電力一般

EU タクソノミー 欧州が仕掛けるルールによる経済覇権闘争

脱炭素化を巡る各国の動き

脱炭素化を巡り、各国による覇権争いが繰り広げられています。そうした中、 EU タクソノミー なる日本人には聞きなれない名前が、様々な分野で聞くようになりました。特に電力セクターにおいては、「グリーン」な経済活動に、原子力やガス火力発電所が入るかなど、経済活動を分類する国際ルールになり得る EU タクソノミー。今後の 再エネ を含む 電力 業界をみていくうえで重要と考えられますので、ここでまとめたいと思います。

2021年4月22日から2日間にわたり、アメリカにおいて、 気候変動サミット が行われました。その中で2030年までに52%のCO2削減を掲げ、それの支えとして2兆ドルものインフラ整備計画を掲げました。

気候変動対応を求める人々
アメリカ 気候変動 に関する サミット カーボンニュートラル に向けて アメリカや日本など各国が CO2 削減 を宣言アメリカ 気候変動 に関する サミット が4月22日23日にわたって行われ、カーボンニュートラル に向けて アメリカや日本など各国が CO2 削減 に関して話し合いを行った。その内容に関して概説する記事。...

中国においても、引き続き 石炭火力 等の 火力発電所 による発電はつづけるものの、2030年には 温室効果ガス排出量 をピークアウトさせて、2060年には カーボーンニュートラル を達成すると宣言するなど(参考:China’s energy system: record renewables expansion, but coal still dominates)、 気候変動 対策に伴う投資についても、自国へ引きいれるべく戦略を打ち立てています。

そうした中で、EUでは2050年の カーボンニュートラル にむけて、経済や技術で劣る欧州として金融も含めたルールによって環境ビジネスを主導するために考えられたのが EU タクソノミー であり、これらを世界標準にすべく、 EU 各国と協力して、このルール作りを進めているというものです。

EU タクソノミー に伴う欧州のこれまでの動き

EU は、グリーン産業による経済成長を掲げており、それに合わせて産業構造の転換を図ることを目指しており、実際にドイツのRWEやE.ON、またデンマークのオーステッドなど、その主力電源をこれまでの化石燃料から再エネへと転換を図っています。

ドイツ 再エネ大手 RWE とはどんな会社なのか?ドイツ 再エネ大手 RWE とはどんな会社なのかについて、過去から現在に至る会社形態の変遷をたどるとともに、現在の収益モデルを、JERAと比較する。...
オーステッドの風力発電ファーム
デンマーク 洋上風力 大手 オーステッド (Ørsted)とはどんな会社なのか?デンマーク 洋上風力 大手 Orsted ( オーステッド )。売り上げは 電源開発 とそれほど変わらないにも関わらず、その 時価総額 は 電源開発 の10倍。どうしてそのような差が生じるのか。また、オーステッドの事業を考えた場合、現在の株価が妥当なのかについても考察しています。...

そうした転換には大規模な資金が必要であり、雇用を創出しながら温室効果ガス排出量を削減し、欧州全体の経済を成長させることを目的に、今後10年間で少なくとも1兆ユールを投資する「 欧州グリーン・ディール 」を策定しています。当然、これだけの投資規模になりますと、国や地方などだけでは不可能ですので、民間の資金がこれらの市場に参入させることが重要であり、そのための方策として EU タクソノミー があります。

タクソノミー とは「分類法」という意味を持っています。 EU タクソノミー では、何が「 グリーン 」であるのかを明確に定義するものであり、 グリーン な経済活動の分類を示し、 グリーン ビジネスへの投資が増えるように金融市場を再設計するということを目指しています。

この動きは2018年に公表された「EU サステイナブルファイナンス行動計画」から始まり、2019年12月17日において、持続可能な投資対象の タクソノミー (taxonomy、持続可能な経済活動の類型)の基準を定めた規則案について、 EU 理事会(閣僚理事会)との合意に達したと発表しています。その後、2020年6月29日には、欧州グリーン・ディール投資計画の一部をなす「公正な移行(Just Transition)メカニズム」運用のためのプラットフォームを立ち上げました。そして、2021年4月21日(アメリカの気候サミット前日)に、持続可能な経済活動のEU独自基準である「 タクソノミー 」に合致する企業活動を明示した委任規則を中心とした、欧州グリーン・ディールの資金調達に関する諸政策を公表しました。

EU タクソノミー とは

EU タクソノミー には、6つの環境目的と、4つの適合要件があります(参考:THE EU TAXONOMY REGULATION: AN OVERVIEW)。

環境目的

  1. Climate change mitigation:気候変動への緩和
  2. Climate change adaptation:気候変動への適応
  3. The sustainable use and protection of water and marine resources:水と海洋資源の持続的な利用と保護
  4. The transition to a circular economy:循環型経済への移行
  5. Pollution prevention and control:環境汚染の防止と管理
  6. The protection and restoration of biodiversity and ecosystems:生物多様性と生態系の保全と回復
図1 環境目的

