記事:Federal Reserve Bank of Dallas, 2021/4/15, “Cost of Texas’ 2021 Deep Freeze Justifies Weatherization”
エネルギーにかかるバリューチェーンは複雑で、相互依存する構造になっている。2021年2月中旬に起きた記録的な冬の寒さのもと、 テキサス 州を襲った壊滅的な停電の原因は、決して1つというものではない。
異常な自然現象に対して備える費用をいくらにするかは、政治家や業界が明確にすることは難しいことは明らかだが、2月に起こった凍結事故とそれに伴う広範囲にわたる停電による壊滅的な影響は再度、慎重に検討する必要がある。我々の分析によれば、異常な自然事象に備えるために、冬季対策を行うことは経済的に合理的と言えそうだ。
電力需要 が 供給力 を上回る
冬の嵐の1週間前、安定した風が吹き、穏やかな気温により、 風力 発電は テキサス 州の電力需要の50%以上を満たしていた。風速が低下し、気温が急落するにつれて、風力 発電の出力が落ち、高まる 需要 を満たすために ガス火力発電 に依存するようになっていった。
2021年2月14日、急激に気温が低下し、極寒が テキサス 州の大部分を覆った。複数の発電所で重要な機器が故障するのと同時に、電力需要も急増していった。風速が落ちるにつれ、 風力発電 の出力は低下し、タービンブレードが凍り付くと、更に出力は低下していった。 ガス火力発電 においては、必要なガスが調達できず、発電量は次第に低下した。約 400 万のテキサス州の顧客は、大寒波の間、電力を失った(図1)。
その時の状況として、業界筋は、ガス井戸やその他の設備が凍結したためにガス生産の困難が発生したと報告している。つまり、ガスを発電所に供給する主要なパイプラインに送り出す設備、ガス井戸、加工プラント、コンプレッサーステーションに不具合が生じたために、大きな混乱が生じたと述べている。寒波の間、 テキサス州 にある176のガス処理プラントのうち、38のプラントが気象条件及び電力供給が立たれたため停止に追い込まれた。 テキサス 州の天然ガス生産量は、2月13-17日に45%まで減少した。こうした事態が、電力供給における悪循環を生んだ。
寒波によって生じた損害
停電は、家庭や企業に広範囲にわたる被害を与え、経済活動に障害をもたらし、水供給に支障が生じ、少なくとも111人の命を失った。当初の予測では、これらの事象によって、テキサス 経済に800億ドル(8兆円)から1300億ドル(13兆円)の直接的および間接的な経済的損失があったとしていた。この初期の予測(参考:Damages from Feb. winter storms could be as high as $155 billion)には、様々な仮定があり、比較的容易に定量化ができる支払い保険料でいえば、100億ドル(1兆円)から200億ドル(2兆円)の範囲となっている。
また電力業界の専門家は、多くの場合、電力供給が途切れない場合の経済的価値、つまり損失負荷( Value of Lost Load : VOLL )の価値を間接的な指標として利用している( VOLL に関するレポート:Estimating the Value of Lost Load)。電気を生産の中間入力として扱う生産機能アプローチを用いて、損失出力の値を測定することで、企業の VOLL の推定値を得ることができる。
VOLLの推定に用いるデータ、2019年の国内総生産、電力消費量、小売価格に関するデータは、企業の場合はMWhあたり平均6,733ドル、家庭のMWhあたり117.60ドルである。2月中旬の凍結中の総負荷流量は70.5時間で、平均負荷は14,000 MW近くに及んだ。 VOLL の見積もりと共に失われた電力量は、停電コストが43億ドル(4300億円)であることを示唆してる。
対策費用
寒波の間、すべての電源が落ちたことから、将来の混乱を避けるための措置として、発電所の冬季対策から 再エネ の信頼性への対処にまで及んでいる。石油・ガス井戸に対する新たな冬季基準は、長期的にはターゲットを絞った効果的なアプローチである可能性がある。シェール井戸は初期の生産性が高いため、新しい井戸が全体の生産量のうち大きな割合を占めるだろう。多くの企業は既に冬の対策を実施している。冬季対策設備は、井戸あたり20,000ドルから50,000ドルの費用がかかるので、これらの措置は州全体で年間8,500万ドルから2億ドル(85億円から200億円)になると見積積もられている。
