記事:Clean Energy Wire, 2021/7/7, “New EU green finance strategy shuns decision on nuclear and gas power”
EU グリーンファイナンス に関する概要
記事によると、新しいグリーンボンド基準と中小企業への支援を導入するために、持続可能な金融戦略を刷新し、EUは、域内の野心的な気候目標を達成するのに必要な金融市場ガイドラインを提供したいと考えている。欧州委員会が発表した新しいグリーンボンドの「ゴールドスタンダード」により、EU加盟国は民間資本に数千億ユーロを供給してグリーンプロジェクトに資金を提供し、持続可能な投資における主要な市場になるよう、EU市場を強化することを支援する。しかしこの新戦略は、特にヨーロッパのエネルギーミックスにおける原子力とガスの将来の役割に関し、 グリーンファイナンス に関する論争を解決する「機会を逃した」と、Sustainable金融市場の関係者が述べている。
EUは、持続可能な金融戦略と新しいグリーンボンド基準を見直し、気候に優しい投資における世界有数の市場になるという野心をもっているが、 グリーンファイナンス の関係者は、「一般論として、この重要な案件に関する欧州委員会の動きは地球規模の気候変動に対して行動している。」と称賛している一方で、「新戦略は原子力発電および天然ガス発電への今後の資金調達に関する課題を解決する機会を逃した。」と批判している。
2021年7月6日に発表された戦略は、持続可能な投資に係る原則の適用を最大化し、気候、社会基準、その他にの分野への悪影響を最小限に抑えるように、欧州グリーンディールの文脈にそって資金を調達する方法を概説している。「我々がこれを行っている理由は簡単である。我々は資金が必要だからだ。」と、EU当局者は戦略公表時の記者会見で述べている。欧州委員会によると、EUはグリーンディールに関する活動に資金を提供し、今世紀半ばまでに完全なカーボンニュートラルを達成するという目標のために基盤を作り上げ、そのためには年間3,500億ユーロ(約45兆円)を追加する必要があり、資金の大部分は民間の投資家から調達しなければならないとしている。
委員であるMairead McGuiness氏は、EUがグリーンディールに記載されている目標を達成するには、金融セクターが重要な役割を果たさなければならないと強調した。「持続可能な経済に向けてより多くのお金が供給されるように継続的に努力し、包括的な社会を創らなくてはならない。」とMcGuiness氏は述べた。最終的には、こうした取り組みは、国際協調の中でのみ有効になるものであり、EUのグリーンボンドのようなツールが、世界的なアプローチの基準を設定する「ゴールドスタンダード」となり得るとしている。委員会はまた、EUタクソノミーに沿って、金融や非金融企業の活動における持続可能性に関する将来の開示要件についても詳しく述べた。
委員会理事は、この戦略は野心的なロードマップを示すべきであると述べたが、 グリーンファイナンス 市場の関係者は、その有効性についてあまり確信していない。ドイツ政府が共同出資する5つの研究機関間の協業事業、持続可能な金融研究プラットフォームのメンバーであるIngmar Jürgens氏は、委員会の提案を「あいまいで躊躇している。」と批判した。過去数年間、持続可能な金融活動に関し、全体的に前に進み、動きは早まってきていたが、今回の発表は、主要な紛争を解決し、明確な原則を設定する機会を逸した。「委員会は、金融セクターがグリーンディールに貢献するために必要な措置を開始する勇気を失ったと言える。」と、Jürgens氏はクリーンエネルギーワイヤーに語った。
持続可能な投資を始めるために必要なグリーンボンド基準と中小企業への支援
この戦略は、過去数年間のEUとその加盟国が、経済を排出削減目標と整合させるためのより広範な取り組みの一つである。最も顕著であるが、グリーンディールは、経済成長の触媒としても機能すると考えられているターゲット投資を通じて、大陸のエネルギー、住宅、産業、モビリティ、食品セクターの環境分野関連を改善するための様々な協調活動を支援している。同時に、約8,000億ユーロ相当のEUコロナウイルス回収基金の約3分の1は、パンデミックによる不況に続くと予想される事象の下、環境への被害を回避するための環境目的に結びついている。
2020年半ばに、戦略の最初のセグメントが公表されて以来、いくつかの情勢が刷新の必要性を迫っている。これらの情勢には、コロナウイルス・パンデミックの経済的な影響や、グローバル金融システムのグリーン化において前任者よりもはるかに積極的に役割を果たすとしている新しいアメリカ政権の出現が含まれている。委員会は、この改革により、中小企業のより良い統合が可能になると主張しており、特にドイツでは、現状のままでは、資金調達に関するより厳格な新しい規則により、限られた能力しか有しない中小企業を圧迫する可能性があると懸念を表明している。
この戦略の公表に先立ち、欧州中央銀行と欧州システミック・リスク委員会(ESRB)が、気候変動が欧州金融システムの安定に及ぼす影響について緊急の警告を発した。この機関は、地球温暖化の緩和が不十分または効果がないことが判明した場合、今世紀末まで世界経済の成長が5分の1縮小する可能性があると述べた。
