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CCPが世界で進めた巨大 水力発電所 建設プロジェクトの今 -Coca Codo Sinclair 水力発電所

CCPの一帯一路で進められてきた巨大 水力発電所 建設プロジェクト

CCPの一帯一路政策に基づいて建設されてきた巨大 水力発電所 建設プロジェクトが数多くありますが、そうしたプロジェクトのうち、南米のエクアドル Coca川で行われた Coca Codo Sinclair 水力発電所 に関する記事が The World Street Jounalで掲載されました。場所は、エクアドルの北部、アマゾン流域であるCoca川、150mの高さを誇るSan Rafael滝から約17km上流地点に取水ダムがあり、そこから25kmの導水路トンネルにて下流の発電所に水を送るものです。

このプロジェクトは火山帯に位置しており、地質が悪く、建設が始まった2016年から懸念が示されていた場所でした。そうした中、運転開始後の2020年2月に、滝が崩落し、その上流も浸食が起こって、河川横の石油パイプラインが破壊、極めて深刻な石油流出事故が生じています。参考記事はこちら

原因としては、ダムによる土砂供給が減り、下流域において、浸食が進んだことが原因だと考えられています。このように、ダム建設の影響は既に生じているのですが、それに加えてダム本体、また発電所にも問題が生じているというのが、以下の記事となります。

ダムを有するプロジェクトは、環境への影響は不可欠であり、その影響評価を詳細に検討することが求められます。そうしたことを行わず、プロジェクトを進めた場合、水力発電所のポジティブな面よりも、ネガティブな面が大きく発現するという典型的な事象だと言えそうです。

図1 エクアドル Coca Codo Sinclair 水力発電所位置
図2 Coca Codo Sinclair 水力発電所 概要図
図3 Coca Codo Sinclair 水力発電所 取水地点のGoogle Map

記事:The World Street Jounal, 2023/1/20, “China’s Global Mega-Projects Are Falling Apart”

CCPの一帯一路に関連するインフラプロジェクトの多くは、エクアドルの巨大 水力発電所 を含む建設上の欠陥に悩まされている。結果として費用がかさみ、国々をより深い債務に導くと非難されている。

Coca Codo Sinclair 水力発電所の現状

CCPの資金にて建設されたコンクリートダムは、エクアドル・サンルイス-噴出する火山の近くに建設され、この国、エクアドルで最も大きなプロジェクトであり、北京、中国の指導者である習近平氏が2016年の就任式で演説したほどに重要であった。

今日、27億ドルのCoca Codo Sinclair 水力発電所に数千の亀裂が生じ、エクアドル最大の電源が壊れるのではないかという懸念が高まっていると、政府の技術者は述べている。同時に、Coca 川の斜面が浸食され、ダムを損傷する恐れがある。

QuitoにあるSan Francisco 大学の技術者で、このプロジェクトの問題をつぶさに見てきたFabricio Yépez氏は、「すべてを失うかもしれない。それが明日になるか、半年後になるかはわからないが。」と述べる。

このプロジェクトは、建設上の欠陥に悩まされる世界中の多くの中国出資プロジェクトの1つである。過去10年間、CCPは一帯一路構想の一環として、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ全域で経済貿易の発展とCCPの影響力の拡大を意図し、1 Trillion USD 規模の国際ローンを供与した。世界銀行によると、このような融資によって、CCPは発展途上国に対する最大の政府融資機関となり、その融資総額は他のすべての政府融資を合わせた額とほぼ同じになったという。

スリランカザンビアなどの債務危機を招き、多くの国では返済の方法が限られているという。また一部のプロジェクトは、その国におけるインフラの必要性と合っておらず、環境を破壊しているなどと言われている。現在、いくつかのプロジェクトで低品質の建設が行われているため、主要なインフラが機能しなくなり、問題を改善するために今後数年間、さらに多くの費用がかかる恐れがある。

エクアドルの前エネルギー大臣で石油輸出国機構の前事務局長であるRené Ortiz氏は、CCPが建設したプロジェクトの「機器や部品の品質が悪いために、我々は今日苦しんでいる」と述べている。

在エクアドル中国大使館は、 水力発電所 プロジェクトについてコメントを求めたが、回答はなかった。腐敗防止監視団体Transparency Internationalの地方支部である市民と開発のための財団が、エクアドルにおける中国の融資慣行について報告したことを受けて、大使館のツイッターアカウントで最近公開された書簡では、CCPの融資とプロジェクトはエクアドルが資金調達を急務としていた時期に「有形利益」をもたらしたと述べている。CCPの資金は、パキスタンの港湾からエチオピアの道路、ブラジルの送電線に至るまで、あらゆるものの建設に使われてきた。CCPの建設会社は、しばしば政府のプロジェクトに入札したり、CCPの銀行や保険会社から簡単に融資パッケージを手配できるという約束で、地元の役人に直接プロジェクトを持ちかけたりする。