適合条件

  • Contribute substantially to one or more of the environmental objectives (in Article 9):6つの環境目的の1つ以上に貢献する
  • Not significantly harm any other Article 9 objective (in accordance with Article 17):6つの環境目的のいづれに対しても著しい害を及ぼさない。
  • Be carried out in compliance with minimum safeguards (laid down in Article 18):ミニマムセーフガードに準拠している
  • Comply with technical screening criteria (established under Articles 10-15 and 19):技術的スクリーニング基準に準拠している
図2 適合要件

EU タクソノミー の環境目的に貢献するだけではグリーンであると認められず、その目的を満たす過程において、別の目的に悪影響を及ぼさないとすることが必要となります。更には、環境に貢献するビジネスが人権や労働課題を生まないということから、ミニマム・セーフガードの準拠も求められています。原子力発電に関しては、2つ目の適業条件を満たしているかが問題となり、結果的には、満たすとの判断のもと、グリーンな活動であると認定されています。またガスでは非常に厳しい条件が課せられていますし、またBiomassでは既に、基準の厳格化に向かっている一方で、業界からは反対の声が上がっています。(バイオマスに関しても「[FT]バイオマス発電は再エネと認めない、EU規制強化へ」も参考になります)

EU 委員会、原子力 発電を EU タクソノミー の傘の下へ原子力が、 EU タクソノミー に正式に認められたことを、欧州委員会が発表したことを伝える記事。日本においても、原子力がカーボンニュートラル達成に向けてどういった位置づけになるか注目されます。...

更には大企業や金融機関に対して、次に示す表のように、情報の開示をもとめており、金融機関は投資先の脱炭素化の取り組みを横並びで比較でき、グリーンビジネスに投資を集めやすくするというものです。EUモデルがそのまま世界で適用されるか、あるいは似たような枠組みが開発されるか、いずれかの方法によって、この画期的なグリーンファイナンスの枠組みは世界中のESG金融の基準や規制に影響を与えると予測されています。2021年4月に委任法が承認されて、2022年1月に施行が予定されています。「気候変動の緩和」に関しては、現時点(2021年6月)で9産業87事業活動が指定されており、製造業ではアルミニウム、鉄鋼、化学品などが対象となっています。しかしグリーンに分類されるハードルは高く、エネルギー集約型産業の閾値は、各セクターの上位10%の平均実績程度というように非常に厳しいのが当初案で、現在は緩和されているが、これも適宜見直されるという点も見逃せません。

対象企業
開示要件
開示の方法
開示時期
EU域内で金融商品を提供する金融市場参加者(1)原投資の持続可能性を測定する際に、どのように、どの範囲でタクソノミーが用いられたか
(2)その投資が貢献する環境目標
(3)タクソノミーに整合する原投資の割合(実現活動と移行活動のそれぞれの比率も含む)
金融セクターにおけるサステナビリティ関連情報開示規制に基づく、契約締結前交付書面および定期的な報告の要件の一部2021年末までに、気候変動の緩和・気候変動への適応に関連する最初の一連の開示を行う
非財務情報開示指令(NFRD)に従うことが義務付けられている大企業(従業員500人以上の上場企業を含む)(1)タクソノミーに整合する売上高の割合
(2)タクソノミーに整合する資本支出と事業運営費の割合
非財務諸表2021年についての情報を2022年に開示する

EU タクソノミー の意義

2018年ころから、 EU タクソノミー に関する議論がありましたが、日本はそうした国際的な流れに疎かったといえるのかもしません。結果として、EU 側の主導で分類ができており、今後、大きく影響を受ける可能性が高いと思います。これは日本に限らず、アメリカも同様であり、今年初めのアメリカのケリー 気候問題担当大統領特別特使も国境炭素税など、これらの一連の動きに対してけん制しています。

米 ケリー 気候問題担当大統領特別特使、EU による 炭素国境税 ( 炭素国境調整措置 )計画に懸念を表明2021年3月12日アメリカ ケリー特使がEU各国訪問中に、 EU に対して 炭素国境税 に対して懸念を示した記事。...

カリフォルニアの自動車規制の際に、ハイブリッド車が、従来のエンジン車と比べて環境負荷が非常に小さいにも関わらず、分類によりZero Emission Vehicl ( ZEV )とならないかった過去があります。今回のEU タクソノミー は、投資ルールをも変えていくものであり、グリーンな金融商品を取り扱うことは金融業界にとって非常に重要な課題となっています。そのため、グリーンウォッシュ(上辺だけの環境配慮)な企業と判断されると、融資を引き上げらえる等の事業に対して大きな影響を受ける可能性もあり、EU タクソノミーの基準は、世界で経済活動を行う企業にとって、非常に重要な規制となりそうです。

ABOUT ME
Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など