はじめに
2020年度冬に、LNG不足に伴い電気卸売市場(JPEX)が暴騰しました。それに関して様々な記事が出ていますが、あまりに正確ではないものあります。そこで、火力発電所の発電原価は、燃料の高騰からどの程度の影響を受けるのかを簡単に理解できるよう、発電原価の簡易な算出方法を示したいと思います。ここであげる仮定はいづれも実際の市場によって変わるので、「これが正しい」というものではないですが、皆さんが具体的に各指標から受ける影響は理解できるのではと思い、記載します。非常に概略化していますので、相対比較、影響を知るために利用してもらえればと思います。
発電原価の構成
発電原価
発電にかかる費用(P[kWh])についてです。設備投資が必要な事業なら基本的な考え方は同じだと思います。まずCAPEX(Capital Expense,PC)で資本回収費用ですね。何年でどれだけの収益率で回収するは会社によって変わるますが、近年は早期回収が基本になろうかと思います。次にOPEX(Operating Expense, PO)で運用費用ですね。火力発電所等では燃料も含めます。ここでは狭義な意味で発電所にかかる費用とします(送電費用や一般管理費は除きます)。
資本回収係数
投資した会社は、決められた期間(n年)で、使ったお金に見合うように、事業からお金を回収する必要があります。もし、それができないならその事業をやる意味がないですよね。使ったお金に見合うというのは、その事業を実施するために調達したお金、例えば借入金であれば利子、自己資本であれば期待利益率といったことになります。これをWACC(加重平均資本コスト、Weighted Average Cost of Capital)と言います。
https://renewablenergy-pro.com/2021/02/12/wacc%e3%81%a3%e3%81%a6%e4%bd%95%ef%bc%9f/
kの算出方法ですが、n年で割引率iをWACC相当と仮定して、kを算出します。投資した費用Mとすると
M=Mk/(1+i)+Mk/(1+i)2+・・・・・+M/(1+i)n
k=i(1+i)n/((1+i)n-1)
発電原価の計算
ガスコンバインドサイクル
概要
ガスコンバインドサイクル発電所は、ガスタービン発電装置から高温の廃棄熱回収ボイラに導いて熱を回収し、ボイラで発生した蒸気でさらに気力発電を行う方式の発電所です。
この2つの発電方式を組み合わせることで、熱効率が高いだけではなく、出力調整が容易に行えるという利点もあります。そのため、ベース型(設備利用率が高い)の電源としてだけではなく、ミドル型(設備利用率が平均的)の電源としても利用されます。
計算方法
火力発電所の建設費用は基本、地点特性がほとんどなく、モジュール化されたものを建設サイトに持ってくるため、凡そ標準的な値段があります。最近は韓国、特に中国企業が相当の競争力を持っておりますが、ここでは欧米や日本のメーカーを日本で建設するイメージで設定します。基本、容量が大きくなるほど費用は減少していく傾向はありますが、標準的な値としてガスコンバインドサイクルでは15[万/kWh]とします。
ここで設備利用率をPF[%]としますと、
PC=150,000 x k / (24 x 365 x PF/100)=1,712.3 k / PF
ここでコンバインドサイクル発電所の対象期間を15年とすると、資本回収率は0.0965であるので、
PC=164.9 / PF
となります。
次にPOについてです。
LNGガスの価格(PL)ですが、輸入の平均額では凡そ10 USD / MMBtu程度で、2021年1月はスポットが30 USD / MMBtu、2月でも15 USD / MMBtuだったことは述べておきたいと思います。
LNGの熱量ですが、1Btuが1.05506kJで、1kWhが3.6Jですので、1MMBtuは0.293MWhとなります。よって、1kWh発電するのに必要な費用ですが、コンバインドサイクルの熱効率を55%と仮定すると
燃料費用=PL / (0.293 x 103 x 0.55)= 0.006204 PL
となります。ここで、維持運転するのに必要な費用ですが、コンバインドサイクルの場合は凡そ3000 [円/KW]であるとすると、
PO=0.006204 PL + 3000/(24 x 365 x PF/100)=0.006204 PL +34.2 / PF
となります。
以上より、発電原価Pは
P= 165.0/PF+0.006204PL+34.2/PF =199.2/PF+0.006204 PL
上記の結果をまとめますと、PFとPLを変数として、図3のようにまとめられます。
ガスタービン発電所
概要
ガスタービン発電所は、空気を圧縮機で圧縮し、燃焼器で加熱して生じた高圧高温ガスが膨張する過程でタービンを駆動するもので、圧縮、燃焼、膨張、放熱のプロセスで成り立っています。ガスタービンは、汽力発電に比較して、始動や停止が容易であり、負荷の応答にも優れている特徴があります。建設単価や運転維持費があるという特徴がある一方で、熱効率が低いために、燃料費がかさむという欠点を持っています。そのために、ピーク型の発電(設備利用率が低い)として用いることが多いです。
計算方法
計算方法自体はガスコンバインドサイクル発電所と同じで、建設費用が8万円/kWh、維持運用費用が8割程度、熱効率が40%という点が異なるのみになりますので、
P= 88.0/PF + 0.00853PL + 27.36/PF = 115.4/PF+0.008531PL
となり、結果をまとめますと、図4のようになります。
まとめ
上記の計算は一つの例であり、熱効率はもっと高い発電所や低い発電所もあります。それに応じて建設費用も異なります。もし参考になればと書きに添付しておきます。
古いですが、図5は火力発電所の熱効率を示した図になります。先にあげました韓国や中国は、建設費用が非常に安いですが、熱効率が高いとは言えません。ただ、全体的に技術も上がってきており、その効率が上がってきているのも事実です。いづれにしろ、平時のJPEXの価格が非常に安いため、CAPEXをほぼ回収できず、燃料値段が上がれば、赤字で発電しないといけない状況もお分かりかと思います。発電所を持った電力会社は、電力の安定供給に寄与するために現状頑張っていますが、このままでいくと、積極的に発電所を廃止する方向になり、ますます電力の供給量が少なくなりかねません。再生エネルギーは燃料はいらないものの、大型の水力以外は、供給を調整できるものではありません。建設費用は非常に高く、FIT制度だのみであり、期待されている風力発電も設備利用率は30%程度で、発電原価は30円/kWhです。
エネルギー庁 電気ガス取引監視等委員会の専門家委員会では、こう言ったことも話し合われているとは思いますが、マスメディアにおいても、こうした状況を伝え、日本のエネルギーセキュリティーを正確に議論できるようにしてほしいと思います。