セキュリティーパッケージ とは?
プロジェクトファイナンス にて資金を調達する場合、レンダーによるDue Diligenceによって事業性評価が行われ、それに基づいて、レンダー側もキャッシュフローモデルを作成することになります。その後、融資契約に向けた、セキュリティーパッケージに関する交渉が行われることになります。
セキュリティーパッケージとは、プロジェクトに存在する様々なリスクを抽出、そのリスクの発現確率を踏まえて、リスクを管理していくために、そのリスクを負担するのに最も適した当事者にリスクを分担していく仕組みのことを指します。レンダーと開発事業者(SPC)との間で セキュリティーパッケージ が合意されれば、 プロジェクトファイナンス の組成可能となります。つまり、このセキュリティーパッケージの交渉こそが、 プロジェクトファイナンス における交渉の中心と言えます。
リスク管理そのものは、レンダーであろうと事業開発者であろうと同じであり、重要なことは、事業者がプロジェクトを組成する段階から、各種の契約交渉において、レンダーが懸念を描くリスクをどのように配分していくかを考えているかどうかとなります。
ここでレンダーと事業開発者(SPC)とのポジショニングを整理しておきますと、以下の通りとなります。
事業開発者(SPC、スポンサー)
・Equity IRRを高める
・スポンサーサポートの最小化
・SPCやスポンサーの追加義務の最小化
・金利及びフィーの最小化
レンダー
・キャッシュフローの安定化
・資産変化(資産売却やビジネス変更)の防止
・負債悪化(追加借入や資産担保設定)の防止
・キャッシュフローの変化防止(配当制限など)
・財務健全性の維持
・債務不履行(Event of Default)発生時の確実な対応や管理
レンダーは硬いポジションを志向し、SPCやスポンサーに様々な負担を求めていきます。更に、レンダーとの間にはリスクの評価の違いやそのリスク発現時におけるインパクトの度合いなどに隔たりがりますが、これを各種アドバイザーや弁護士などの専門家の意見を踏まえて妥協点を見出していることになります。レンダーとの交渉にあたっては、①論点を予測して自社のポジション及び代替案を定めておく、②レンダー側の論点が理解できるように専門家にアドバイスを受ける、③交渉の場で論点となる箇所の多くが、融資締結後に問題が発生する場合も多々あるという点を理解が重要です。
こうしたことを踏まえ、セキュリティーパッケージを交渉するにあたって、①プロジェクトリスク分配、②商務条件設定について以下で詳細を記載していきます。
プロジェクトリスク
Force Majeur (FM)リスク
FMリスクは、帰責事由の帰属先がないことから、予め関連投資者間でリスク分担を決めておく必要があります。基本的な考え方は開発事業者との目線は同じとなります。
FMリスク対応する方法としては保険が考えられます。レンダーとしては、最大損失額(Expected Maximum Loss, Full Replacement Value)を査定し、できる限り大きな保険を掛けるように要求してきます。加えて、事故・災害発生時に工事事業者に支払う支払額についても査定が入り、支払う際にはレンダーの許可が求められるのが一般的です。
また保険会社の信用力についても、国際的に信用力の高い保険会社しか認めない傾向が強くなります。レンダーは保険会社に対して、保険金支払いの見返りとして得る代位求償権を放棄を求めてくることになります。加えて、保険契約を保険会社が無効にする場合、レンダーへの通知し、レンダーからの連絡があるまでは保険契約を無効にすることができない不執行条項を求めてきます。
ポリティカルリスク
ポリティカルリスクとは、現地国政府等による政治・政策によって引き起こされるもので、①接取・収容・国有化、②戦争・内乱・暴動・テロ、③許認可変更、④政府・国営企業等の債務不履行、⑤外貨交換・外貨送金規制などが挙げられます。これらのリスクは、レンダーも事業開発者も同じであるものの、特に民間企業にとってはFMリスクと同等とも言えます。よって、ポリティカルリスク発現時にプロジェクトに対してどのように現地国政府等の保証やサポートが設定されているか、それがレンダーや開発事業者にどのように還元されるかが論点となってきます。こうしたリスクに関しては、公的金融機関は一定の対応力があることから、事業開発者や市中銀行は、公的金融機関によるポリティカルリスク保証や保険の付保を要求することもあります。
①接取・収容・国有化
現地国政府等にプロジェクトが強制的に接取等されると、プロジェクトの継続ができなくなるため、開発事業者が当該国政府と契約を結び、政府からの補償やサポートを受けれるようにレンダーはともめます。具体的には、買取条項(Buy Out)で、買取価格が融資返済額を上回っている必要があります。また公的金融機関が供与する保険でカバーする方法もあります。
②戦争・内乱・暴動・テロ
戦争等でプロジェクトが停止するようなリスクを指しており、これは①と同様になります。再エネ事業に取り組む開発事業者としては、停止中における固定支払いやPPAの期限延長などを条件に盛り込むことで、影響を小さくすることは可能となります。
