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テキサス 再エネ導入が急増したことにより、電力の安定供給はどうなるのか?

記事:Federal Reserve Bank of Dallas, 2021/8/17, “Surging Renewable Energy in Texas Prompts Electricity Generation Adequacy Questions”

これまでの テキサス における電力需給状況

FRBが テキサス の電力市場に関して考察を行った記事になります。電力量(kWh)市場しかない テキサス において、2021年2月において、大規模な停電と、電力価格の高騰がありました。今年の夏においても、熱波により電力需要が最高を記録し(2021/8/23)、その後も数日高い気温を記録することが予測されています(ただし、現在のところ、供給力は確保されており、停電になる懸念はなさそうです。)。

カルフォルニア や テキサス などの州において 2021年夏の 熱波 による停電の可能性もありカルフォルニア 州において、昨年の8月の 輪番停電 に続き、2021年夏においても、 熱波 による 停電 の可能性があるというもの。Calfornia ISOから今期の需要予測と供給力に関する報告書が2021年5月12日に発表されており、それも考察と合わせて記載しています。...

テキサス は、2010年において8%であった再エネ電源が、2020年には25%に達しています。しかも、現在も増加の方向であり、2024年には太陽光の容量が4倍になると予測されています。この事実は電力需要が高い期間に停電が生じるリスクが増していることを意味しており、テキサス における電力消費は、人口増加に比例して増えていっています。それに加え、産業需要も増えている状況でもあります。

図1 テキサスの電源構成推移

新たな火力発電への投資が行われていない現状において、 テキサス における電力市場の設計は、将来の容量の必要性を補えているのでしょうか。将来の電力の安定を確保するためには、蓄電地の利用、デマンドリスポンスプログラムの活用、つまり電力消費を自主的また計画的に控える消費者へのインセンティブの支払いにだけでなく、新たな電源の建設など、あらゆる手段を実施する必要があります。

再エネ導入に伴う電力系統の課題

天候や時間の変化による風力および太陽光発電の変動が日々、 テキサス 州の系統運用者である テキサス 州電気信頼性協議会(Electric Reliability Council of Texas; ERCOT)にとって、電力供給と需要のバランスを取る作業は毎年、より難しくなる。この状況により、制御可能な電源の必要性が増している。制御可能な電源とは、素早く発電ができる、主には天然ガス火力発電所になるのであるが、再エネの出力の落ち込みを補完することができる電源を指している。

ERCOTが現在の7,800MWから2024年までに28,000MW以上に急増すると予想する中で、この課題は大きくなる。夏の日には、太陽光発電容量の量は、ほぼ テキサス 450万軒で必要となる電力と同等である。

予備率

各シーズンにおいて、ERCOTは発電可能容量、需要及び予備率(各季節において熱い日もしくは寒い日における最も需要が大きい時間帯に必要となる供給力以上の容量)を予測している。全電源停電が起こらないようにするために、ERCOTは予備力として13.75%のマージンを目標としており、予測されなかったような需要上昇や発電所の計画外停止を想定している。

ERCOTは、発電容量をまず予測し、再エネに影響を与える天候の変化と発電事業者によって提供されている停止時間を考慮する。これらの情報に基づいて、ERCOTは2023年と2026年の間において予備率が30%を超えると予測している。

図2 供給量と予備率

大災害に伴う電力の信頼性に関する課題

上記に示した予備率が十分であるように思えるかもしれないが、夏場における予備率が、気温が高い、予定以上の停電が生じる、再エネ電源の出力がでないといった理由により、予備率が大きく低下することがあり得る。仮にこれらの事象が同時に生じた場合、ERCOTは発電が14,000MW以上が不足すると予測しており、結果として停電が広がる原因となる。

2021年2月の冬の停電は、全ての予測されない事象が同時に起こった事例といえる。予測を超えて電力需要が増え、発電所や天然ガス設備の冬季対策が不十分であり、点検補修のために予定以上の発電所が停止し、再エネの発電量が非常に低くなった。

2021年 テキサス で起こった冬の災害による損害額と比べると、冬季対策費用は割安FRB による、2021年2月に テキサス 州で起こった停電に伴う経済損失に関する分析結果が報告されている記事。...