改訂された戦略の主要な内容には、中小企業および個々の消費者が移行資金にアクセスしやすくするための規定が含まれる。また、干ばつや洪水などの地球温暖化の物理的な影響に関してEUの金融システムの安定性を高める努力を立証するとともに、気候変動抑制に対する金融セクターの貢献を強化する。新戦略はまた、世界的な グリーンファイナンス への移行における主導的な役割を担い、金融分野における持続可能性に関する原則を包括的に実施できる国際的なネットワークや機関を構築するという目標を強化するものとしている。
新しいEUグリーンボンド基準は、エネルギーインフラ、住宅ストック、輸送システムの近代化を始めるのに投資が必要な金融資産に対する顧客からの要望に応えることができると同時に、投資のグリーンウォッシングを回避することも可能である。「グリーンボンドの発行者は、EU タクソノミーに沿ってグリーンプロジェクトに資金を提供しているかを示す強力なツールを持つことになる。」と、委員会が述べている。債券はまた、EU外からの投資家に開放されるだろう、とも付け加えた。
気候変動対策における原子力及びガスの役割が曖昧
しかし、この改革は、欧州の グリーンファイナンス 戦略に関する未解決の重要な問題、すなわち原子力発電と天然ガスプロジェクトの資金も含めるべきかどうかについてはふれていない。実際、今回の提案は、ヨーロッパのエネルギー転換において原子力と天然ガスの役割を減らすという原則を裏打ちする合意を骨抜きにすることを意味する、と研究者の Ingmar Jürgens氏は述べている。
脱炭素化の取り組みに対する恒久的または一時的な技術の適合性への意見は、EUの2大加盟国であるフランスとドイツの間で大きく異なる。ドイツや他の国々は、欧州の気候中立化における原子力発電の役割に懐疑的であり、原子炉の安全性に対する懸念と核廃棄物貯蔵の未解決の問題を理由に、戦略の公表直前までこの技術を含めないよう警告していた。同時に、天然ガスはヨーロッパのエネルギー転換のために実行可能な選択肢であると主張していた。
Jürgens氏は、事実、この技術は短期的に、エネルギー供給を十分に確保するために必要であると述べた。しかし、 グリーンファイナンス 計画に天然ガスプロジェクトを含めるというドイツの主張は、 グリーンファイナンス のリーダーになるという国の野望を考えると、問題になるだろう。「真剣であることを示す失われたチャンスがここにある。」と、Jürgens氏が主張した。同様に、原子力の使用に関する共同研究センター(JRC)による報告書には、科学的原則を無視し、代わりに核廃棄物の貯蔵をCO2の貯蔵と同じ扱いにする冗談としか思えない文章を含んでいる、とJürgens氏は述べた。
Jürgens氏はまた、世界の債券市場が公的発行者によって支配されているにもかかわらず、独自の投資決定をより透明で持続可能なものにすることによって、国家が公正な分担を行うことを示す規定がほとんどないと批判した。「EU加盟国がフリーパスを受けているのに、企業だけが遵守することになることは容認できない。」とも述べている。
NGOフィナンツヴェンデ(金融移行)のMagdalena Senn氏は、「この戦略は、何十年間も、損害を与える投資を閉じ込めるには弱いパンチである。」と批判した。「委員会はその野心に応えられていない。」とSenn氏は述べ、「論争を巻き起こしている投資活動(原子力発電)が、緑色のラベルを得られるようにロビー団体が正常に介入した。」と主張した。
ドイツのエネルギー業界グループであるBDEWは、委員会が気候中立への道にむけた移行ツールとしていくつかの技術を分類することは正しいと述べている。「これには、ドイツが原子力と石炭発電を段階的に廃止を可能にするガス発電所とインフラが含まれる。」とBDEWのトップのKerstin Andreae氏は主張した。「エネルギー転換は、変革プロセスの間、安定供給を保証する場合にのみ成功することができる。」とも述べた。
考察
本記事の後半の主張は、ドイツ側に立った主張であり、公正性に欠けるようには思います。グリーンラベルにおいて、一切のCO2の排出を厳しく規定しているにも関わらず、CO2の排出がない原子力に反対、CO2の排出が前提の天然ガスプロジェクトを許容とするのは、あまりにも自己都合であると言えそうです。
というのも、ドイツ側の国では、石炭及び原子力を放棄したために、自国のエネルギーは再エネと天然ガスに依存することになります。しかし、その輸入先の多くはロシアであり、近年問題視されているノルドストリーム2プロジェクトがあります。これは、EU域内全体の安全保障の観点から、アメリカも強く反対していましたが、結局はプロジェクトは完成してしまっています。ドイツは運用時に制裁等も含めて対応していくとしています。
一方で、フランスを中心とする国々にとって、CO2を排出しない重要電源であり、アメリカも同じ見解であり、小型原子炉などの新技術も含めて、原子力を推進しています。またEU域内においても、原子力 は 低炭素エネルギーの最大の供給源であり(26.7%, 2019)、水力(12.3%)、風力(13.3%)、太陽光(4.4%)などの再生可能エネルギーの供給量を上回っています。
今後も、EU内においても、原子力発電及びガス火力発電をグリーンラベルとするかどうかの紛争は続くものと考えられます。
またこうした動きを加速させるためか、欧州中央銀行(European Central Bank:ECB)が急遽、戦略レビューを公表しました。 気候変動関連の主な方針は次の通りで
・マクロ経済モデルや担保受入、リスク評価、社債買い入れオペに気候変動リスクを考慮
・担保受入、資産買入に当たり、企業に開示を要請
・気候ファイナンスに関する統計整備
これらの具体的なロードマップが示されています。