次に、大規模でかつ安価な対策として、ガス供給を電力に優先させることであろう。発電事業者とパイプライン事業者がより協調し、このような優先順位で必要となるガスインフラを特定し、常に監視すれば、凍結中に発生した問題の一部を防ぐことができる。
上記のような項目について、 テキサス 州の州議員たちは発電所の冬季対策を過去にも評価していた。この課題は、2011年に生じた同様の寒波と停電の後、2021年の停電と同じような課題が挙げられていた。しかし10年前は、こうした課題に対する対策に対し、冬化措置を義務付けた法律は可決されなかった。
連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission : FERC )と北米電気信頼性公社(North American Electric Reliability Corp : NERC )は、2011年の停電に関する共同研究で、テキサス州のガスプラントの冬季対策は、工場あたり50,000ドルから50万ドル(2011年)の費用がかかる可能性があるとしていた。これらのコスト見積もりは依然として有効であり、インフレに合わせて調整すると、 FERC / NERC の推奨機器をテキサス州の162のガス発電所すべてに設置すると、今日では最大9,500万ドル(95億円)の費用がかかる可能性がある。
テキサス 州の13,000基の 風力 タービンに対して冬季対策するには別の課題がある。内部ヒーターを備えたブレードは、ユニットあたり40万ドルの費用がかかる。しかも既存の設備への改造は現実的には可能ではない。しかし、アップグレードされたブレードコーティング、寒冷潤滑油、除氷ドローンは、ほとんどの場合、より低コストで冬季対策ができる。
十分な蓄電池技術が開発されるまで、 風力 発電は断続的にしか電力供給はできない。 テキサス 州の電力網は、 風力 発電が減少した場合、ガスと石炭の発電をシームレスに供給できるようになっている。これは、より多くの 風力 発電容量が設置されるにつれて、毎年より問題が大きくなるといえる。
しかし、 テキサス 州の 風力 発電をすべて ガス火力発電所 に置き換えたとしても、2021年2月における架空シナリオに対して、実際に起こった停電よりは短いものの、停電が発生していた可能性ある。これは、対策を実施したとしても依然として寒さとガス供給の問題により生じるものである (図2)。
経済的に合理的な対策
2021年の寒波による総費用は1,000億ドル(10兆円)を超える可能性があるが、冬季対策費用については、 VOLL の観点から考える必要がある。 VOLL の見積もり43億ドルを使用し、 テキサス 州の氷点下温度の10年に一度の頻度を考慮しても、冬の措置やその他の措置は4億3000万ドル以下であり、対策は妥当であると言える。つまり我々の分析に基づいて考える冬の嵐の停電を防ぐための解決策は、経済的に合理的な範囲と言える。
考察
FRB による今回のレポートにある対策は、現在(2021年4月時点)、 テキサス 州議会で議論されている内容になろうかと思います。つまり、①しっかりとした冬季対策を発電所及びその他のインフラで実施させる、②供給先の優先を決める、③各機関や企業との連携体制を構築する、連絡体制を構築する などです。
この報告からわかるのは、州全体の経済損失に比べて、圧倒的に対策費用が安いことから、事業者が実施するようにインセンティブを与えるべきと言えそうです。これは日本でも2021年1月に電力高騰が生じており、問題は違えど、インシデント対策を取っておくほうが、結果的に安くなるということは教訓にすべきだと思います。
最後にコメントが付いていますが、 再エネ 導入により、電力の脆弱性が上がってきており、今後さらなる対策が必要になると考えられます。実際、 テキサス 州において、安定しているはずの春先4月に、電力の高騰が発生しています。カルフォルニア州及びテキサス州では、2021年の夏にも停電の懸念がされており、今回の事象が停電回避に役立つか、注目されるところです。
また下記の図書は、素人でもわかりやすく電力システムについて説明してありますので、こういった電力システムに興味のある方は参考にされてはどうでしょうか。
岡本浩