先を見ると、大きな災害や電源構成の変化のために、不測の事態に対するマージンが小さくなっている。仮に火力発電所が2021年6月と同じ程度、 テキサス の系統上で9,000MWが停止し、予定の50%しか発電できない場合、供給力が数日間、ピーク需要を満たすことができず、予備力は今後5年間ERCOTがターゲットとしている13.75%を下回り、全電源喪失が起こる可能性が増してくる。

図3 条件が厳しい際における供給力と予備率

蓄電池及びデマンドリスポンスプログラムによる効果

テキサス は、需要を満たしうる電源構成の限界に近づいている。予測しないような停電を補うことができる火力発電の容量とは一体どれだけあるのかという疑問が生じるが、 テキサス の電力系統はますます、断続的に変化する再エネ発電に頼らざる負えない状況になっている。

状況を改善する方法として、風力や太陽光発電に対して、商業ベースの蓄電池の利用が広がっている。現在、853MWの蓄電池しか テキサス には導入されていない。再エネ電源が足りない際、その容量では、ピーク時間帯のうち1-2時間程度の間しか、ピークの需要を満たすことには貢献できない。2024年までに2,400MW、これはERCOTがターゲットとする13.75%の予備率の1/4、まで蓄電池の容量は増えることになっているが、より多くの容量は必要である。蓄電池の導入費用は、平均で1.5 Million USD/MW(約165万/kW)となっている。

またデマンドリスポンスプログラムを広く展開することは、全電源喪失回避に役立つ。ERCOTは今後5年間で、同プログラムを拡張することで、2,900-4,700MWのピークを減らすことに貢献すると予測している。仮に限定的であったとしてもこのプログラムを適用することで、対象となる容量を積み上げることができれば、大きな違いが生じることになる。

電力量市場だけで テキサス の問題は解決できるか?

テキサス は、卸売り市場が電力量市場(kWh市場)しかない アメリカ 唯一の州であり、電力量に対してのみ発電事業者へ支払いが行われる。これは、需給がひっ迫しているすると電力価格が上昇し、それが テキサス の系統で電源を開発するインセンティブになるという前提に基づいている。これは、一般的な容量市場(kW市場)とは対照的であり、容量市場とは、発電事業者は予備容量を一定量保有するという考えとなっている。

晴れた日や風の強い日において、再エネ電源の導入が増えると、卸売市場における電力価格が低下し、火力発電所が停止することが多くなる原因となっている。この傾向は再エネの容量が増えるにつれて明確になっていく。問題となっているのは、こうした市場構造が将来、制御可能な発電所、太陽光や風力が発電できない場合において重要となる発電所への投資が促されるのかということである。政策者が直面している問題として、容量市場を採用するにしても、追加の予備電源が必要となる電力量市場を支持するにしても、現在予定されている以上の制御可能な発電所の容量が必要となるものと考えられる。

再エネ政策の難しい判断

テキサス において再エネが広がり、天然ガスの利用が増え、石炭火力が廃止したことで、需要が20%増加したにも関わらず、過去10年間で炭素排出量が13%しか増えていないと、EIAが述べている。こうした状況を継続することと信頼のおける電気を供給することは、熟考された計画とインセンティブによって、両立しうるのではないか。

考察

テキサス 州では連日、下記の最高需要を記録する報道がなされています。
Texas power demand to hit record high during Tuesday heat“, 2021/8/25
Texas power demand to hit record high during heat this week“, 2021/8/24

本文でもありますが、テキサスは電力の自由化が最も進んできた州であり、卸売り市場もkWh、つまり電力量市場しかありません。これまではそれなりにうまく電力市場がなりたっていましたが、再エネの導入が進むにつれて、系統全体の安定も不安定になり、今年の冬に大きな停電が起こり、死者まで出てしまっています。

それを切欠に、安定電源を如何に確保するか、どういった停電対策をするべきかが議論され、州法案も成立されています。2021年夏は輪番停電もなく乗り切れそうですが、次の冬も状況が注目されることころです。

テキサス 州知事、化石燃料や原子力への優遇策を支持テキサス 州知事が、電源安定化のために、テキサス 州公益事業委員会(Public Utility Commission;PUC)に対し、石炭、天然ガス、原子力を燃料とする発電指示可能な電源をより多く、維持又は建設できるように電力市場を再設計するように命じたという記事。...
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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など