記事:AFP, 2021/5/20, “US waives sanctions on Nord Stream 2, builder of Russia-Germany pipeline”
記事によると、バイデン アメリカ大統領政権は2021年5月19日、 ノルドストリーム2 に対する制裁を放棄した。それは、アメリカ政府が地政学上安全保障リスクと呼んでいた事案であり、ロシアとドイツをつなぐガスパイプラインによりロシア支配につながる。Antony Blinken国務長官は議会に宛てた書簡の中で、スイスに本拠を置くの ノルドストリーム2 AGに対して、議会が決定した制裁を放棄し、その理由として、Matthias Warnig最高経営責任者 ( CEO )のことを「米国の国益にある人物」であるからとした。
この動きは、ドイツや他のヨーロッパ諸国が地域への長期的なエネルギー供給を確保するために重要であると考えているプロジェクトをめぐって生じていたワシントンとベルリンの間の緊張を和らげることになった。というのも、ドイツとしては、これは国内政治への干渉であり、プロジェクトへの制裁発動を拒絶していたからである。
しかし声明の中でBlinken氏は、「バイデン政権は制裁の一部を放棄するものの、 ノルドストリーム2 に対する立場は変わっていない」と述べた。更に同氏は、「我々は、欧州のエネルギー安全保障、ウクライナ、東側NATO及びEU諸国のエネルギー安全保障を弱めるこのプロジェクトが完成することには依然反対である。我々の立場は、国家安全保障の問題として、大西洋横断関係を強化するという立場に沿ったものだ。」と述べた。
完成率95%を超える1,200kmのパイプラインは、バルト海の下を通っており、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツへ、ロシアで生産された天然ガスの販売量を倍増させることになる。ロシアの巨大企業 ガスプロム ( Gazprom )は、ドイツの ウィンターシャル ( Wintershall )とユニパー ( Uniper )、オランダー英国の巨大企業 シェル ( Shell )、フランスの エンジ ( Engie )とオーストリアの OMV を含む国際コンソーシアムと協力して、プロジェクトの過半数の株式を持っている。
ガスプロム は ノルドストリーム2 AGを支配しており、 ノルドストリーム2 AGの最高経営責任者 Warnig氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近いと伝えられている。
2021年5月19日の決定は、ワシントンの以前の姿勢から大きく変化することになった。2020年、米国の制裁を示唆することで、パイプライン敷設活動が1年近く保留された。制裁の脅威に晒されている中で、12月に作業が再開された。3月、Blinken氏はブリュッセルで、パイプラインはヨーロッパの利益とエネルギー安全保障目標を損なうだろうと述べた。「 ノルドストリーム2 プロジェクトは、悪い政策だ。ヨーロッパにとって悪いし、米国にとって悪い。」と同氏は当時述べ、プロジェクトに関係するあらゆる団体に対する制裁を示唆していた。
先週水曜日、ドイツのHeiko Maas外相は、こうした期待される動きを融和的な一歩として歓迎した。「ワシントンの決定は、バイデン政権と築いた非常に良好な関係が考慮されているものと理解している」と同氏は述べた。
国務省は、パイプラインの建設と管理に関与するいくつかの船舶と小規模な企業や組織に対する制裁を承認した。クレムリンの報道官、Dmitri Peskov氏は、これらの動きを歓迎し、「新たな制裁が発表されるよりも良い。好意的な動きだ。」と述べた。
しかし、この動きは共和党のJim Risch上院議員によって強く批判され、放棄することは「バイデン・プーチン首脳会談をまもなく行われるるが、アメリカの交渉におけるレバレッジを弱めるだけで、プーチンへの贈り物でしかない。」と述べた。更に同氏は「バイデン政権は、中央、東欧、北ヨーロッパの同盟国よりも、ドイツとロシアの利益を優先している。」と声明の中で述べた。
このプロジェクトは、長い間アメリカの十字架にであり、トランプ前大統領の政権は、米国のガスを促進し、ロシアからエネルギーを購入するヨーロッパ諸国を公然と批判した。ロシアの隣国ポーランド、ウクライナ、バルト諸国も、地政学におけるロシア政府の政治的な力を高めるのではないかと懸念し、パイプラインに激しく反対した。新しいパイプラインは、2011 年に運用を開始した元の ノルドストリーム1 パイプラインのルートに沿っている。
考察
ノルドストリーム2は、アメリカが依然から反対していたプロジェクトであり、これまで関連する企業や団体に対して制裁を行ってきた。ここにきて、制裁を緩和する理由が今一つはっきりしていません。
なお、19日夜には北極評議会の会合がアイスランドの首都レイキャビクで開かれます。参加8ヵ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国の外相級閣僚が参加します。ロシアのLavrov外相は会合に先立って「北極圏がロシアに属することは、かなり前から皆にとって明らかであり、ロシアの北極圏における軍事行動は合法的なものだ」と発言しており、これに対しBlinken国務長官はLavrov外相の発言を批判しつつ、北極圏の軍事化を避け、平和的協力の場とするべきだと主張し、真っ向から対立しています。国務長官はその一方で、「対面式での会合を通じて、ロシアとの間で安定し予測可能な関係を築くことができるか話してみることが重要だ」とも述べ、気候問題などでは協力を目指す意思を表明しています。更には6月には、バイデン大統領とプーチン大統領との欧州での会談も計画されています。この北極海の問題は、スエズ運河の事故を切欠に、新たなルート探しを模索する動きがありますが、日本にとっても、ヨーロッパへつながる新たなルート候補でもあるので、非常に重要な問題となっています。図を見てもわかりますように、スエズ運河を通るよりも、氷河の状況にもよりますが、非常に有効な運路となります。
ノルドストリーム2を含め、アメリカ政府のロシアに対する政策は、世界のエネルギー情勢に大きく関わってきますので注視していきたいと思います。