リスク対策としての 保険
「再エネ プロジェクトで必要となる 保険」でも示しました通り、事業者は様々なリスクを抱えており、それに対応する方法の一つとして、 保険 があります。そもそもリスクをすべて排除できるわけではありませんが、事前の調査、設計、適切な契約スキームによって、抑制、移転、低減などでリスクを一定程度減らすことはできます。
しかし、保険と言えど、全てのリスクをカバーできるわけではなく、 免責条項 や 不担保事由 が設定されており、全ての事故には対応できません。
加えて、 保険 でカバーされるのは、物理的な損害を被った範囲であることもわすれてはいけないポイントとなります。つまり、保険で対応可能なリスクは、 純粋リスク と呼ばれるもので、ある出来事が発生すると損失のみをもたらすリスクであり、損失をもたらしても利益をもたらすものではないことが重要です。
また 保険 市場、特に 再エネ に関わる 保険 市場は市場環境の変化が激しく、事業計画時に想定していた補償内容で 保険 が手配できないこともしばしあります。例えば、水力発電事業では、2018年でおこったラオスのダム破堤事故を切欠に、 リスク を引き受ける 保険 会社が極端に減り、 保険 料また 免責 額が大幅に上がりました。
このように、再エネプロジェクトの事業者は、必要な補償額や補償内容で 保険 を調達できないリスクに、常にさらされています。大型の水力発電や洋上風力などの 保険 では、その特殊性ゆえに、①損害額が大きい、②評価できる 保険 会社が少数、という理由から、国内はもちろん、ヨーロッパでも引き受けできる 保険 会社は限定され、常に再 保険 市場において、お互いのリスクを分散、引き受けリスクの平準化を図ろうとしています。
このように、再 保険 市場の動向が事業者の 保険 状況に大きく影響し、個別契約の 保険 事故の有無にかかわらず、 保険 料や 保険 条件が変化することはしばしあります( 保険 市場要因 )。加え、 保険 会社の想定を超える多額の 保険 金支払いが発生した場合も、翌年度以降の 保険 料が高騰し、 保険 手配が難しくなることもあります。国単位でも起こることであり、これは個別契約ごとの要因と言えます。
このように、多額の 保険 金の支払いが頻発すると、その事業に対する再 保険 市場の目が厳しくなり、再 保険 料上昇、十分な 保険 が受けられないなどとなると、プロジェクトファイナンスにおいて、事業者に対するスポンサーサポートの要請が大きくなる可能性があります。こうした事態を避けるには、再 保険 会社が個別で見るリスクの解決方法が示せる、また工事を完工、発電所を安全に運転できるという実績を持つアライアンスの組成が重要となってきます。
保険 毎の免責 / 不担保事由
以下に、各保険における免責/不担保事由項目を建設契約も踏まえて、まとめていきます。以下の表の見方として、①一部補償可能、②補償負荷、③他の保険により補償が可能
共通事項
収用、接収、国有化 | 没収、徴用、留置、抑留、隔離 | ポリティカルリスクであり、通常はPPAやCAにて規定する。 | |
原子力、生物兵器等 | 原子力設備、核燃料、生物兵器など | ||
サイバー | 電子データ障害、コンピューター障害、サイバー攻撃 | サイバー事故によって発生した火災等は補償される特約もある。ただし、サイバー攻撃によるものは対象外。 サイバー攻撃に対する保険もあるが、近年のインフラへの攻撃から引き受けが難しい、もしくは保険料が高額である場合もある。 |
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感染症 | 感染症 | 感染症による直接及び間接損害はいづれも対象外。COVID以降、リスク分担も重要な問題の一つ。 | |
制裁 | 制裁行為に抵触した場合の保険引き受け、保険金支払い | ||
相当注意義務違反 | 相当注意義務違反 | 相当注意義務とは、保険対象となる行為遂行に対して、安全上に必要な慣習及び機材を使用することを指す。注意を払っていない場合は、損失防止発生のための相応の努力を払っていないとみなされる。 こうしたことは、コントラクターの義務と課されるもので、コントラクター側も拒否することはほぼない。 |
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不正 | 保険金詐欺 | こうしたことは、コントラクターの義務と課されるもので、コントラクター側も拒否することはほぼない。 |
Construction Election All Risk保険
