Statkraft の概要
Statkraft (スタットクラフト)とは、ノルウェーの大手水力発電会社であり、ノルウェー政府が100%出資する会社となっています。そのため、非上場の会社です。グループとして、風力や太陽光などの再エネ電源も有しており、ノルウェーの最大の電力会社であり、北欧で3番目の電力会社となります。
Statkraft の電源構成としては、ほとんどが水力を占めており、その他、風力、ガス、太陽光といった構成となっています(図1)。また基本的な諸元は表1の通りであり(2020年)、活動拠点や電源の位置については、図2に示す通りです(13円/ノルウェークローネ)。
諸元 | 値 |
---|---|
設備容量 | 19,080MW |
発電量 | 65,000GWh |
社員数 | 4500 |
売上げ | 4394億円 |
利益 | 741億円 |
Statkraft の事業戦略
Statkraft は、再エネ会社の老舗とも言え、ITやR&Dへの投資も積極的であり、電力取引についても非常に技術を有するとともに、スタッフを重点的に配置しています。近年では、水力だけではなく、風力や太陽光発電への取り組みも積極的であり、2025年まで毎年約1,000憶円もの投資を目標としています。こうした Statkraft の事業戦略は以下の通りです。
市場開拓
2019年以降、Covid19の影響もあり極端にノルウェーの電力マーケットの価格が下がり、2020年の業績に響いているものの、今後も市場から再エネによる電力は求められ、 Statkraft が有する電源の優位性は揺るがず、今後も電源開発は着実に進めてい行くという考え方です。日本でも再エネ電源以外は電源開発に消極的になりつつありますが、 Statkraft はこれまでの経験をもとに、再エネ電源開発に取り組むとともに、その資産を最大限に使って、電力市場で事業を進めることを考えています。
ポジショニング
Statkrat は、水力電源中心のヨーロッパ最大の再エネ事業者であり、世界でも同様な地位を築くべく、成長を模索していくというもので、国内だけにとどまらず、世界に挑戦していくと宣言しています。従来から Statkraft は水力開発では世界有数の企業であり、ノルウェーの新興国開発会社SN Power(現在はScatecに吸収)と共に水力開発を行ってきています(両者ともノルウェー政府が実質株主の水力発電企業で、SN Powerが新興国、 Statkraft がそれ以外の国で海外事業を進めてきました)。こうした取り組みを今後も、水力に限らず進めていくというものです。
それに加えて、市場取引のノウハウも有しており、電力資産の有効活用という点でも顧客に価値を提供していくと述べています。水力発電は需給調整にも役立ち、また市場の価格に応じた発電運用も可能であることから、 Statkraft は非常に強力なトレードチームを持っています。
以下に Statkraft のポジショニングに関するポイントを概訳します(斜文字が概訳です)。
責任のある長期資産保有者
Statkraft は、ノルウェー国内においてヨーロッパで最も大きな容量の水力を有しており、また水力は、長期にわたって運用が可能で、CO2の排出量が少なくかつ高い柔軟性がある。それにより、市場の要請に応じた発電が可能となっている。OMも含めてエネルギーの統合管理に基づき利益を最適化する非常に高い能力があため、 Statkraft は水力の優れたオーナーとしての地位を得ている。
実際、財務諸表を見ると、販売電力約5,000億円に対して、約2,000憶円もの購入電力があります。これは、マーケットリスクを最適化していることにほかならず、電力価格が高い時に電力を販売し、電力価格が安い時に購入、それにより全体の小売義務を果たしているものと考えられます。
維持管理(OM)
長期インフラ資産を保有する企業は、維持管理の高い技術を有している。こうした能力というのは、長期水力資産を有する Statkraft は持っており、水力に限らず、他の電源に対しても適用できる技術である。 Statkraft では、水力資産によって培った能力を、他の資産のアセットマネジメントにも適用し、競争力を発揮していく。
Statkraft は単純な維持管理にとどまらず、アセットマネジメントや電力市場に基づいた発電所運用を行うなど、IT投資を積極的に行い、合理化、ノウハウの蓄積を行ってきました。
エネルギーマネジメント
長期資産の運用を通して、 Statkraft は電力市場を深く理解してきた。こうしたことは、欧州の電力市場に渡る高度な分析によるエネルギーを管理する能力を培ってきた。更に Statkraft は、自社再エネ電源設備だけではなく、第三者の設備も含めた複雑なシステムを運用することで、顧客に価値を提供することができる。 Statkraft は欧州におけるこうしたサービスのリーディングカンパニーである。
こうした維持管理を含めた資産運用の能力は、ユーティリティー企業ならではであり、他の新興の再エネ企業とはことなる部分と言えそうです。日本でも再エネ企業は群雄割拠な状況であるものの、長期にわたって安定かつ低廉な状態で維持管理していくには、長期資産を保有するユーティリティーの能力は欠かせないといえようかと思います。
巨大な再エネ資産の開発
Statkraft はこれまで、巨大再エネインフラを成功裏に開発してきており、この分野でも競争力を有する。特に水力分野ではゆるぎない歴史があるが、現在では風力においても同様である。コスト競争力を超え、電力をどのように販売していくかといった点でも、他の企業に比べて強みを有している。
電力市場と顧客との関係
Statkraft は何十年にもわたり、ノルウェーのエネルギー産業界と密な関係を築いてきており、特に大企業との取引において競争力の源泉となってきた。今後、こうした関係により熱供給事業や分散電源事業などにもつながるものと考えている。顧客の要求を満たす様々な製品やサービスを提供する能力をStatkraftは有している。
