Commencement, Delays and Suspension

工事遅延 と 工事促進

工事促進 の分類

工事促進 (Accelaration)という行為は、失った時間を回復し、仕事を早く完了させるために、工事の進捗を上げることを意味します。この 工事促進には大きく分けて3つに分類することができます。

  • 自主的な 工事促進 (Voluntary Acceleration):請負者が自発的に工事の進捗を早める
  • 暗示的な指示による 工事促進 (Constructive Acceleration):請負者が工事の進捗を暗黙のうちに促進させられる
  • 指示による 工事促進 (Directed Acceleration):請負者が工事の促進を書面によって命令される

それぞれの工事の促進に関して、以下のように解釈することができます。

自主的な 工事促進 (Voluntary Acceleration)

この工事の促進は、工事期間中において、Non-Excusable Delayが発生していると判断している場合に、請負者がその遅れの回復を自費で行うことを義務付けられている工事の促進であって、FIDICのSub-Clause 8.5に記載されています。このケースでは、エンジニアが指示を出す権限を有しており、請負者はその命令に従う必要があります。

暗示的な指示による 工事促進 (Constructive Acceleration)

暗黙のうちに工事が促進されているかどうかは、しばし見逃されているケースが多いです。例えば、EOTの権利が請負者は有しているにも関わらず、発注者より現計画で工事を終えよと命じられたり、数量が増加しているにも関わらず、原契約工期いないで工事を終わる必要があるなど、こうした場合は暗黙の工事の促進が行われているといえます。

このような状態である場合、通常、請負者は発注者に対して、そのような促進対策によって発生する追加コストは正当に払われるべきであるという書面による通知書を出すことがあります。仮に、そうした書面が請負者から来なければ、発注者はそうした暗黙の工事の促進に対して費用を支払う必要はありません。

こうした発注者の態度は、契約的な悪意と感じる日本人の方も多いかもしれませんが、国際契約においては、請負者はクレームの権利を有しており、必要であると考えれば、契約書に沿ってクレームを発注者に提出することができます。その上で、エンジニアないし発注者がそのクレームの正当性を判断するわけです。それゆえ、発注者としては、できる限り請負者がクレームを出すことができる機会を限定するべきであり、契約書を結ぶまでに、そうした取り決めを記載していくことが肝要となります。

紛争事例はこの”Constructive Acceleration”の事例になります。

指示による 工事促進 (Directed Acceleration)

請負側は、定期的に過去のExcusable Delayを集計し、それに応じた工期延長権の承認申請を求めてくると考えられます。もしも、契約書の期日以内に申請がなければ、追加費用等も不要であり、申請されれば、適切にその内容を判断し、必要に応じて追加費用を決定すればよいわけです。

促進費用の算定

工事の遅れと工事を促進するということは、原価管理の面から考えると、請負者にとっては、工期が延びたことにより発生する費用と、工期を短縮する費用とでどちらが得策かということになろうかと思います。更にいえば、発注者の立場から言えば、Excusable Delayであれば、工期の遅れによる収入減+工期の遅れによる費用の増となり、追加費用が必要となってでも工事促進するのがよいということになります。

工事促進の費用としては、以下の項目に基づいて追加費用が算出されることになる。

  • Manpowerの増加により単位当たりの清算効率低下による費用
  • 当初計画された機材、労働力、資材が不経済になったことによる追加費用
  • 残業費用
  • 当別報奨金

これらの費用の中で、生産効率の低下による追加費用は、工事促進をしない場合における単価と、工事が促進された状態における単価を比較することによって算出することができます。

発注者の立場からいえば、促進工事が指示できるように契約書には記載しておくべきで、そうでなければ請負者が判断の権利を有することになる。よって、FIDIC Sub-Clause 8.7とは別に、Accelerationの項目を追加しておくことがよく、例えば、”When the Contractor is entitled to an EOT of the Works, the Employer has the option of instructing the Contractor to submit a revised Work Programme and supporting documents describing the revised methods which the Contractor proposes to adopt in order to expedite the progress and complete the Works with in the original Time for Completion.”などの文章が考えられます。

工事促進 に係る紛争の事例

ケース

ケース:同時に発生した複数の原因による工期の遅れと 工事促進 のクレーム
当事者:発注者 Micafil Vakuumtechnick社(V社) 請負者 Motherwell Bridge Construction(M社)
契約約款:FIDIC
国:英国

概要

V社はM社に対して2件をFIDICに基づいて発注を行った。完了後にM社は、クレームを提起した。その内容は「発注者のせいで深刻な遅延が生じた」「適切な工事延長が認められなかったために、請け負者は工事のスピードを上げなければならなかった」という点であった。M社は予定通り工事を進めるために、夜間工事も行っていたので、そのために発生した費用を発注者に請求した。M社はその根拠として「予定通りすすめるという発注者の期待に添うように努力した結果」「発注者が適切な機関延長を拒否した結果」発生した費用としていた。

裁判所は次のようないくつかの点を問われた。第一に請負者が延長を求める理由となった遅延は、クリティカルパスに基づくものなのか。第二に、クリティカルパスに基づく場合、その遅延は発注者によって生じたものであったのか、最後に、請負者はLiquidated Damage(”LD”)の支払いをさけるために促進工事を行ったが、それに関する費用を回復することができるのかというものであった。裁判所はこれらのすべての点について肯定的な回答をしめした。

特に工期促進工事に関する点について、M社はV社が設計のやり直しをした結果、相当な量の追加工事が必要となり、そのために夜間工事を請求したとしている。裁判官はこの主張を認め、「この費用は、期間内に工事を完了せねば罰金を課されるという状況において、M社が、工事の完了までに失われた時間を取り戻すために発生した費用であることで間違いない。その原因はM社が工事開始した際に直面した規制事項及び工事範囲の相当な増加である。」

この裁判では、延長期間を不当に拒否され、LDを避けるために工事のスピードを上げた場合、当事者はそれにかかった費用を回収することができるという点を暗示している。

考察

ここで一つ重要な点は、延長工期の算定には実際の完了日ではなく、理論的な工期を認め、その理論的な日数に対しての経費(この期間を短くした費用)の支払いを命じた点と言えます。発注者側は、実際の完了日が遅れてなければ工期延長の経費を支払わなくてよいと勘違いしがちであるが、そうではなく、認められた工期延長に対する経費増分は与えられた権利であり、この事例にあるように、その期間を取り戻した場合は経費が認められるというものです。

暗示的な促進工事にあたるわけですが、明示的な促進工事だけが追加コストが発生するわけでないことは認識しておくべきという事例と言えます。

ABOUT ME
Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など