建設工事期間中、偶発の事故によって発電設備に生じた物的損害に対して補償する保険です。
船舶 | 船舶の保有や運航管理の不備 | 船舶保険により補償は可能。 | |
航空機 | 航空機やヘリコプターの保有や運航管理の不備 | 航空保険により補償は可能。 | |
仮設備等 | 請負契約に含まれない仮設備、被保険者の所有しない財物や設備への損傷 | 保険会社への通知にて対応は可能。 | |
遅延 | 契約履行の遅延 | 建設契約などにおいて、遅延補償金を設定で回避。 | |
契約不履行 | 契約の不履行 | ||
誤設置 | 構造物の誤設置 | CEARで補償対象となる事故により設置位置が変更になった場合は対象。 | |
操業開始遅延 | 操業開始遅延 | 操業開始遅延保険により補償は可能。 | |
性能保証 | 性能の未達 | 建設契約により性能保証値が未達の場合に対して補償額を設定。 | |
背信行為、不作為 | 被保険者の配信行為、不作為 | ||
摩耗、減耗、老朽、腐食 | 自然の摩耗、減耗、老朽、腐食 | ||
保険金額に含まれない財物や作業 | 保険金額に含まれない財物や作業に対する損害 | ||
Marin Warranty Survey | Marin Warranty Surveyの承認証明違反 | ||
地震、噴火、津波など | 地震、噴火、津波等の発生 | 復活担保が可能であるも、てん補限度額に制限がかかる。 保険市場環境や引き受けリスクの総量により変動の可能性があり。 |
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台風 | 台風の発生 | てん補限度額に制限がかかる。 保険市場環境や引き受けリスクの総量により変動の可能性があり。 |
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電気的/機械的事故 | 電気的/機械的事故 | 突発的に発生した電気的/機械的事故については復活担保が可能。 | |
戦争 | 戦争行為、武力衝突、内乱など | 固着物以外の担保は可能。 | |
UXO | UXOによる被害 | 過去の戦争、軍事活動による遺物に起因するリスクは戦争リスクとはしない。 | |
テロ、ストライキなど | テロ行為、政治的扇動による破壊行為等 | 復活担保が可能。 |
上記以外に不良や瑕疵に関する補償については、こちらを参考ください。ここに記載されている内容に加えて、不良や瑕疵による連続発生損害については、支払いの保険額が減額されることも注意すべき内容です。
Delay Start-Up保険
建設段階のCEARの対象となる事故に起因した運転開始遅延に対する損失利益を補償するものです。注意点は、CEARの対象、つまり物的損害が生じ、その結果として遅延する場合であることに注意が必要です。
免責/不担保事由 | 発生要因 | 補償の可否 | 備考 |
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CEARで補償対象とならない損害 | CEARで補償対象とならない事象が発生 | ② | あくまで事故により物的な損害を受けた場合であり、それ以外の事象で遅れたとしても対象外。 |
公的機関による規制 | 公的機関による一切の規制に関連して発生した遅延 | ② | |
復旧作業における相当注意義務違反 | 相当注意義務違反があった、もしくは合理的な手段を講じなかった | ② | |
商業運転開始後の契約の停止 | ライセンス契約等の契約が停止、消滅、解除が生じる | ② |
財物保険(Property Damage)保険
保険期間中、偶発的な事故によって生じた設備への物的損害に対して、免責に該当しないかいぎり、補償されます。
第三者賠償 | 第三者に対して損害を与える | ||
設計、計画 | 設計や計画、仕様書などの不備により損害が生じる | ||
在庫不足、紛失 | 在庫不足や原因不明の紛失 | ||
遅延、使用不能 | 遅延や使用不能により機会損失や収入損失を受ける | ||
沈下、隆起、洗堀 | 沈下、隆起、洗堀により損傷 | 保険対象財物が物理的な損害を被った場合は補償。 | |
背信行為、不作為 | 被保険者の配信行為、不作為 | ||
摩耗、減耗、老朽、腐食 | 自然の摩耗、減耗、老朽、腐食 | ||
委託先の債務超過 | 財物の管理を委託する事業者が債務超過を起こして損害を受ける | ||
引渡し前の損害 | 引渡し前に生じた直接的かつ物的な損害 | CEARにより補償。 | |
