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ELCC ( Effective Load Carrying Capability ) 供給信頼度対応能力 とは?電力系統 にとって本当に必要な貯蔵容量を予測するために必要な指標

記事:Energypost.eu, 2021/6/18, “ELCC: for predicting how much storage a grid really needs”

本記事は、これまで停電を回避するために電力供給エリアにおける設備予備率を用いていましたが、Variable Energy Resource, VER 、制御の効かない再エネ 電源( 風力 や 太陽光 )が大量に導入された場合に、どういった指標で検討するのかについて、 ELCC ( Effective Load Carrying Capability )、日本語では 供給信頼度対応能力 という指標を使うということを話題にした記事です。

ELCC とは

電力系統に必要な貯蔵容量があまりにも少ないと、停電につながる。大量に導入されると資金の無駄を意味する。予測を間違うと、政策の優先順位と投資が歪み、クリーンな電力網への移行が遅くなる。供給信頼度対応能力 ( Effective Load Carrying Capability, ELCC )は、電力網において、電力需給が厳しくなる際に、電力供給ができる容量をしめしている。懸案に取り組む科学者の連合組織に所属するMark Specht氏は、それがどのように機能するかについて説明している。一般的な 4 時間の産業規模の蓄電池は、最初に電力系統に導入された場合は、 ELCC が高くなる。しかし、より長い期間のピーク需要を補うために、多くの蓄電池が導入されると、そのELCCの値は低くなっていく。というのも、4時間という時間は、長期のピーク時間を補うには小さすぎるからである。Specht氏は、技術革新により長い期間(1週間、1ヶ月、季節的に)を蓄電できる電池が開発されれば、 ELCC の値が高くなり、価値の低下は緩やかになると説明している。あらゆる関連エネルギー源が ELCC を持ち、電力系統上にある他のエネルギー源が互いの ELCC の値に影響を与えるため、計算は複雑になる可能性があると述べる。しかし、適切なエネルギー源の組み合わせを得るためには、系統運用者は、現在使用されている容量の貢献を定量化する粗雑な方法の代わりに ELCC を使用する必要があるとSpecht氏は主張する。電力系統の信頼性を高め、投資の選択を増やすのは、ELCCにかかっていると述べる。

電力系統を整理するには、膨大な量のエネルギー貯蔵が必要である。その貯蔵は、太陽が輝き、風が吹いているとき、余分な再エネを貯蔵する。その後、貯蔵した電気を、再エネの発電量が低い際、電力系統で最もそのエネルギーを必要とする際に供給することができる。

エネルギー貯蔵は、後で使用するためにエネルギーを貯蔵することで、電力系統の信頼性を維持するのに役立つ。しかし、主にクリーンエネルギーとエネルギー貯蔵を中心に実行されるグリッドに移行する際には、系統運用者はエネルギー貯蔵が電力慶弔の信頼性をどの程度保証するかを決定する必要がある。エネルギー貯蔵による電力系統への信頼性を過大評価すると電力系統の信頼性が損なわれる可能性があるため、これを正確に正しく行うことが重要であるが、これらの貢献を過小評価すると、エネルギー貯蔵資源への投資が妨げられ、よりクリーンな電力系統への移行が遅くなる可能性がある。

以前のブログでは、多くの系統運用者と事業者が、再エネの信頼性貢献度を決定するために、 ELCC と呼ばれる指標を使用していることを説明した。エネルギー貯蔵への ELCC の応用に取り入れてみましょう。

供給可能時間

電力貯蔵の電力供給量と呼ばれる電力系統への信頼性を測定することは簡単ではないが重要である。全国の系統運用者は、資源の妥当性(系統容量、地域容量、変動可能容量)プログラムを使用して、電力需要が最も高いときにライトを点灯し続けるのに十分な電力供給があることを確認している。リソースの貢献度によって、そのリソースが必要とする要件に対してどの程度カウントされるか、さらにその所有者にどれだけ支払われるかが決定される。

