建設契約 の目的
プロジェクトマネジメントの知識体系、調達管理において、 再エネ プロジェクトなどの巨大インフラ事業においては、 建設契約 は事業可能性を高めるうえで重要な役割を担います。特にプロジェクトファイナンスにて資金を調達する場合には、レンダー側から以下の点が重要な要素となります。
- 工程遵守、つまり工期を守り、運転開始が遅れないこと、ひいては収入の確保
- 予算遵守、建設費用に変更がなく、コストオーバーランの回避
- 品質確保、予定性能を確保して、将来の安定運転を保障
開発者の立場で述べれば、上記をコントラクターに大部分を負担させる契約が望ましいわけですが、一方で、リスク負担が大きくなれば、当然、コントラクターの請負金額が高くなります。特に、コントラクターが得意とする部分ではなく、得意ではない、予見できないスコープまで入ってしまうと、リスクプレミアとして極端に請負金額が高くなることになります。更に、大きな事象が生じた場合、工事が大幅に遅れ、コントラクターが瑕疵保証を払って撤退ということもあります。
契約形態
建設契約 を検討するにあたり、まず建設契約の形態を定めることが、最初のステップになります。形態を決めるとは、発注者とコントラクターの間でどのようなリスク配分をするかということに他なりません。
その建設契約の典型的な約款として、FIDICが挙げられます。その約款には、支払いと責任の分担の仕方により、その種類が分けられます。EPC契約という言葉を見かけると思いますが、しばしこれをEPC Turnkey契約と同義にしているケースがあるようです。しかしながらEPCとは、Engineering, Procurement and Constructionの意味で、建設契約で規定されているスコープを意味しているにすぎません。また数量清算方式、これをBOQ契約などと呼び、上記の契約と比較したりすることがあります。しかしながら、数量清算というのは、Lump-Sumつまり一括支払いとの対比であり、あくまで支払い方法を示したものです。EPC Turnkey契約は、設計、調達、設置・建設を含む、すべての責任がコントラクターにあるため、支払い方法がFixed Price、つまりLump Sum形式でしかありえず、結果的に、EPC Turnkey=Fixed Priceになるわけです。支払いによる契約種類の分け方については、当ブログの「調達管理-契約形態」を参考ください。
このように建設契約の形態には、責任分担と支払い方法で、無限に組み合わせることが可能であるものの、一般としてよく使われている契約方式として、FIDICのRed bookと呼ばれるConditions of Contract for Construction、施主の設計によって数量清算を行う契約形態、Yellow bookといわれるDesign Build Contract、設計施工一括契約形態、Shilver bookといわれるEPC Turnkey Contract、そのほか、Pink bookと呼ばれるConditions of Contract for Construction Multilateral Development Bank Editionという4つが代表的になろうかと思います。
FIDICに関して、各契約形態について、概要を下記の記事で述べておりますので、参考ください。
入札候補の選定・ヒアリング
過去の実績やスポンサーとの関係性を考慮して、入札候補を抽出します。スポンサーとの関係性は、コントラクターを縛る有効な手段であり、1つの取引ではなく、複数の取引によりコントラクターを制御下に置くことができます。その後、抽出した候補者へ、参画の意図を確認し、次のステップ(入札への招聘:Invitation Letterの発行や報道機関などへの資格審査の広告など)を模索していきます。
入札への招聘については、事前資格書類、入札図書の作成状況、入札規模などを考慮し、少数でするのか、公で広く募集するのかに基づいて、招聘方法を決めることになります。その招聘に対する答えとして、候補者より、関心表明(Letter of Interest)を提出してもらい、提出があった会社に対して、入札を実施するという流れとなります。
事前資格審査(Prequalification:PQ)
PQでは参加企業の財務状況や類似プロジェクトの経験、施工能力の有無、訴訟や紛争の有無などを求めて、参加企業の最低限の能力を調査します。ポイントとして、事前資格要件は、資格審査要綱に記載しておくべきであり、それにより、後日、参加企業からのクレームに対して適切に答えることができます。