③許認可変更
ポリティカルリスクで最も生じる可能性が高い事象で、工程の遅延など、プロジェクトへの影響は決して小さくないため、①や②と同様に、レンダーは現地国政府等の補償を求めてきます。
④政府・国営企業等の債務不履行
政府の信用力(政府資金や実施能力)によるところが大きく、再エネプロジェクトであればオフテイカー自体がこのポリティカルリスクそのもので、レンダーは、プロジェクトへの政府保証、公的金融機関による保険の付保などで、このリスク低減を図ることを求めます。しかしながら、一民間だけではこのリスクには対応できないため、自国政府の支援や、レンダーに公的金融機関を入れて、レンダーにも交渉に加わってもらうこともあります。
⑤外貨交換・外貨送金規制
再エネIPPプロジェクトはインフラの内貨型プロジェクトであるため、外貨交換のリスクが発生するため、ドルによる支払いや外貨交換の政府保証などをレンダーは求めます。その他、公的金融機関による保険により、その影響を低減することも求められることもあります。
スポンサーリスク
再エネIPPプロジェクトでは、SPCが事業を運営するものの、戦略や事業運営の方針などはスポンサーが決定することになります。そのため、スポンサーに関して、プロジェクト当該国における実績、経験などがプロジェクトの信用力や業務遂行能力に大きく影響すると言えます。つまり、スポンサーがリスク管理の主要なメンバーであり、スポンサーの能力がレンダーにとっては最も重要なリスクだと言えます。そのため、スポンサー間の役割分担、責任体制、合意形成方法など、非常に細かい点まで説明を求められます。
レンダーは実績をもつスポンサーの関与を保つために、株式譲渡制限、出資維持義務などを求めることがあります。SPCの運営が大きく変わる場合、それがプロジェクトの安定に影響すると考えられるため、レンダーは原則、スポンサーの変更には否定的です。変更を認めるとしても、そのルールを株主間協定書(Stakeholders Agreement)などで詳細に決めるように求められます。またSHAでは、意思決定方法、少数株主保護、スポンサー間の役割分担などが記載されていきますが、レンダーから意見がある場合、その内容をどこまで反映させるかレンダーと交渉する必要があります。
レンダーがスポンサーの資金拠出能力に懸念を持つ場合は、銀行保証書(LC)の差し入れもしくは現金の拠出を求めます。仮に信用力の高いスポンサーであったとしても、当該スポンサーの格付けが一定以下に下がった場合、LCの差し入れを約束するように求めることがあります。
プロジェクトの出資金拠出方法についても、出資金(Equity)と貸出金(Debt)の順番によって、レンダーと開発事業者間での綱引きが行われます。通常はProrataと呼ばれる出資金と貸出金をDE比率に応じて両社が同時に拠出する方法を取られますが、プロジェクトの信用が低い場合、Equity Firstと呼ばれる貸出金より先に出資金を払い込んで、それが終了後に貸出金を拠出する方法をレンダーから求められます。これはEquity IRRに直結するため、まさに融資交渉の主要な項目の一つと言えます。
技術リスク
基本的には、技術リスクに関しては、開発事業者もレンダーも大きく違いはなく、レンダーが気にする技術的なリスクは、スポンサーとしても管理しなくてはなりません。ただ、大きく異なる点として、新技術に関して、レンダーは非常に否定的です。これは、評価ができないため、将来にわたってプロジェクトの安定につながるかわからないからです。よって、レンダーを説得するには相当な根拠や証拠をもって説明がなされないと、レンダーは認めない可能性が高いです。
環境社会リスクに関してですが、レンダーはSPCが現地国の環境社会配慮基準を順守するだけではなく、国際基準にそった環境影響調査(ESIA)の実施を求めます。赤道原則、IFCパフォーマンススタンダード、JBIC環境ガイドラインなど、現地の基準よりもはるかに厳しく、またそのアセスには専門性が必要であり、コンサル選定においても、レンダーの推薦するコンサルを選ぶのが無難と言えます。レンダーは環境の専門家は内部に抱えていることも多く、その場合、そうした人と仕事をしたことがあるコンサルのほうがスムーズに調査、コミュニケーションを図れることが多く、コンサル選定にも十分な注意が必要です。
完工リスク
レンダーは完工リスクを非常に重要視していますが、それはレンダーが全くコントロールできない領域であるためです。多くのレンダーは完工リスクを取ることをできないとしてスポンサーサポート(完工保証)を求めることが多くなります。完工保証とは、完工するまでの遅延や予算超過の資金調達の義務を負うものです。工事完了まで債務を負うものであるので、本来のプロジェクトファイナンスであれば、ノンリコースがベースのように思われがちであるが、リミテッドリコースになる最たるものがこの完工保証となります。