蓄電池や揚水水力発電などの資源は有限であるため、容量の貢献度を決定することは、エネルギー貯蔵という観点で難しい。つまり多くのエネルギーを貯蔵することができるだけである。携帯電話やワイヤレススピーカーと同じように、エネルギー貯蔵資源がすべてのエネルギーを供給すると、少なくとも充電が終わるまで機能しなくなる。したがって、エネルギー貯蔵の容量としての貢献を決定する重要な要因の1つは、その定格電力容量で貯蔵した電力が排出できる期間、または時間の長さとなる。たとえば、定格電力容量が 100 MW の蓄電池が、100 MWで 4 時間連続して供給できる場合、その蓄電池の供給時間は 4 時間となる。(定格電力容量、エネルギー容量、および持続時間の詳細については、”Grid-Scale Battery Storage”を参照)。現在、ほとんどの系統運用者は、エネルギー貯蔵の容量寄与を考慮していない。貯蔵容量の貢献度を、その期間に基づいて決定する一般的なルールを持っているだけである。

例えば、カリフォルニア州の資源妥当性プログラム(カリフォルニア州公益事業委員会, California Public Utilities Commission, CPUC が運営)には、エネルギー貯蔵資源が定格電力容量に一致するためには、エネルギー貯蔵資源に少なくとも4時間の期間が必要であるという規則がある。一方、 PJM (米国東部の大部分の系統運用者)は、エネルギー貯蔵は定格電力容量に合わせて容量貢献のために少なくとも10時間の期間が必要という規則を持っている(しかし、 PJM は現在、 ELCC 計算に基づく新しいフレームワークに移行しようとしている)。

エネルギー貯蔵期間に基づくこれらの厳格かつ簡易な規則は、貯蔵の容量貢献を定量化する粗雑な方法である。クリーンで近未来な電力系統への移行がさらに進み、ますます多くのエネルギー貯蔵が系統に反映されるにつれて、系統運用者はエネルギー貯蔵の容量がどのように系統に貢献するかを計算するために、より洗練された方法が必要となる。

ELCC の基本理論とエネルギー貯蔵

ELCC 理論の中核となるのは、電力系統が電力不足となる可能性が最も高い時に、エネルギー供給することができる容量の測定である。それは、 再エネ ( 風力 や 太陽光 など)を評価するか、エネルギー貯蔵を評価するかということになる。例えば図1に示すように、ある電力系統において、太陽光の容量が5GWまでにおいては、全体容量の73%はピーク抑制に貢献するものの、追加5GWでは29%、更に5GWでは2%しか貢献しないことになる。しかしある意味、エネルギー貯蔵への ELCC の適用は異なっている。 風力 や 太陽光 とは異なり、エネルギー貯蔵はディスパッチが可能である。つまり、エネルギー貯蔵は(充電されている限り)いつでも電力系統に電力を供給できる。一般的にこれは、電力系統が電力不足になる可能性が最も高い時に貯蔵したエネルギーを供給できるため、エネルギー貯蔵の ELCC を再エネよりもはるかに高くすることができる。

図1 再エネの電力系統への貢献度

しかし、エネルギー貯蔵は依然としてその持続時間によって制限さる。例えば、負荷が非常に高く、電力不足が発生する可能性がある場合、電力ピークが連続して 6 時間に達すると、2 時間供給できる蓄電池はその期間は信頼性を確保しているといえるが、定格電力容量で 6 時間供給できないため、その ELCC (および容量の貢献度) は定格電力容量のほんの一部に過ぎない。これらの基本を念頭に置くと、エネルギー貯蔵の ELCC に影響を与える要因がいくつかある、つまり、電力系統常にある蓄電池の容量、貯蔵期間、負荷/供給のリソースの基となるポートフォリオ、電力系統に貢献するその他のリソースなどが挙げられる。

