記事:Reutor, 2021/5/21, “Column: Carbon pricing – markets, taxes or regulation?”
2021年5月の 排出権 の価格状況
記事によると、EUの 排出権 の費用は過去2年間で倍増しており、二酸化炭素排出量の価格設定、 カーボンプライシング に関して、市場をベースにすべきか、税ベースにすべきか、手法の相対的な利点を新たに議論されていきそうである。
2023年12月に期限切れになる 排出権 の価格(CFI2Z3)は、今月、2年前の同月の 26 Euros / CO2 ton 未満から51Euros / CO2 ton 以上に上昇している。
そうした中、エネルギー集約型メーカーは、すでにコストへの影響について警告し始めており、 排出権 を購入する必要がない外国競合他社から自分達を保護してもらうために、 炭素国境調整措置 の導入を加速するよう主張している。
これを受けて、 EU の最高気候当局者は2021年5月7日に、政策立案者に対して、価格上昇を抑制するために介入しないように警告し、介入すれば 排出権 取引スキームの信頼性を損なうだろうと述べた。
カーボンプライシング の方法
政策立案者が今後数十年で 排出量 を大幅に削減したいならば、 排出 に価格を設定する必要があり、価格は現在よりも大幅に高くなければならない。大幅に高い価格によって、 化石燃料 に代わるものへ早く投資が行われ、より多くのエネルギーが貯蔵、エネルギー効率が改善、炭素を吸着・貯蔵に投資が行われるようになるだろう。しかし、 排出量 がどのように価格設定されているかは、価格がいくらかと同じくらい重要である。カーボンプライシング 、つまりCO2価格がどのように設定されるかが重要である。
EUの場合、市場での取引システムにこだわることが予測される。というのも、その市場はすでに成熟しており、広範な政治的受け入れを獲得しており、その成功に利害を持つ多く関係者がいるからである。しかし、このシステムは過去に修正されており、今後も受け入れられる範囲で修正されていくだろう。EU域外では、いくつかの地域においては、市場ベースのシステムが受け入れやすいことが証明されているが、ほとんどのスキームは依然として範囲が狭く、限られた産業での取引となっている。
将来、CO2価格が普及して高額となる場合、政策当局者は、規制による潜在的価格、取引システム、もしくは税金のいづれを用いて、CO2価格を課すのが最善であるのか、 カーボンプライシング をどうするのか、真剣に議論する必要がある。
市場による取引が良いのか、税金で課すのがよいのか
定量的規制や基準による複雑な仕組みをつくるよりも、 排出量 に直接価格を付けることは、大気中に排出されるCO2を減らす最も効率的な方法である。
つまり、原材料、製造品目、サービスなどの他の市場と同様、価格情報は、利益を得る最も安い方法に関する民間情報と結びついている。規制、基準、委任状、その他の計画的な管理方法は、潜在的価格や暗黙の費用のシステムを作り出すだけで、民間情報を利用できないため効率が低下する傾向にある。
原則として、市場ベースと税ベースのシステムは、CO2価格を増加させ、排出量を削減するという面で同じような結果をもたらす。しかし、2つのシステムは、CO2価格の上昇の仕方と企業や家庭間のコストや利益の分配に対して異なる影響を与える。
システムは短期的な価格変動を生み出し、企業や消費者が管理するにはコストがかかる。 | 確実性と予測可能性を生み出し、長期的な計画を容易にする。 |
投資に資金を供給するために、民間のキャッシュフローを生み出す。 | CO2価格による負担を企業や家計へ補償するために、公共部門の収益源を確保できる。 |
目標の排出量を削減できるが、コスト構造はわかりにくい。 | コスト構造はわかりやすいが、最終的に排出量の削減につながるかは不明である。 |
物価と政策立案者の間の距離を作り出し、より高い価格を政治的に許容できる可能性がある。 | より高い価格を受け入れにくくするかもしれない価格に対して政府の直接的な責任を強調する。 |
システムから直接的に財政上の利益を得るために、政治的支援を行う可能性が高い関係者、トレーダー、ブローカー、取引所、投資ファンド、ポートフォリオマネージャー、その他の仲介者を生み出す。 | 弁護士、会計士、監査人以外、直接的な受益者はいないが、政治的な支援を構築するために収入を分配する。 |
一緒につながっていない限り、異なる国では異なった価格となる。 | 価格は異なるものの、各仕組の調和が容易である。 |
ハイブリッド価格システム
現実の世界では、市場ベースと税ベースの価格設定システムの違いは、実際考えるよりも小さく、現在実行されている、もしくは将来導入される可能性があるほとんどのシステムはハイブリッドとなっている。
市場ベースのシステムであっても、政策立案者は、排出量の削減の規模とタイムスケールを変更し、排出権の需給を変更し、価格に影響を与えるために介入することがでる。例えば、EUは世界で最も成熟した排出権の取引システムを作り出したが、価格を押し上げ、排出量の削減を加速するために、長年にわたってルールを何度も変更してきている。
税制に基づくシステムでは、政策立案者は、情報の入力や状況の変化に応じて、排出量の削減率を加速または遅らせるために税率を調整することができる。EU環境責任者のFrans Timmermans氏は、急速に上昇する排出権費用を抑制するため政策立案者が貿易システムへの介入を避けるように呼びかけているものの、価格調整におけるこうした特性を認めざるを得ないとしている。同氏は、「それは市場であり、非市場ベースの価格を生み出し、排出権の取引システムの信頼性を損なうことになるので、市場に介入しないよう、十分に注意を払う必要がある。」と述べている。更に「市場において、価格が高すぎるとか安すぎるとか誰がいえるだろうか。それが市場であるものの、目標を達成するのであるならば、価格が50Euros / CO2 tonよりもはるかに高くすべきであると考える。しかし、それは市場次第でもある。」と述べた。
EUは、市場において価格を設定していないが、その政策は排出権の需要と供給に影響を与えて、価格を誘導することになる。「市場の動きに影響を与えても、市場をコントロールすることはできない。」とFrans Timmermans氏は述べた。つまりこれは、”違い(Difference)”ではなく”区別(Distinction)”なのかもしれない。当座としては、排出の価格が上昇していることをEUは喜んでおり、市場ベースのメカニズムのおかげで、政策立案者が企業や家計から直接非難されずにすんでいる。しかし、価格があまりにも速く上昇した場合、政策立案者が排出権の供給を増やすためにルールを変更したり、需要を削減したりして介入し、費用を抑制することになるかもしれない。
考察
カーボンプライシング の有力な手段のひとつは炭素税です。日本では「地球温暖化対策のための税(温対税)」の名称で2012年に導入されており、石炭や石油など化石燃料の消費量に応じて課税する仕組みで、CO2排出量1トンあたり289円がかかっています。 再エネ の導入支援や省エネ対策に使われています。一方、 排出権 取引についえは、日本では国全体をカバーする仕組みはありません。規制については、添付の記事にもありますが、 国境調整措置 があり、これは環境対策が不十分な国からの輸入製品に関税などの追加負担を課すものです。欧州は23年までに導入する方針をすでに明らかにしていますが、日本ではまだ未定となっています。
カーボンプライシング が進んでいる欧州では、それらの環境政策が、自国産業の競争力に悪影響を及ぼさないよう、多くの配慮がなされています。中でも産業用電気料金に関しては、IEAなどが公表している数値よりも、様々な減免措置によって、はるかに安価な調達ができているとのことです。
日本においても、そうした産業を弱めない措置を十分に考慮した カーボンプライシング の制度を整えることが望まれます。