途上国の関係者によれば、このことは、ダムや道路の建設に熱心な政府が自ら資金を調達する必要がないことを意味し、CCP企業を優位に立たせることにつながっている。Johns Hopkins大学のCCPアフリカ研究イニシアチブが2021年に発表した論文によると、アフリカでは2019年に大手国際建設会社が集めた収益の60%以上がCCP企業に流れたという。

批評家は、CCPの建設にCCPの融資が比較的容易に利用できるため、政府に対する経費を最小限に抑える圧力が少なく、プロジェクトコストの膨張につながる可能性があると述べている。

建設の瑕疵

中国が建設したプロジェクトの一部には欠陥があることが明るみに出ている。

パキスタンでは昨年、Neelum Jhelum 水力発電所 で、導水路トンネルに亀裂があるのを当局が発見し、発電を停止した。同国の電力規制当局のトップであるTauseef Farooqui氏は11月、パキスタン上院に対し、969MWの発電所が稼働を開始してわずか4年でトンネルが崩壊することを懸念していると述べた。エネルギー価格の上昇に見舞われている国にとって、それは悲惨なことだ、とFarooqui氏は言う。規制当局によると、この発電所の閉鎖により、7月以降、電力料金の上昇でパキスタンはすでに1カ月に約44 Million USDのコスト増となっている。

世界銀行によると、水力発電所の運転寿命は最大100年である。

ウガンダの発電会社は、2019年の運転開始以来、頻繁に故障が発生しているナイル川の中国製183MWの 水力発電所 において、500以上の建設欠陥を確認したと発表した。ウガンダ電力発電株式会社(UEGC)によると、Isimba 水力発電所 の建設を主導したChina International Water & Electric Corpは、ダムを水草などのゴミから守るためのフローティングブームを作らず、タービンの詰まりや停電の原因になっているという。また、発電機やタービンが設置されている発電所の屋根からも雨漏りが発生していると、UEGCは述べている。この発電所の建設費は567 Million USDで、そのほとんど、480n Million USDが中国輸出入銀行から融資によって賄われた。

ナイル川のさらに下流にある別の中国製 水力発電所 、600MWのKaruma 水力発電所 の完成は予定より3年遅れており、ウガンダ当局はこの遅れを、壁のひび割れなど様々な建設欠陥のせいだと非難している。UEGCはまた、CCPの請負業者であるSinohydroが欠陥のあるケーブル、スイッチ、消火システムを設置したため、交換が必要であると述べている。今年初め、政府はこのプロジェクトの資金調達のために中国輸出入銀行から借りた1,440 Million USD の返済を開始しなければならないが、発電所はまだ稼動していない。SinohydroとChina International Waterに対して、ウガンダのプロジェクトについてコメントを求めたが、回答はなかった。

アンゴラでは、首都ルアンダ郊外の広大な社会住宅プロジェクト、Kilamba Kiaxiに最初の入居者が移ってから10年、多くの地元住民が壁のひび割れや天井のカビ、施工不良に不満を持っている。William & Mary’s Aid Data Research Labによると、このプロジェクトはCCPのCITICグループによって建設され、当初は中国工商銀行から25億ドルの石油担保融資を受け、後に中国開発銀行が借り換えを行ったものである。「建物には多くのひび割れが発生している」と、Kilambaの4ベッドルームアパートで夫と3人の息子と暮らすAida Francisco氏は述べる。Kilambaの他の多くの中流家庭と同様に、彼女は賃貸住宅購入プログラムを通じてこのアパートを購入している。Francisco氏によると、アパートの壁には湿気がたまり、カビが発生しやすく、ドアや手すりなど多くの建材は質が悪いという。またFrancisco氏によると、2016年に初めてキランバに引っ越してきたときは、まだCCPの業者が問題を直しに来ていたそうだ。しかし近年、アンゴラの経済危機の中で、特に維持管理の責任を負う多くのテナントが職を失い、彼女の建物を含む多くの建物が荒廃している。「このような建物をみるに、長くはもたないだろう。少しずつ崩れていく。」とFrancisco氏は述べている。CITICの広報担当者は、Kilambaの少数のユニットにおける湿度の問題は、テナントが不適切な改修を行ったためであり、同社は必要なメンテナンスを完了したと述べた。