エナジー貯蔵容量導入量と ELCC の関係

風力や太陽光のような再エネの場合と同様、エネルギー貯蔵の ELCC は、容量が増加するほど減少する。この現象表している図は、図2のようになる。これに関する詳細は、”Capacity and Reliability Planning in the Era of Decarbonization”に記載されている。4時間の貯蔵は、ピーク負荷時間中において、電力系統の信頼性を確保するのに素晴らしい役割を果たし、電力系統に追加された最初の電力貯蔵として、その ELCC は非常に高い(図2で言えば、86%)。しかし、この貯蔵を追加するにつれ、その電力系統において電力が不足する可能性が最も高い時間帯が広がり、追加の4時間の貯蔵では電力系統の信頼性を確保するのにそれほど効果的ではない。その結果、 ELCC はかなり急速に減少し始めます。つまり図2でいうと、4時間の貯蔵は、ピーク時(図2の左側のチャート)で電力系統の信頼性を確保するのに最初は非常に効果的であるが、電力系統(図2の右側のチャート)に追加される4時間のストレージが増えるにつれて、その ELCC は低下していく。5GWまでは86%、5GWから10GWでは44%、10GWから15GWでが35%というようにである。

図2 Energy Storageに関する ELCC

貯蔵可能時間に関わらず ELCC は低下

図3のチャートは、多くの再エネが導入されているカリフォルニア州の系統上の信頼性要件を調べるE3研究に基づいており、10時間の貯蔵は、特に少ない容量導入時期において、4時間の貯蔵よりも高い ELCC 値を有することを示している。しかし、時間に関係なく、電力系統に十分な量を追加すると、エネルギー貯蔵の ELCC は最終的に低下していく。 ELCC の値が減少することについて注目すべき重要なことの1つは、現実の世界において、それほど迅速にエネルギー貯蔵の導入が起こらないということである。この調査によると、エネルギー貯蔵の ELCC は、カリフォルニア州において、相当大量のエネルギー貯蔵を追加した場合にのみで生じる。40GWとは、今日の電力系統上の10倍以上の量になる。つまり、エネルギー貯蔵は系統運用の信頼性を確保する上で相当時間がかかり、ELCCはそう簡単には低下しない。そしてもう一つ指摘しておくべきことは、10時間の貯蔵というのはまだ比較的短い時間である。技術が1週間、1ヶ月、または季節的なエネルギー貯蔵ができるようになれば、ELCCは相当高くなる。

図3 10時間と4時間貯蔵での ELCC の比較

エネルギー貯蔵のELCCに影響を与える要因

外部要因は、エネルギー貯蔵の ELCC を決定する上で大きな役割を果たす。例えば、電力需要の形状と運用系統上の他のリソースの種類/特性は、どちらも重要な考慮すべき事項である。例えば、電力系統が異なれば(負荷プロファイルと世代ポートフォリオの両方の点で)、4時間のエネルギー貯蔵の ELCC 値は変わる。図4のグラフは、太平洋北西部(Pacific Northwest)では、4時間のエネルギー貯蔵の ELCC が国内の他の地域よりもはるかに早く低下することを示している。グラフの作成者は、この急激な減少は太平洋北西部の水力豊かな電力網によるもので、4時間のストレージを追加しても、既存のエネルギー貯蔵が多く、水力発電システムに組み込まれているため、電力系統の信頼性にはあまり影響しないと説明している。

図4 4時間のエナジー貯蔵のELCC値, 出典:Utility Dive
図5 Pacific Northwestの電源構成
図6 Pacific Northwestの位置

貯蔵の ELCC 向上に貢献する再エネ

興味深いことに、電力系統に再エネを追加すると、実際にエネルギー貯蔵の ELCC を後押しすることになる。National Renewable Energy Laboratory ( NREL )の研究によると、カリフォルニア州の太陽光発電と100%の ELCC を持つ4時間のエネルギー貯蔵量との関係をグラフ化している(図7)。

