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アメリカ 最大の電源である ガス火力発電 の未来

記事:WSJ, 2021/5/16, “Natural Gas, America’s No. 1 Power Source, Already Has a New Challenger: Batteries”

ガス火力発電 と 再エネ の現状

WSJによる ガス火力発電 が 座礁資産 ( stranded assets )になるのではないかという記事です。今後の電力の在り方について、考える上で参考になるように思います。

アメリカ エネルギー大手 Vistra Corp は全米最多クラスの36基の ガス火力発電 を有しているが、これ以上は発電所を買収または建設する予定はない。代わりに テキサス と カリフォルニア で太陽光発電所と蓄電池に10億ドル以上を投資し、新技術によって変貌しつつある電力業界で生き残うとしている。
 「次のブロックバスター(2013年に経営破綻した米ビデオレンタル大手名)にならないよう必死だ。私はこのレガシービジネスが衰退していくのを黙って見守るつもりはない。」とVistraのCurt Morgan最高経営責任者(CEO)は述べた。

米国では10年前、 フラッキング ( 水圧破砕法 による掘削)によって 天然ガス が安価に手に入るようになり、 天然ガス が 石炭 に代わって最大の電力供給源となった(参考記事:How Natural Gas and Renewables Dethroned King Coal)。今度は 天然ガス が同様の市場破壊によって脅威にさらされている。新たな破壊をもたらしているのは、 風力 や 太陽光 を利用した費用対効果の高い 蓄電池 だ(参考記事:The Battery Is Ready to Power the World)。
アメリカエネルギー情報局 ( EIA )によると、2019年の アメリカ の発電量に占める ガス火力発電 は38%に上り、24時間体制で電力を供給し、ピーク需要を満たしている。しかし 風力 や 太陽光 も大きなシェアを獲得しており、電池コストの低下に伴って、 グリーン電力 と 電池 の組み合わせが需要を満たす役割を担いつつある。電池 に安価な グリーン電力 を蓄え、太陽が沈んだ後や風がやんだ後に供給することになる。米電力市場に占める 蓄電池 の割合はまだ1%にも満たず、現在のところ主に太陽光発電装置から給電されている。 太陽光 発電の出力量はかなり予測可能で、貯蔵によって増やしやすい。よって 蓄電池 と 再エネ を併用することで、何十億ドルもの天然ガスへの投資を無駄にする恐れがある。つまり、何十年も稼働することを見越して過去10年間に建設された発電所が、採算が取れるようになる前に引退する座礁資産と化すことが懸念されている。

米国の現在までの 再エネ の成長は、電力会社に一定量の グリーン電力 の調達を義務付ける州の規制や、 風力 ・ 太陽光 発電の経済的競争力を高めた連邦政府の税制優遇措置によるところが大きい。しかし 再エネ は近年、補助金なしでもコスト競争力を増している。このため 化石燃料発電 に代えて 風力 ・ 太陽光 発電に投資し、自主的に二酸化炭素 ( CO2 )排出量を削減しようとする企業が増えている。気候変動に対処する州・連邦規制が強化される見込みであることも、こうした傾向を加速させている
バイデン大統領は、2兆3000億ドル規模のインフラ計画の一環として、 再エネ の税控除措置を、発電施設の一部として設置されるものではない、単体のバッテリープロジェクトにも適用することを提案している。これは、既に活況を呈している蓄電市場に一段と弾みをつける可能性がある。

アメリカでの新たな追加再エネ電源
再エネ 、アメリカにおいて、2021年第1四半期に新規電源が過去最高に2021年の第1四半期において、アメリカの新規 再エネ 電源が、過去の四半期に比べて、最高値を示したことを報道している。従来から再エネ導入に積極的であった カルフォルニア や テキサス において顕著であった。...

ガス火力発電 対 再エネ

ガス火力発電 は、 風力 や 太陽光 との競争で既に苦戦している。アメリカ電力大手デューク・エナジーは依然、 ガス火力発電 の増設を検討している。しかし、発電所がさほど長く運営できない可能性があるため、早期に採算を取れるよう財務計算を見直し始めている。
デューク・エナジーは、 石炭 火力発電 の廃止や 太陽光 ・ 風力 への投資拡大に伴う需要に対応するため、カロライナ州に最大9600MWのガス火力発電所を新設することを提案している。しかし、同社は規制当局への届け出の中で、新たな ガス火力発電 は、技術の進歩に伴って採算が合わなくなり、 座礁資産 となる可能性があることを認めている。 テキサス の電力網を運営する テキサス電気信頼性評議会 ( ERCOT )によると、1MWの電力で約200世帯分の電力を賄える。
デューク・エナジーの届け出によると、同社はこの問題に対処するため、発電所の予測耐用年数を約40年から25年に短縮し、耐用年数の初期の償却額を大きくする「 加速償却 」を用いて費用を回収することを検討している。また最終的には、燃焼時に CO2 を排出しない水素を燃料とする発電所に転換する可能性もある。
デューク・エナジーの統合資源計画担当ディレクターを務めるGlen Snider氏は「これは調査しているリスクの一つだが、当社が行うあらゆる技術面の意思決定において、そうしたリスクを考慮する必要がある。」と述べ、どの電力投資も市場破壊の可能性に直面していると指摘した。