電力取引
Statkraft は高い競争力を有する取引事業を展開するために、電力取引市場の理解を深めてきた。電力取引は、社内で培った分析力を源泉として優位性を得てきた分野である。これは、効率的な電力市場取引モデルと、決められた時間の中でリスクマネジメントを機械的に処理する手法を受け入れる文化による。
2025年に向けた取り組み
こうしたポジションをもとに、 Statkraft では世界の再エネのリーディングカンパニーになるべく、以下のような取り組みを実施することを述べています。これらの取り組みの進捗状況については、財務指標とともに、Annual ReportやQuatary Reportなどでも述べられています。図5に2020年における取組状況を記載します。
- ヨーロッパにおいて最大の水力事業社であり、東南アジアやインドにおいて主要なプレーヤーである。
- 8GW相当の風力及び太陽光を開発する。
- 再エネ電力に関する市場課題を解決するリーディング企業となる。
- ノルウェー及びスウェーデンにおいて、高利益率かつ顧客主体の地域熱供給事業社として3本の指に入る。
- 新たなグリーンビジネス分野における開拓者となる。
Statkraft の事業状況
昨年は図3に示したように、ノルウェーの電力卸売り市場が低迷し、2020年は収入が大幅に減ったために減収となっていましたが、記事のように、2021年は非常に好調な状況が続いています。その最も大きな要因は図6に示すノルウェーマーケットの回復です。
これに伴い、前年の第2四半期期のEBIT(税引き利払い前利益)は13億円の赤字であったものが、728億の黒字と大幅に改善しています。経常利益も312億円の黒字となっています(Statkraftの2021年第2四半期期の報告は次の通り)。よって、最悪であった昨年度の状況は完全に脱しつつあると言えますが、その2020年の状況を他のベンチマーク会社と比較したいと思います。
Statkraft と他社とのベンチマーク
ノルウェーの最大の電力会社で非上場企業であり、資産規模が2兆3,000憶円の規模を有するのがStatkraftです。参考として、ドイツ大手再エネ会社のRWE、非上場の発電会社であるJERAと比較していみることにしました。両者とも、非常に財務体質もよく、また収益性も高い会社です。
JERA 決算関連情報
RWE
Statkraft Annual Report 2020
PL(百万円) | Revenue | 440,375 | 1,806,480 | 2,730,100 |
EBITDA | 127,595 | 420,550 | 437,137 | |
Operation Profit | 74,737 | 230,100 | 249,400 | |
Net Profit | 45,916 | 137,020 | 244,100 | |
BS(百万円) | 資産 | 2,356,341 | 8,016,840 | 4,090,880 |
純資産 | 1,274,364 | 2,336,230 | 1,762,120 | |
負債 | 1,081,977 | 5,680,610 | 2,328,760 | |
流動負債 | 333,125 | – | 638,055 | |
Interest-Bearing Net Debt | – | 576,160 | – | |
Capital Employed | 2,023,216 | 2,912,390 | 3,452,825 | |
株関係 | 株価(円、2021/4/29) | – | 4,160 | – |
発行数 | – | 637,286,000 | 19,999,898 | |
時価総額(百万円) | – | 6,696,671 | – | |
指標 | ROCE | 3.69% | 7.90% | 7.22% |
EPS(円) | – | 215 | 12,205 | |
PER | – | 19.35 | – | |
PBR | – | 1.13 | – |
表2に主要なPL項目とBS項目を比較しています。表2によると、Statkraftの2020年におけるROCEは4%と、比較2社の半分程度となっていますが、これはJ-Powerなどの日本旧電力会社と同程度となってます。しかし、2020年は最悪期であること、2021年は既に大幅の増収益を見込まれることを考えると、これら2社を凌駕する可能性もあります。Statkraftは、ROACE(Return of Average Capital Employed)を目標指標と掲げており、AverageであるためROCEと違いはありますが、目標を7%、至近年では軒並み10%を超える値を示しています。
加えて注目すべきは、EBITDAの高さです。2社に比べて売り上げは低いものの、EBITDAの高さが目を引きます。これは、所有資産が水力発電所がほとんどであるために、支出が極めて低く抑えられているからだと思われます。一番大きな費用は購入電力費用であり、そこからも高い収益性を挙げるためには、電力取引の能力の高さが不可欠と言えるように思います。
まとめ
Statkraftは、ノルウェーにある優良な水力資産を梃に豊富なキャッシュフローを生み出す会社で、高い収益性を有しています。一方、成長分野という点では、ノルウェー国内には水力の開発余地はないため、再エネ会社として風力や太陽光の開発を成長分野として、これまでの水力開発の経験を基に実施しています。今後、2025年までに8GWの資産の積み上げを目指しており、現状で約2.6GWの開発が達成されています(図9)。
再エネ会社も現在ヨーロッパ内でも乱立している状況ですが、ここ数年で勝ち組と負け組が別れ、統廃合が行われるものと考えられます。その際に勝ち組とされるのは、Statkraftのように自社で資産を有し、高い収益率で発電所を運営することができる会社ではないかと思います。