備、燃料の調達、および持続的な運用のための積極的な措置を講じるように業界に助言している。」とOlson氏は述べた。
停電の可能性を減らすために、NERCは公益事業者、送電網事業者、および調整当局に一連の推奨事項を発行した。
調整当局らは、運営に制限がかかるメンテナンス期間の必要性を通知できるように、警告規則に関する訓練を実施する必要があるとNERCは述べた。
また調整当局は発電事業者と連携して、通信と発電命令に関する規則と運用者の訓練を検証する必要があるとも述べた。報告書によると、系統運用および発電事業者は、NERCの冬季準備ガイドラインを確認する必要がある。
一方、公益事業者は、重要なインフラへの負荷が大きくならないようにするために、ノンファーム顧客数と計画停電の手順を確認する必要がある。それらには、発電所に供給するために必要な天然ガス設備が含まれる。
テキサス州と中西部において起こった2021年2月の停電は、低温による発電のオフライン化が原因であり、連邦エネルギー規制委員会とNERCが火曜日に発表した共同報告書によると、多くの場合、ガス火力発電所は燃料の調達に苦労した。加えて、停電が天然ガス供給システムに影響を与え、更にガス供給に障害が発生することもあった。
テキサス州の規制当局は10月に、発電と送電事業者に対して、これから始まる冬に先立って、プラントとシステムを耐候性にすることを要求することを決議し、より堅牢な通年基準も策定中であることを示した。NERCは発電機を調査し、大多数が短期間の冬季運転のための運転計画を策定していると結論付けた。「ただし、厳しい冬の条件下では、機器の故障や燃料不足の結果、供給力が再び低下する可能性があることがわかった。」とOlson氏は述べている。Olson氏は、「エネルギー不足が世界的な供給に影響を及ぼしているため、化石火力発電機の燃料の調達は、この冬、大きな懸念事項である。」と述べた。「石炭の備蓄は過去数ヶ月で急速に減少した。国内の一部の天然ガス貯蔵量は5年間の平均を下回っており、昨年のレベルも下回っている。」米国エネルギー情報局によると、石炭火力発電は、ガス価格の上昇もあって、2021年には22%増加するペースで進んでいる。
Olson氏は、大容量電力システムの信頼性について「差し迫った懸念ではない。」と述べた。「しかし、電力システムは注視していくべきであり、この冬の後期において燃料調達は特に困難になる可能性があるため、化石火力発電機の所有者に燃料供給に特別な注意を払うように促している。」
考察
テキサスでは、2021年2月の大停電以降、記事にもあるように事業者に対して冬季対策の実施義務を定めています。しかしながら、費用も時間もかかるため容易には完了できないものも多いものです。そうした中、再エネ電源の増加、原油の高騰、天然ガスの高騰など、様々な要素が昨年度よりも悪化しています。よって昨年と同様の厳冬が来た場合、問題が生じる可能性は少なからずあるかと思います。
いずれにしろ、北米の状況、ヨーロッパの状況は注視するとともに、それらの事象については日本の電力安定に参考にできることも多いのではないかと考えます。