EIAによると、米国では2014年以降、60,000 MW以上の ガス火力発電 の稼働が開始された。多くが早期閉鎖を余儀なくされている 石炭火力発電 と同様、 ガス火力発電 も何十年も稼働することを前提に資金が投じられた。しかし、米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、 石炭火力発電 の多くは数十年前に建設され、耐用年数の終わりに近づいているため、閉鎖による 座礁コスト はさほど大きくない。一方、米国内の ガス火力発電 の多くは建設から比較的日が浅く、今後20年以内に大規模な閉鎖が行われた場合、多額の 座礁コスト が発生する可能性が高い。
終日電力を供給するガス火力発電は、廃止に関する大きなリスクに直面している。典型的なベースロードを担うガス火力発電の場合、設備利用率として60%から80%が経済的に成り立ち、太陽光や風力によって供給される電力不足を埋め合わせることで価値が生じている。最近では、発電所の設備利用率は平均で60%となっており、この10年のうちに、その利用率は50%まで落ち込み、発電会社が破綻する恐れがある。「ガス火力発電所は大量の再エネ導入の脅威に晒されており、これは石炭火力の時と同じである。」とIHS Markitの副部長であるSam Huntington氏が述べている。
フラッキング で安価に得られたガスが発電用の石炭に取って代わるまでには、わずか数年しかかからなかった(参考記事:A Decade in Which Fracking Rocked the Oil World)。EIAによると、 フラッキング ブームが始まって間もない2011年から2020年の間に、発電容量計95,000MW分の100基以上の 石炭火力発電 が閉鎖されるか、 ガス火力発電 に転換された。2025年までにさらに25,000MW分の 石炭火力発電 が閉鎖される予定だ。

電力網用の蓄電池

電力網用の蓄電池の多くは、電気自動車(EV)に使用されているのと同じようなリチウムイオン製だ。大型の輸送用コンテナのような見た目で、複数の電池をまとめて配列し、大容量の電力を供給できるようにしていることが多い。 再エネ に付属しているものもあれば、単独で設置され、電力網から給電されているものもある。
蓄電池は、 風力 よりも 太陽光 と併用されることが多い。 太陽光 の方が発電量を予測しやすいことと、その組み合わせの方が連邦政府の税額控除を受けやすいためだ。 風力 と蓄電池の併用に取り組んでいる企業もあり、技術コストが低下すれば、市場の拡大が期待できる。

100MWの蓄電池を放電して電力を2時間供給するコストは、ピーク時に稼働する特殊な発電所の発電コストと既にほぼ同等になっている。投資銀行Lazardによると、そのような蓄電池の供給費用は1MWh当たり最低140ドルで、供給不足の際に需要に応じて稼働するピーク発電所では、最もコストが安いプラントで1MWh当たり151ドルだ。一方、 太陽光 と蓄電池の併用は、常時稼働する ガス火力発電 と競争できるようになりつつある。Lazardによると、そのようなタイプのプロジェクトの発電コストは1MWh当たり最低81ドルで、最もコストの高いガス発電所の発電コストは1MWh当たり平均73ドルだ。ニューヨーク州やカリフォルニア州で進められている大規模な蓄電池プロジェクトは、CO2の排出量を削減するための州の規制が一部後押ししており、電池の経済性を向上させるだけにとどまらない。
電力市場 の競争が激しく、排出規制のない テキサス でさえも、 ガス火力発電 はほとんど建設されておらず、 太陽光 や 蓄電池 の利用が急速に増えている。 ERCOT によると、同州では約88,900 MWの 太陽光 、23,860 MWの 風力 、30,300 MWの 蓄電池 が企業によって検討されている。一方、検討中の新たな ガス火力発電 容量は 7,900 MWにとどまる。

しかしながら電力会社や電力網規制当局は、少なくとも当面は、新たな電力源の信頼性は既存の発電所ほど高くない可能性を考慮する必要がある。2月に起きた テキサス の大停電は、その懸念を浮き彫りにした。

テキサスの2月の冬に起こった停電は冬季対策不足が原因
アメリカ テキサス州 で起きた2021年2月の 停電 に関する追加の中間報告書 テキサス州電力評議会 ( ERCOT ) が発表 ERCOT が発表した報告書の概要 4月13日にテキサスにおいて、春にも関わらず、寒冷前線が到来し、急激に気温が下がりました。ち...