建設契約の構成や内容は、レンダーにとって非常に重要なものであり、レンダーでは判断ができないため、通常はLender’s Technical Advisor(”LTA”)がその内容の確認の責任を負います。項目としては、コントラクターの構成(EPC契約が一本か、複数か)、オンショアとオフショアの契約にブリッジがあるか、支払い形式、完工期日がいつか、責任体制、完工テストは適切か、LDは十分であるか、瑕疵担保保証は十分か、などが確認されることになります。ただし、その内容はコントラクター、また管理するスポンサー側の経験などを考慮されるために、決まった基準というのはありません。
スポンサーもそうですが、レンダー側もコントラクターの経験や財務状況などの確認をされます。場合によっては、一定以上の格付けなども求められる場合もあります。
レンダーはEPC契約に定められている完工テスト、つまり物理的な完工(Mechanical Completion, Physical Completion)とは別に、レンダーによる信頼性テスト(Lender’s Reliability Test)を行うことがあります。これは、操業完工(Operation Completion)と財務完工(Financial Completion)になります。操業完工では、完工テストよりも厳しい完工条件が課させることもあり、目的としては長期的に安定的な運転ができるかどうかの確認となります。財務完工では、求めている財務上の各指標が満たされているか、DSCRの積み立てがなされているか、抵当権設定がなされているかなどとなります。これらの財務指標については、スポンサーのCovenants(誓約条件)となっており、みなすことができない場合は、Default扱いになります。
予備費ですが、レンダーが貸付金の中に認めてもらえる場合とそうではない場合があります。特にレンダーのリスクアセスに基づいて、コストオーバーランがないように十分な予備費を積むように求められますので、どの程度積むべきかを、スポンサーとLTAで協議されるのが一般的となります。
操業リスク
プロジェクトの運用方法としては、SPC自身が行う場合と、操業保守契約を結び外部ソースが担う場合があります。プロジェクトの収入を安定させるためには、プロジェクトの運用方法が大きく関係するため、レンダーはその体制に関して詳細な調査を行います。
SPCが操業を行う場合、スポンサーからの派遣人員や配置、またスポンサーのサポート(Technical Service Agreement)等の締結などスポンサーの支援を求めてきます。また現地での経営層、技術の人員、人材育成方法など、現地での安定した運営をしていく仕組みの構築を求めてきます。
また操業を外部委託する場合は、その高い経験や操業保証、操業停止が起こった場合の損害賠償とそれに対する保険付保などを求められることになります。
メンテナンスについても、SPCで行う場合と外部に委託する場合が考えられますが、特に大規模メンテナンスに関しては、供給メーカーによる長期サービス契約(Long Term Service Agreement)を締結することが一般的です。レンダーとしては、こうした契約も含めて安定した操業ができるための体制を求めます。
マーケットリスク(オフテイカーリスク)
オフテイカーとは、サービスの買取主体であり、再エネプロジェクトであれば、当該国の電力会社や需要家ということになります。このオフテイカーとの契約、再エネであればPower Purchase Agreement(”PPA”)によりキャッシュフローが創出されて事業が成り立つことになります。よって、オフテイカーの信用力やPPAの有効性が議論の項目となります。
PPAにおいて、レンダーとしてはTake or Pay契約、理想的にはCapacity Payment契約により、収入の安定が図れるように求めてきます。Take or Pay契約では、オフテイカーの発電指示に関わらず、発電を起こした量だけ料金が支払われる、もしくは出力に応じて料金が支払われるために、事業収入が非常に安定します。一方、Take and Pay契約では受け取りに応じた分しか収入が得られないため、需要に収入が依存するため、キャッシュの安定に蓋然性がなくなり、より厳しいDSCRを求められることになります。
オフテイカーの信用力は、一般需要家であれば、その格付けを、国もしくは国営企業である場合はその国の信用力であるため、政府保証が求められるのが一般的となります。公的金融機関が提供する保険を付保することである程度カバーはできる可能性もあります。
商務条件
スポンサーサポート
プロジェクトファイナンス は、ノンリコースのイメージが強いですが、実際はレンダーとの交渉により、リミテッドリコースとなるのが一般的です。つまり、リスクを100%排除できるわけではないため、その補完処置として、レンダーはセキュリティーパッケージの一つとして、スポンサーサポートを求めます。
資金サポートとして、Cash Deficiency Support(”CDS”)がありますが、SPCのキャッシュフローが不足した場合に、スポンサーが増資もしくはレンダーへの返済よりも劣後する株主ローンにより現金注入するというものです。ただし、元利金返済への直接的なサポートではなく、あくまで資金注入となります。返済金に対する直接的なサポートはDebt Service Undertaking(”DSU”)になります。特に建設時においては、完工リスクに関して、レンダーがリスクが許容できないと判断した場合は、それらのリスクに対して、それぞれスポンサーサポートとしてCDSを求められることがあります。