CCPに、アフリカやアジアで中国が建設したインフラに対する批判についてコメントを求めたが、回答はなかった。アンゴラの建設・公共事業省の広報担当者は、コメントの要請に応じなかった。

CCPのプロジェクトの多くは、必要性の高いインフラを建設するために、追加の資金を得るために苦労している国々において、真の開発ニーズを満たすものである。アルゼンチンの貧しい北部Jujuy州では、PowerChinaが南米最大の太陽光発電プロジェクトであるCauchariソーラーパークを建設した。アルゼンチン政府によると、標高1万3,000フィート(約3,000m)以上の場所にあるこの太陽光発電所は、約16万戸の家庭に電力を供給するこBelo Monteダムと南部の都市を約1550マイル(約121km)で結んでいる。

エクアドルの歳出の増加

シンクタンクであるInter-American Dialogueによれば、ラテンアメリカではエクアドルが中国との関係が深く、ベネズエラとブラジルという大国を除くどの国よりも多くの融資を受けている。

2008年の国債デフォルトの後、当時のRafael Correa大統領は左派で、2007年から2017年までの在任中はしばしば米国と衝突し、多国間金融機関と関係が悪く、急増した公共支出を補うためにCCPに頼った。Correa氏の任期中、CCPの銀行はエクアドルに合計18 Billion USDを貸し付けた。

エクアドルの議員、元政府閣僚、汚職防止活動家によると、この融資は透明性を欠き、公募なしに企業に契約が行われたため、手抜き工事、高コスト、接待が行われた。在エクアドル中国大使館のTwitterアカウントで公開された最近の書簡では、融資はエクアドルとの友好的な交渉で合意されたもので、両国の法律と規制を完全に順守していると述べていrる。現政府関係者やエクアドルの経済学者によると、アンデスの谷間にある数千エーカーの農地を収用してヤーチャイシティという新しい大都市を建設し、エクアドルを地域の技術大国にするはずだったなど、いくつかのプロジェクトは無意味なものとなっている。中国輸出入銀行が初期のインフラ整備に200 Million USDの融資を行った。現在、このプロジェクトは放棄され、研究者が使うはずだった6.3 Million USDのスーパーコンピューターは、戸外に置かれたままで使われていない。

2019年、会計検査院は中国が建設した200校の建設を検証し、建物の基礎に問題があるものや、床が傾斜しケーブルがむき出しの教室があると報告した。このうち57校は予定より遅れて完成したと会計検査院は発表している。

QuitoにあるLas Americas大学の経済学者、Vicente Albornoz氏は、「Correa元大統領は、多くの費用を不適切なプロジェクトに支出した。そして、CCPはCorrea元大統領の支出に資金を提供していた。」と述べた。Correa元大統領はインタビューで、この資金が新しい高速道路、病院、学校などでエクアドルの発展を後押ししたと述べた。更に、CCPが建設した4つの 水力発電所 は、クリーンな電力を供給し、輸入化石燃料への依存を減らすことができ、CCPのプロジェクトは、かつてQuitoで定期的な停電を引き起こしていた信頼性の低い電力網を改善したと述べた。国営電力会社によれば、エクアドルの電力の90%は 水力発電所 によるもので、2007年の55%に比べ、現在ではその割合が増加している。「CCPとエクアドルの関係は、ラテンアメリカの模範となるものであった。この国の歴史を変えるようなことをした。」とCorrea元大統領は述べた。

前大統領は2020年、公共契約と引き換えに同党への支払いをめぐる事件で汚職容疑で有罪判決を受け、ベルギーに亡命している。同氏は不正を否定している。エクアドルにおけるCCPの最も野心的なプロジェクトは、エクアドルの技術者が1970年代にCoca川のために最初に検討したCoca Codo Sinclairである。当時、彼らはその莫大な費用と活火山の近くに位置することから、危険な事業とみなしていた。しかしエクアドルは、定期的に停電に見舞われ、高価なエネルギー輸入に頼っていた電力網を改善するために、このダムを望んでいた。現在では、エクアドルの電力の約3分の1を供給している。Correa元大統領の任期中に、中国開発銀行がCoca Codo Sinclairの初期費用の85%を6.9%の金利で融資することに合意した。建設はSinohydroが行い、2010年から2016年にかけて数百人の中国人労働者を派遣して発電所を建設した。中国開発銀行とSinohydroはコメントの要請に応じなかった。

9月、検察は、CCP企業に契約が発注された際、Correa政権時代の副大統領の Lenin Moreno氏に近い人物に賄賂を支払った疑いで、Sinohydroの事務所を捜索した。現在進行中の捜査では、誰も起訴されていない。その後、2017年から2021年まで大統領を務めたMoreno氏は、不正行為を公に否定している。