要求事項を満たすことができた企業や共同事業体に対しては、PQが合格した旨を通知し、次に入札図書の送付に移っていきます。
入札図書の送付、入札の実施、応札図書の評価
入札図書を送付しますが、その前に秘密保持契約(Nondisclosure Agreement)を締結し、情報漏洩のリスク低減を図ります。
一般的な入札図書の構成は、表1に示す通りです。これらは概ね契約形態に関わらず必要な書類と言えます。
文書名 | 内容 |
Instruction to Bidders | 入札条件書で入札規定を記載 |
Qualification Criteria | 参加企業が満たすべき基準、PQと同様 |
Bidding Forms | 入札のフォーマット |
Contract Form | 契約書のひな型 |
Conditions of Contract | 契約条件書 |
Specifications | 技術等の要件事項、また関連情報 |
入札が開始されたのち、入札図書だけでは不十分な現地情報を補うため、現地説明会が行われることが多いです。建設予定地、アクセス道路、骨材採取所など、開発者側から、入札図書に基づて、現地にて説明が行われます。このプロセスは、開発者からする場合、コントラクターとなる入札者が、十分な調査を実施したのちに、応札を行ったという証拠にもなりますので、実施すべき内容と考えられます。
その後、入札者から入札図書やプロジェクトの情報に関する質問がなされます。その情報の多くは、質問者以外の参加者にも公開し、情報共有を図るのは、公平な競争を行う上で、不可欠と言えます。
応札図書の受領と開札にあたっては、事前に責任者を決めたうえで、決められたプロセスで行う必要があります。私事業であるため、基本はどのような方法で実施しても問題はないですが、後々のトラブルを避けるために、できる限り公平を期して行うことが望ましいです。特に、政府系の国際開発銀行が関わる場合、透明性が求められますので、開札・評価の根拠はしっかりと文書にて残していくことが重要です。
評価方法については、価格だけ、技術と価格の総合点方式など、様々あります。そのため、入札指示書において、その評価方法を明記しておくのが望ましいです。それに基づいて、優先交渉権者(Preferred Bidder)を決定し、契約交渉を開始します。最終的に合意に至るまでは、他の入札者には残っておいてもらい、優先交渉者と合意に至らない場合、次点の参加企業との交渉にあたることになります。こうすることで、開発者側は交渉力を得ることになります。
交渉が合意に至った場合、残りの参加者に通知を行い、合意した企業との契約書締結の作業を進めることになります。
契約条件書
リスクの配分をどのように行うかは、契約条件書(Conditions of Contract)に詳細に記載していきます。日本ではあまり詳細な取り決めを行わず、逐次合意を得ながら進めることが多いですが、海外はもちろん、風力発電では外国企業が多いため、建設契約を双方が納得するまで、詳細に取り決める必要があります。
FIDICの契約約款のうち、Pink Bookと呼ばれる国際開発銀行向けの条件(Conditions of Contract for Construction MDB Harmonized Edition)がありますが、2017年の改訂には含まれておりません。そこで今回は、2017年版Red Bookを参考に、再エネプロジェクトにおいて、建設契約を検討する際、重要となるポイントを順次掲載していきます。表2はRed Book(2017)の契約条項を記載しています。
リーガルマインド
契約書について、日本の商慣習として、ハイコンテクストな文化故に、事前に多くのことを決めなくとも、後日、協議をすれば解決するという意識があるかもしれません。一方で、海外の国々ではローコンテクストの文化の方が一般的であり、そうした国々の企業と相手にするには、契約書は戦略を実施するツールとなります。
そうした意味では、建設契約をどう作りこむかは、その企業の戦略にもとづいており、今後も非常に重要になってくると思います。
私は理系出身ですが、契約書を作成、交渉するのが非常に面白く感じており、その理由は数学的なロジックに基づいているからだと思います。
契約書に基づいた商習慣を知る上で、「Suits」というドラマは(日本版もあります)導入に最適で、また英語の勉強にはもってこいだと思います。興味があれば、是非、見てみてください。