テキサス では、気温の低下で電力需要が急増していたところに強力な寒波が襲い、風力タービンやガス火力発電 、 原子力発電 などの多くの電力源が凍結。壊滅的な停電が何日も続いた。たとえ テキサス に 蓄電池 がもっとあったとしても、 風力 ・ 太陽光 の生産性が低い時期だったことを踏まえると、数日間に及ぶ供給不足の緩和にはあまり役立たなかった可能性が高い。企業幹部やアナリストはそう話す。現在のほとんどの 蓄電池 は、一度の充電でせいぜい4時間程度の供給しかできない。
カリフォルニア では昨夏、 ガス火力発電 への依存度を急速に下げた結果、その影響を受けることになった。米西部が熱波に見舞われた8月、同州の電力会社は需要急増による供給不足を緩和するため、 計画停電 を余儀なくされた。 カリフォルニア州公益事業委員会 ( CPUC )と カリフォルニア州エネルギー委員会 ( CEC )が共同作成した事後分析では、その一因に 太陽光 や 風力 への急激なシフトが挙げられていた。

ガス火力発電 の廃止

他の電力会社と同様に、Vistra社もすぐにガス火力発電が廃止されるとは考えていない。CEOであるMorgan氏は、2016年にCEOに就任以来、いくつものガス火力発電や石炭火力発電を廃止してきたが、今後20年にわたってほとんどの電力会社において、依然ガス火力発電は維持されると予測している。
2030年以降、風力や太陽光によって供給される電力が蓄電池により増加し、ガス火力発電が使われる機会が減ると予測している。Vistra社においても、カルフォルニアのMoss Landingにおいて、世界最大の蓄電プロジェクトを予定している。その蓄電池は、かつてガス火力発電のタービンが設置されていた場所に設置され、400MWの容量で約4時間供給することができるようになる。
巨大蓄電池は、アメリカ中で、古いガス火力発電にとって代わることになる。Florida Power & Light社は、今年の早い段階において、太陽光と蓄電池を合わせてた世界最大級のシステムを建設する。それは、ガス火力発電2ユニットに置き換わるものとなる。それは409MWの容量であり、ディズニーワールドに7時間電力供給ができる。

Quantum Energy Partnersは、ヒューストに拠点をおくプライベート資産管理会社であるが、ここ数年でテキサスの6つのガス火力発電、その他の州の3つのガス火力発電を売却しており、再エネがどれほど競争力を有するようになったかがわかる。更に、同社が10州において、8,000MWにもおよぶ容量の再エネの開発を実施している。同社のパートナーのSean O’Donnell氏は「我々は方向転換しており、従来型の発電に関わる全てを売却しようとしてる。それというのも、ますます競争が厳しくなり、将来のリターンがなくなる可能性を見越してのことである。」と述べている。

考察

ガス火力発電が 座礁資産 となるかどうかのポイントとして、 再エネ の大量導入に加えて、 蓄電池 の普及を指摘しています。実際、 限界費用 が限りなくゼロに近い 再エネ の大量導入は、 ガス火力発電 の 設備利用率 を下げることになります。

一方で、蓄電池の普及は、電力網全体に安定をもたらすほどには対応していないのが事実です。そのため、 再エネ を大量に導入した カルフォルニア や テキサス では、2021年の夏において、電力危機が予測されており、その対策の一つとして、廃止するはずであったガス火力発電の廃止延期が予定されています。これは、ドイツでも同様であり、廃止を予定されていた石炭火力が廃止延期となっています

カルフォルニア や テキサス などの州において 2021年夏の 熱波 による停電の可能性もありカルフォルニア 州において、昨年の8月の 輪番停電 に続き、2021年夏においても、 熱波 による 停電 の可能性があるというもの。Calfornia ISOから今期の需要予測と供給力に関する報告書が2021年5月12日に発表されており、それも考察と合わせて記載しています。...

また、再エネ事業では、常時は競争力があるが、非常時は脆弱であり、テキサスの冬の停電時においては、再エネ事業者が大きな損害を被っています

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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など