地震、噴火、津波 | 地震、噴火、津波等の発生 | てん補額に制限がかかる可能性がある。 保険市場環境や引き受けリスクの総量により変動の可能性があり。 |
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台風 | 台風の発生 | てん補額に制限がかかる可能性がある。 保険市場環境や引き受けリスクの総量により変動の可能性があり。 |
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電気的/機械的事故 | 電気的/機械的事故 | 突発的に発生した電気的/機械的事故については復活担保が可能。 | |
戦争 | 戦争行為、武力衝突、内乱など | 固着物以外の担保は可能。 | |
UXO | UXOによる被害 | 過去の戦争、軍事活動による遺物に起因するリスクは戦争リスクとはしない。 | |
テロ、ストライキなど | テロ行為、政治的扇動による破壊行為等 | ||
不良、瑕疵(1) | 設計、計画、仕様、部品又は作業等の不良などによる損害 | 原因事象からの波及損害を補償。 原因に対する損害は補償されることもある。 保険市場の環境により変動することもある。 |
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不良、瑕疵(2) | 連続に発生する損害 | 同一原因で不良が連続する場合、支払われる保険額が減額される。 |
第三者賠償責任(Third Party Liability)保険
建設工事もしくは操業運転に起因して発生した第三者への身体的障害、財物への損害にかかわる賠償責任を補償する保険となります。
予期された、もしくは意図的な損害 | 被害者が予期した、当然予期できた、もしくは意図した要因 | 但し正当防衛にあたるものは除外。 | |
専門的役務 | 専門家による役務の結果として生じた損害 | 法律、コンサルなど専門家による役務が原因で損害が生じた場合は補償は対象外であるものの、別途Professional Indemnityにて対応が可能。 | |
従業員の福利厚生 | 従業員の身体的障害、財物損害に関して福利厚生上で発生した事象 | ||
労災 | 労働災害や類似法で記載されている要因による損害 | 労働保険にて補償。 | |
使用者賠償 | 従業員の身体障害に対して、被保険者が雇用者として補償しなければならない事象 | 使用者賠償責任保険にて補償。 | |
供給不能 | 電気、サービスの提供が止まる、不安定な供給によって生じた身体的な障害や財物障害が生じる | ||
所有財物、管理財物 | 管理、所有、リースなどの財物に対する損害 | ||
被保険者の製品 | 製造した製品そのものの財物損害 | ||
被保険者の作業 | 被保険者もしくはその代理人の作業対象財物、原材料、部品に生じた損害 | ||
製品のリコール | 被保険者の製品やサービスに対するリコールや検査による損害 | ||
罰金 | 罰金、罰則、懲罰的な損害賠償 | ||
雇用慣行 | 雇用慣行に反する行為 | 従業員の不当解雇や取扱による賠償責任。 | |
戦争、テロ | 戦争行為、テロ行為 | ||
自動車、船舶、航空機の事故 | 自動車、船舶、航空機の所有、運航管理の結果生じる損害 | 各種保険で対応が可能。 | |
廃棄物 | 廃棄物の加工や保管などによる被害 | このリスクを避けるために、処理業者に委託するのが一般的。 | |
汚染物質の流出 | 汚染物質の流出による被害 | ||
地震、噴火、津波等 | 地震、噴火、津波等による被害 |
保険では基本補償されないリスク
保険約款上では明記されてはおらず、通常は補償されない事象に関して、対策も含めて、下記にまとめています。
発電量低下 | 系統連携制限 | |||
系統連携先の事故 | 対象物を特定し、個別で設定すれば補償の可能性もある。 | |||
資源(水量、風況、日射量)の誤予測 | 先物取引などのデリバティブによりリスク対策を実施することは可能。 | |||
性能低下 | 時期によっては建設契約上のDefect Notification Periodの間であれば、補償の可能性はある。 | |||
法制/許認可 | 政策変更、法令変更、制度変更など | |||
環境 | 漁業権侵害 | 直接的な対応は不可能であるものの、第三者の人的損害、物的損害など賠償責任が発生した場合は補償となる場合もある。 | ||
騒音、電磁波、低周波音、生態系、景観への影響 | 同上。 |