資金以外のサポートとしては、建設や操業時における技術的・人的サポートであり、Technical Service Agreementなどの契約を結び、それらのサポートを提供します。
貸付条件
貸付条件はレンダーと開発事業者の利害が対立する場面であり、正にレンダーとの交渉ポイントとなります。
貸付金利(Margin)
プロジェクトファイナンス は、プロジェクトが唯一の担保であり、その分、レンダーとしてはリスクが大きいということになります。そのため、基準金利にのせるマージン(スプレッドもしくはプレミアなどとも言います)はコーポレートファイナンスよりも通常は高くなります。マージンは当該プロジェクトのリスク評価結果、カントリーリスク、与信期間、マーケット環境、レンダーの目標リターンなど様々な要素が絡んできます。
加えて、基準金利+金利マージンによる変動金利になるのですが、スポンサーがヘッジするだけではなく、レンダー側もヘンジを志向し、その分、更に貸付金利が上昇する場合もあります。
手数料(Fee)
プロジェクトファイナンス は文書作成や手続きが複雑であるため、様々な手数料が必要となります。主なフィーとしては、融資関連としてUp Front Fee、Front End Fee、Facility Fee、各管理に関わるフィー、Commitment Fee(Drawdown前に資金確保に必要となる費用)、ヘッジ手数料などです。各フィーも非常に高額になるため、マージンと同様に交渉によって減額を図っていく必要があります。
貸出実行可能期間(Availablity Period)
融資契約調印から貸出が可能な最終期日までの期間で、基本的には建設完了予定日以降に長く期間を設けることはレンダーは嫌います。一方で開発事業者としては工事遅延も考慮して、その期間を延ばす方向で交渉する必要があります。
貸出先行条件(Condition Precedent)と解除条件(Condition Subsequent)
先行条件とは、レンダーが債権保全のために必要とする条件であり、融資契約の調印はもちろん、各種契約の締結(EPC契約やOM契約など)、政府許可、口座開設、法務意見書などの提出を完了させる必要があります。開発事業者としては、融資契約調印後、直ぐに貸出実行を受けて建設の開始のための指示(Notice to Proceed)を発行したいため、この先行要件はなるべく少なくしたいと考えます。そのため、確定後に手続き等で時間がかかる項目については、解除条件として、貸出実行後に条件を満たせばよいとする項目を設定する場合があります。しかし基本的にレンダーは、CSの設定は嫌いますので、CSを多く設定しようとすると交渉は難航する可能性が高まります。
表示と補償(Representations and Warranties)
融資契約を調印するにあたり、レンダーが融資判断を行うにあたっての前提条件として、融資関連契約が真実であることが挙げられます。借入人はこれについて表明する必要があります。これをRepresentations and Warrantiesといい、融資契約に限らず、他の契約でも同様です。これについては、調印時だけではなく、CP充足時、貸出時にも繰り返し表明が求められます。
誓約(Covenants)
融資期間中に借入人が守らなくてはならない義務を融資契約の中で誓約させるのがCovenentsとなります。大きくわけて、借入人が行わなければならないAffirmative Covenentsと行ってはならないNevative Covenantsがあります。また情報提供を行う必要があるInformation Covenantsがあります。
債務不履行事由(Events of Default)
債務不履行になると、レンダーより即時全額返済を求めらえることもあります。通常、このような場合はプロジェクトの続行が不可能となりますが、セキュリティーパッケージにより債権保全を確保しています。債務不履行が起こった場合、まずは免除の適否(Waivorの実行)に関してレンダー間で意思決定が行われます。ここでWaivorを行わないと決定された場合、次にプロジェクトを継続するかどうかが話し合われ、続行せずに、救済(remedy)となった場合、借入人に通知を発出したのちに、貸出実行の停止、融資コミットのキャンセル、債券の残額返済、口座からの引き出し停止、スポンサーの未払い実施指示、担保権の実行(Foreclosure)となります。
担保権の実行については、国によって手続きが異なるため、現地法律事務所の知見が不可欠となります。仮に英米法のもとで手続きを進める場合、債権者は債務者に対して不払い金額を記載した通知を提示し、一定期間経過後も不払いが解消しないと担保権が設定されている資産が債権者に移転されて、競売により売却になります。担保権について、英法では当該資産を占有していればよく、担保権を設定してなくても問題ありません。米法の場合は設定も必要となります。