ScotWindとは?
イギリスを構成するスコットランド自治政府は、2030年までの温室効果ガス排出量の75%削減、および2045年のネットゼロ実現を目標として掲げています。そうした中、自国の海域を着床、浮体に関わらず、風力発電所を開発すべく、その海域権益の入札を実施(これを、 ScotWind seabed tenderと呼んでいます)、2022年1月に入札結果が発表されました。 本入札には、落札しております”>日本企業である丸紅も参加、落札しておりますので、その概要を述べたBBCの記事を取り上げました。ここでは、他の記事も参照していきたいと思います。
記事:2022/1/18, BBC, “ScotWind offshore auction raises £700m”
ScotWind 洋上風力入札の概要
スコットランド沿岸周辺の主要な洋上風力プロジェクトの海底区画の入札により、スコットランド政府は7億ポンド(日本円で約1,000億円)を獲得した。この10年で行われる最初の入札において、合計7,000km2をカバーする17のプロジェクトが選定された。それらは合計で25GWの潜在的な発電容量を有しており、当初予測されていた10GWをはるかに超える結果となった。
現在、スコットランドには1.9GWの洋上風力があり、更に8.4GWが建設中もしくは開発中である。
この ScotWind の海床権益入札には、世界中の主要な石油会社、公益事業会社、投資ファンドから70件以上の入札があった。 関連記事として以下の2つがある。
ほとんどのサイトは東海岸、北東海岸、または北海岸にあり、スコットランドの西側に1つだけある。落札者の中には、合計7GWの設備容量がある3つの洋上風力プロジェクトの海床権益を獲得した ScottishPower も含まれている。そのプロジェクトには、シェルと実施する浮体式洋上風力と、1つの着床式洋上風力プロジェクトがある(No.4, No.11, No.17)。
Shell New Energiesは、アバディーン沖にある最も費用のかかるプロジェクト開発への申請者であり、オプション費用として8600万ポンドの費用がかかると推定されてる。BP Alternative EnergyInvestments(No.1)とSSE Renewables(No.2)は、それぞれ2つのサイトに8,590万ポンドの費用を支払うことになる。
入札過程はCrownEstate Scotlandによって監督され、入札によって得られた資金はスコットランド政府に送られる。落札者には、海床の対象領域に対する権利を留保するオプション契約が提供される。それらの海床には、アンガスの東、オークニー諸島の西、ルイスとアイラの両方の北西にあるマレー湾の外側の北海の一部が含まる。シェトランドの東に競売にかけられた海域があったが、これにはどの入札者も落札できなかった。
環境記者 Kevin Keaneの記事
ScotWindは、スコットランドにおいてどのように電力を生み出すかに関して、海の権益の大きな変化を示している。
これらのプロジェクトがすべて完成すれば、毎年推定600万トンの二酸化炭素削減されると予測され、これは、2019年のスコットランドの全排出量の約8分の1である。我々は既に電力部門の大部分を脱炭素化したが、なぜ洋上風力を更に増やすのか。
風力は予見性が低く、一部の風車が発電できないときにも、停電が起こらないようにするには、大量の過剰容量が必要であることを意味する。しかし電力系統運用者は、単に発電機を増やすのではなく、他の方法を考える必要がある。つまり、スマートテクノロジーを使う機会が増え、バッテリーまたはグリーン水素による貯蔵を増やすことが、今後数年間で重要になることを意味する。
Crown EstateScotlandの最高経営責任者であるSimonHodge氏は、次のように述べています。「環境へのメリットに加えて、これはスコットランド経済への大規模な投資でもあり、約7億ポンドが財政に直接投入され、数十億ポンド相当がサプライチェーンに影響する。」
またニコラ・スタージョン首相は、 ScotWind 入札を「スコットランドのネットゼロ経済にとって本当に歴史的な機会だ」と説明した。「本日の発表で示された機会の規模は、現在の計画である10GWの洋上風力発電の想定を上回っている。これはスコットランドに対する大きな信頼の現れである。」
Scottish Renewablesは、この発表は「スコットランドの再エネ歴史における刺激的で重要な瞬間」であると述べた。最高経営責任者のクレア・マックは、「17の新しいプロジェクトの可能性は、再エネセクターの大きな希望を生み出し、私たちの経済と環境に最大限の影響を与えよう、強力な協業が必要となる。」
WWFスコットランドは、その結果は「再生可能エネルギーとスコットランドのグリーン経済に対する大きな信頼の現れ」であると述べた。
環境グループの気候とエネルギーのリーダーであるファブリス・レベックは、次のように述べている。「これらのプロジェクトはそれぞれ、何百もの雇用を生み出す可能性があり、スコットランドをグリーン復旧への道に導く手助けをする役割を果たします。」
何倍も大きい
しかし、RSPBスコットランドはこの発表を批判し、「スコットランドにおいて一部の海鳥種が絶滅する可能性を加速させる。」と主張した。
慈善団体の政策および擁護の責任者であるAedanSmithは、次のように述べている。「スコットランドで既に許可されている洋上風力プロジェクトは、毎年、ミツユビカモメ、カツオドリ、ツノメドリなどの数百羽の海鳥を殺すと予測されている。本日発表された潜在的なプロジェクトは、それらの既存のプロジェクトよりも何倍も大きく、そうした影響が大幅に膨れるだろう。」
一方、スコットランド漁業連盟(SFF)は、プロジェクトが彼らの業界にとって何を意味するのかについて懸念を表明した。最高経営責任者のエルズペス・マクドナルドは、次のように述べる。「開発者達は洋上風力と漁協活動は共存できると主張してきたが、これまでの経験では、逆のことが起こっているため、彼らの主張を精査する必要がある。」
オークションは当初、昨年3月末に終了する予定であったが、英国とウェールズ、並行して実施した入札が予想よりもはるかに高い価格になったため、延期されました。元の入札価格ガイドラインに拘った場合、数億ポンドを失うリスクがあったため、CESは入札の上限を1平方キロメートルあたり10,000ポンドから100,000ポンドに引き上げた。スコットランド政府は、2045年までに正味ゼロ排出量に到達するという目標を設定しました。
考察
スコットランドで行われた洋上風力の権益入札である ScotWind に関する記事です。最後のところにもありますように、カーボンニュートラル、また石油企業の参入によって、その権益価格は10倍も跳ね上がっています。次の記事にもあるように、コスト競争力を有する風力開発企業オーステッドも入札に参加するものの、1件しか落札できていない状況です(この案件は、No.10のFalck RenewablesとBlueFloat Energyとのコンソでの浮体式の案件です)。これは下記に示すトタルエナジーCEOのインタビューや、オーステッドのビジネスモデルに示した懸念に通じる部分であり、お金持ち企業が高値で権利を買っていくという構図になりつつあり、本来、電力価格を抑えるために、コストを下げる方向とは異なる方向に向かっているともいえそうです。ただ、その権益費用は、25GWに対して約1,000億円なので、1GW当たり40億円となり、プロジェクト全体から見れば小さいものかもしれません。
本権益入札には、日本企業の丸紅が参加、着床ではなく、浮体式プロジェクトに参加しているのも、日本の次のフェーズを見越してといえそうです。