太陽光の導入量が11%までは、エネルギー貯蔵の必要性を低下させるが、それ以上導入量が増えると、必要となる容量が極端に増え始める。研究の著者らは、太陽光の導入が少ない際には、太陽が正味負荷形状を平坦化するとしているが、導入量が増えるにつれて、太陽は正味の負荷形状を「ピーク」にし、短期間のエネルギー貯蔵の ELCC を押し上げることを指摘している。

図7 太陽光発電の導入量とエネルギー貯蔵の必要導入量

何故ELCCが重要か

よりクリーンな電力系統に移行するにつれて、エネルギー貯蔵は電力系統の信頼性を確保する上で大きな役割を果たす。カリフォルニア州および全国の系統運用者と規制当局が直面している課題は、電力貯蔵が電力系統の信頼性にどの程度寄与しているかを正確につかむことである。間違うと、電力系統の信頼性が損なわれたり、エネルギー貯蔵への投資を妨げたりして、クリーンな電力系統への移行が遅くなる可能性がある。エネルギー貯蔵投資が急速な脱炭素化に必要なペースで継続されるようにするために、ELCC による検討は、投資家に安定的な環境を与える方法で適用し、エネルギー貯蔵の貢献を一貫した予測可能な方法で評価する必要がある。

同時に、エネルギー貯蔵への ELCC を適用することで、エネルギー貯蔵が短期間で広めることが難しいことを知ることができる。クリーンな電力のみで運用する系統へ成功裏に移行するためには、エネルギー貯蔵は非常に役立つが、最終的にはグリッドの信頼性を高めるために他のタイプのリソースに投資する必要もある。

全体として、 ELCC の適用は、エネルギー貯蔵のグリッド信頼性の貢献度を定量化し、その限界を理解するための方法でもある。クリーンな電力への移行するためには、継続的に電力を供給できるようにならなくてはならないし、ELCC を適切に適用することでその一助となる。

考察

これまで停電を回避するために電力供給エリアにおける設備予備率を用いていました。しかし、FIT等でVariable Energy Resource ( VER )、制御の効かない再エネ 電源、日本では特に太陽光が大量に導入され、これまで通りの設備容量の考え方では、電力系統の安定が賄えない状況となっています。

そこで、どういった指標で系統の安定度を検討するのかについて、 ELCC ( Effective Load Carrying Capability )、日本語では 供給信頼度対応能力 という指標を使うということを話題にした記事になっています。この記事でもカルフォルニア州に関する研究がでてきますが、カルフォルニア州は、日本と同様に大量の太陽光が導入されているアメリカの州となります。そのため、安定電源がなく、2020年には停電が生じ、2021年においても停電の可能性が指摘されています。

図8 カリフォルニア州の電源構成
カルフォルニア や テキサス などの州において 2021年夏の 熱波 による停電の可能性もありカルフォルニア 州において、昨年の8月の 輪番停電 に続き、2021年夏においても、 熱波 による 停電 の可能性があるというもの。Calfornia ISOから今期の需要予測と供給力に関する報告書が2021年5月12日に発表されており、それも考察と合わせて記載しています。...

こうしたVERが大量導入に従い、安定的な系統にするためには、蓄電池や揚水発電所などのエネルギー貯蔵設備が必要となります。そうした設備導入量を検討するために感がられた指標で概念的にも理解しやすいものかと思います。

先に出てきた研究レポートにおいて、わかりやすい図表があるために、図9を示します。つまり、どれだけ大量にVERを導入したとしても、ピークの貢献度は導入量に反比例するように低下するもので、それを効果的にするにはエネルギー貯蔵設備が必要であるが、それが増えすぎると、そのエネルギー貯蔵設備の貢献度も低くなるというものです。

図9 太陽光とエネルギー貯蔵のピーク需要への貢献度

日本でもかなり太陽光が導入されていますので、今後、こうした議論とともに、蓄電池や揚水発電所容量の貢献度またマネタイズに関する話題が出てくるようにおもいます。

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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など