大規模容量

技術者の中には、「環境調査は古く無効である。」と、早くからこのプロジェクトに疑問を抱いていた人もいた。元エネルギー関係者や議会の調査官によると、この発電所の1,500 MWの容量は、当初想定されていた約1,000 MWの容量よりはるかに大きく、コストがかさむとともに、川の電力供給能力を超える容量が生み出されたとのことである。2014年には、中国人とエクアドル人の従業員13人が建設事故で圧死している。

2016年の開所以来、州電力公社の職員は、発電所の8つのタービンに17,000以上の亀裂を発見したという。中国から輸入した欠陥のある鋼材が亀裂の原因だとしている。2021年、電力会社はSinohydroをチリでの国際仲裁に提訴し、現在も進行中である。

 Wall Street Journalの取材に対し、電力会社は「いかなる亀裂も容認できない。このような亀裂があると、設備は構造的は問題が生じ、崩壊の原因になりかねない。」と電力会社の職員は述べている。

Guillermo Lasso大統領は、亀裂が修復されるまで、建設完了時に予定されていたSinohydroからの正式な経営権の継承を拒否している。電力会社関係者によると、亀裂を修復する試みは何度も失敗しているという。Fernando Santosエネルギー相は11月、地元メディアに「こんなお粗末な発電所、死んでも認めない」と語った。

San Luisでは、Adriana Carranzaなどの地元住民がSinohydroに就職し、中国人労働者のために料理をするよう雇われた。1日14時間の労働は長く、中国人の上司はスペイン語を話せない。しかし、この仕事のおかげで、彼女は家族のために家を建てるための十分な貯蓄ができたという。家では、今でも甘酢チキンなどの中華料理を作っている。しかし2020年、Coca川の斜面が崩れ始め、雷鳴のような音と地震のような地響きが起こった。この浸食によって、エクアドル最大の滝が破壊された重要な道路と石油パイプラインが破壊された。中国人とエクアドル人労働者に人気があったというSan Luisの売春宿、ピンクハウスは川に転落しました。Carranzaさんによると、近所の家が崖に落ちたそうである。

Carranzaさんは3月にSan Luisを脱出し、窓やドア、屋根など、できる限りのものを持ち出し、自宅の安全を確保した。「私は深く落ち込んで、ベッドから起き上がれなくなった。私たちはすべてを失った。」とCarranzaさんは述べた。

エクアドルの国営電力会社は、浸食は自然災害の起こりやすい地域での自然現象であると述べている。地質学者も同意見だが、Coca Codo Sinclairにできたコンクリート構造物が川の自然な流れと土砂の蓄積を妨げ、AndesからAmazonの熱帯雨林に下ってくる急流が、河川を浸食するようになったと非難する者もいる。Quitoにある公立大学、国立理工学院の地質学者Carolina Bernal氏は、「浸食は通常数千年、数百万年かけて起こるプロセスだが、ダムはわずか5年でそれを加速させた。」と述べた。

エクアドルは、Coca Codo Sinclair のダムに近づく川の浸食を止めようとしたが失敗している。Bernal氏によると、政府はおそらく発電所の重要な部分(プロジェクトの取水口)を移設する必要があり、それには数百万ドルの費用がかかるという。San Luisに住むNancy Chicaizaさんは、かつて中国人労働者が自分のbodegaで飲み物やスナックを買い、にぎわった町の存続にほとんど希望を持っていない。彼女は今、浸食によってSan Luisの町が消滅すると思っている。Chicaizaさんは、「Coca Codoは当初、とても良いものだと思われていたが、このような事態になるとは誰も思っていなかった。」。

まとめ

今回のエクアドルの件は特別ではなく、一帯一路プロジェクトで多く見られる状況です。融資の担保として、その国の土地を99年で借り上げるなどの事例も多く、最近になってその実態が明らかになりつつあると言えます。
本件は中国ウォッチャーのYouTuberも取り扱っています。

中国のインフラ政策において、ダム建設は主要な産業であり、政策ですが、メコンのような大河川では、中国だけにとどまらず、他国にも影響するため、国際問題化することも多いです。アメリカはこれまで、これらの問題に関与しない姿勢でしたが、2020年以降は、そうした介入や監視もするようになっています。

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今後、同様な事象が明らかになってくることも多くなろうかと思いますが、再エネを進めるうえで、リスク事例また、将来へのノウハウとして、事例は取り上げていきたいと思います。

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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など