記事:Reuters, 2021/5/4, “EU carbon price hits record 50 euros per tonne on route to climate target”
カーボンプライスの高騰
記事によると、欧州連合 ( EU ) の カーボンプライス は2021年5月4日に、1 ton 当たり 50 eurosを超える最高値を記録した。その値は、革新的なクリーン技術への投資を引き起こすのに必要な価格水準に向けて、長期的に上昇する切欠となる可能性があるとアナリストは指摘しており、一つのマイルストーンを達成したと述べた。
EU において、 カーボンプライス は、 気候変動 を引き起こす 温室効果ガス の排出を抑制するために主要なツールであり、ヨーロッパ内において、発電事業者、産業、航空会社に温暖化ガスを排出する場合に EU は許可を買うことを強要しています。 EU は、2030年までに純温室効果ガス排出量を少なくとも55%削減するという新しい目標を含む、より厳しい気候目標を達成しようとする中、市場関係者は、市場が上昇する多くの要因を見つけた(上昇要因に関する記事はこちら。”Europe clinches deal on wide-ranging climate law to speed emissions cuts”)。ベンチマークである EU Allowance ( EUA ) の価格は、2021年5月4日に1 ton 当たり 50.05 eurosに達し、2005年に炭素市場が開始されて以来最高となった。EUAは、2021年12月の約定したものが、年初から約50%急騰している。
そうした中、「多くの強気要因があり、我々はこのレベルまで価格が上がるとした理由だ。」と、RefinitivのアナリストであるIngvild Sorhus氏がロイターに語った。これには、EUの新しい気候目標からの政策支援に加えて、価格の高騰から魅力に感じた金融投資家の需要増加、今後数年間で価格が更に上昇する可能性が高いというアナリストのコンセンサスも含まれている。
そのコンセンサスの理由となっているのは、 欧州委員会 は今年の夏、EUカーボン市場の改革を含む2030年の目標を達成するために、すべてのセクターで排出量を削減する政策のパッケージを提示するこになっているためである。これにより、CO2証書の需要を高め、より不足することが予測されている。そうした中でアナリストは、「低炭素の代替技術が、従来の化石燃料を用いた技術と比べて競争力を得るためには、EUの カーボンプライス が、CO2削減を引き起こすのに十分に高いレベルへ上昇する必要がある」と述べている。
また、BNPパリバのチーフ・サステナビリティ・ストラテジスト、Mark Lewis氏は、「 カーボンプライス は、2050年までに 欧州連合 ( EU ) が カーボンニュートラル を達成するために十分な価格にならなければならない。」と述べ、2050年までに実質的な排出量がなくなるという EU の長期的な目標に言及した。またMark Lewis氏は「そのためには、 再エネ から生産された 水素燃料 ( グリーン水素 )を、化石燃料から生産された水素( グレイ水素 )に比べて競争力を持たせるために、 カーボンプライス が十分に高くなくてはならない」とも述べた。
更に、Mark Lewis氏は、「これに基づけば、2030年までに 1 ton 当たり 90 eurosに達することは、合理的な予測だと考える。」と述べた。
産業界における排出量
EU の炭素市場の対象となる発電所や産業からの排出量は、2005年から2019年にかけて35%減少した。これまでのところ、これらの削減のほとんどは発電が要因であり、CO2価格の上昇が石炭燃料発電所を不経済にし、石炭からガスへの切り替えを引き起こた。またベレンバーグのアナリスト、Lawson Steele氏は EU の カーボンプライス が今年の末に2倍以上になると予測しており、「電力部門において石炭からガスへの転換を起こした。電力業界は今、次の段階に進まなくてはならない。」と述べた。
この カーボンプライス については、 EU の炭素市場からの収入のほとんどが各国政府に収められ、CO2排出量の削減に投資するために使われる。欧州企業がより高い炭素コストに直面する中で競争力を維持するために、 EU では海外からの輸入に対して 炭素国境調整税 を導入する予定にしている。これはあと数年は発効する見込みはなく、一部の業界では、CO2コストの上昇により、炭素削減技術に投資する資金を既に圧迫していると述べている。鉄鋼業界団体ユーロファーのスポークスマン、Charles de Lusignanは、「記録的な水準への価格の上昇は、様々な問題を引き起こす。第一に、グローバルな競合他社は、これらの炭素制約を持っていない。第二に、低炭素移行を可能にするために必要な新技術への投資がはるかに難しい。」と述べた。
考察
4月22日及び23日に、アメリカで気候変動サミットが行われ、アメリカ、ヨーロッパ及び日本など各国が目標に関して公表を行いました。図1に示しますように、昨年度末以降、気候変動対応を各国が実施する傾向を受けて、 EU における カーボンプライス は上昇傾向にありました。
IEAのProjected Costs of Generating Electricity 2020 Editionによると、 Levelized Costs of Energy を電源毎に示すとともに、石炭火力及びガス火力に与える カーボンプライス の影響を示しています。ただし、注意すべきは、Life Cycleベースの原価であり、商業ベースではないことに注意が必要です。これによると、陸上風力は競争力を有する部分も出てきていますが、依然として、火力発電の優位性は変わっていません。ここで、火力は カーボンプライス が、1 ton 当たり 30 eurosであることを考えると、今少し火力発電所による価格が上昇するものと考えられます。同レポートでは カーボンプライス による感度分析をおこなっており、ガス火力であれば、1 ton 当たり 100 eurosでも、その際は凡そ2円/kWh(20USD/MWh)程度となります。つまり他の電源と比べても依然として、ガス火力の優位性は現状は当面は変わりそうにありません。