記事:Financial Times, “Pumped storage hydropower can help fuel the clean energy transition”
著者はマルコム・ターンブル氏で元オーストラリア首相(第29代)であった方です。 揚水発電 を含む水力発電を推進されている方ですが、その方が書いた記事を以下に示しています。
COVID19によって、エネルギーの低炭素化への移行について真実が明らかになった。
第一に、ワクチン改善と同様に我々の力を問題に集中することができるならば、局地的な環境の変化にも対応できるというとである。
次に、ロックダウンの結果としてエネルギーの需給が大きく変動するようになり、変動型の再エネ(Variable Renewable Energy:VRE)の比率を上げていくだけに頼ることはできず、特に緊急に電力が必要となった時の供給力としては期待できないことがわかった。2020年の夏にはカルフォルニアにおいて輪番停電が生じており、確立された多様な技術がないと、過剰な需要に対応できなかったのだ。官僚達は太陽光や風力が原因ではなかったと主張してはいたが。
2016年に生じたオーストラリアの停電のあとに明らかになったのは、VREから得た電力を長期でかつ大規模に貯蔵する必要性であった。それは、化石燃料と再エネの間にある代替案であった。2017年に、私は、 揚水発電 をその先例として導入し、200万kwのSnowy Hydro 2.0プロジェクトを立ち上げたのである。2025年において、南半球で最も大きい電力貯蔵施設となる。
電力貯蔵となるとほとんどの人がリチウムイオンを考えるが、現状、電力貯蔵の90%が 揚水発電 によるものである。パンデミックの状況において、 揚水発電 は電力量を維持するのに重要な役割を担っている。 揚水発電 は、コロナ禍において、イギリスの光を維持するための闘いにおいて、最前線で戦ってきた。更にクロアチアの電力網が過電流になった際、2021年1月のヨーロッパに起きた大規模な停電を防ぐのに貢献した。
揚水発電 は、追随機能が高く運用することができる。過剰な電力供給の際には、水を上げて貯水池に貯留することができる。必要な時には、需要に応じて発電機を動かし、すぐに電力網に供給することができる。低コストで長期にわたって機能することできる設備である。
2019年の末時点で、300の 揚水発電 プロジェクトがあり、合計で200GW(2億kw)である。しかし、そのうちの50、53GWが実質検討されており、ほとんど(47GW)が中国という状況である。
初期投資の大きい低炭素電源に対してこそ政府は補助を行うべきであり、買い手におこりリスクを政府が受け持つべきである。英国における Contracts for Difference はこの事例と言える。それにより、これまで考えられなかった大規模かつ低価格で洋上風力を実現することになる。
考察
著者のマルコム・ターンブル氏は、2016年に生じたオーストラリアの南部大規模停電時に首相であり、その際、再エネの大量導入がその原因と非難された経験を持っています(参考記事)。その際の経験が、スノーマウンテン水力発電所の増設(スノーイーマウンテン水力発電所拡大)、現在のSnowy Hdydro 2.0 Projectへとつながっていったものだと考えられます。
2020年8月に生じたカルフォルニアの輪番停電、2021年1月の日本における電力市場高騰、2021年2月のテキサスで生じた停電及び電力市場高騰がありますが、それらに加えてこのオーストラリアの事象も、日本の制度設計で参照すべきであったにも関わらず、あまり注目されてこなかったように感じます。また、実際停電にはならなかったもの、ヨーロッパでも大規模停電が所持る可能性があったことも、検証されるべき事象だと考えます。
マルコム・ターンブル氏の最後の考察についても、理にかなっており、日本においても 揚水発電 にインセンティブをつけ、新設も含めて推進すべきではないでしょうか。