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イギリスにおける 電力価格高騰 とそれが与える経済への影響 2021年9月

英国 電力価格高騰 状況

英国では、9月に計画停止している発電所が多数ある中、 風況が悪く、風力発電所の出力が出ず、電力不足に陥り、 電力価格高騰 が発生しました。9月6日にベースロードの前日先物市場価格(EPEXとN2EXの平均値)が£230/MWh(約35円/kwh)、ピーク時には £731/MWh(約110円/kwh)となり、2021年1月15日の冬季の高騰以来の価格に至っています。 9月6日の時点で£5,000/MWhも見えてきていると記事にもありましたが、結果的には7日17:30-18:00に £3,403/MWh (約510円/kwh)、2021年9月15日にも £2,500/MWh (約380円/kwh)を記録しました。更にフランスとの国際連携線であるIFA1で火災が起こり、2,000MWの融通ができなくなったことから、再度 電力価格高騰 が起こっています。

図1 イギリス周辺の国際連携線(IFAは1番)

英国は今年の冬にも、アメリカのテキサスでの事例と同様に、 電力価格高騰 を経験しており、2021年1月12日17:00の前日先物価格は £1,499.62/MWh(約225円/kwh)となり、イギリスの系統運用者であるNational Gridは緊急宣言(Emergency Margin Notives; EMNs)を宣言しています。1月8日19:30-20:30 におけるインバランス費用は£4,000/MWh(約600円/kwh)となり、また1月6日から8日の間においては£1,000/MWh(約150円/kwh)を7回超えることがありました。

図2 英国の電力価格の推移

これと並行して起こっているのがガス価格の高騰です。エネルギー源が再エネや天然ガスにシフトするにつれ、天然ガスの需給バランスが崩れて天然ガスの不足が生じたものです。更に電力不足が火力発電所の運転を必要とし、天然ガスの需要が高まるという悪循環が生じ増した。9月7日にガス価格は136.68 pence per therm、凡そ18.6 USD/MMbtu程度となっています。そうした エネルギー高騰 の結果、英国の電力小売り2社(PfP EnergyとMoneyPlus Energy)が破綻しました。その後も天然ガスの価格上昇はつづき、15日時点において、190 pence per therm を超える状況となっています。

図3 英国の天然ガス価格の推移

こうした状況に関する記事を取り上げたいと思います。

記事:The Guardian, 2021/9/16, “Fears for UK recovery as record energy prices shut fertiliser plants”

記事によると、記録的な 電力価格高騰 により、イングランド北部の2つの肥料工場が閉鎖され、製鉄所が停止した。これは、ヨーロッパを巻き込んだエネルギー危機が英国の景気回復に打撃を与える可能性があることを明白に示している。米国の肥料メーカーであるCF Industriesは、TeessideのBillinghamとCheshireのInceにある工場での生産を停止しました。

主要なコモディティートレーダーであるGoldman Sachsは、2022年度に渡ってヨーロッパ全体とアジアで気温が大きく下がる場合、 電力価格高騰 によってヨーロッパの重工業がこの冬に停電のリスクに晒されることになると警告した。鉄鋼の取引団体であるUK Steelからの警告によれば、 電力価格高騰 が起こり、鉄鋼メーカーは電力需要のピーク時に作業を一時停止することを余儀なくされたとしている。 電力価格高騰 の衝撃により、英国の大臣は家計や企業を保護するために緊急の行動を取るよう求められ、ヨーロッパ各国の政府はエネルギー消費者が来たる冬を乗り切れるように救済措置を進めようとしている。

エネルギー供給業者であるE.ONUKのトップ、MichaelLewis氏は、Financial Timesとのインタビューを通して、再エネ補助にかかる費用を各家庭のエネルギーの請求書から一般課税に移すことで、厳しい状況にある世帯を支援するよう政府に呼びかけた。

スペイン政府は、 電力価格高騰 の経済への波及を食い止めるために、発電事業者の利益から30億ユーロ(約3,900億円)を搾取し、消費者に対する減税を実施することを計画している。フランス政府はエネルギー支払いに対する直接補助金の計画を検討しており、ギリシャは全ての消費者への補助のために1億5,000万ユーロの救済基金を集めた (スペインの政府介入の記事はこちら) 。

図4 EUにおける9月15日の前日電力先物価格
図5 至近における英国のガス価格の推移

S&P Global Plattsの市場専門家によると、英国がヨーロッパで最も高いエネルギー市場価格を負担しているにもかかわらず、政府は迫りくるエネルギー危機への対応が遅れていると述べている。英国最大のビジネスグループであるCBIは、 エネルギー価格の高騰はパンデミックからの回復を加速しようとしている企業にとっての懸念であると述べ、英国の国際競争力を保護するために企業と政策立案者が協力することを求めた。

ガス貯蔵施設が枯渇させた昨年の寒い冬に続き、ガス需要の世界的なブームによってエネルギー価格はヨーロッパ全体で急騰した。ノルウェーとロシアからのガスの輸入にも問題があり、ここ数ヶ月でヨーロッパへの輸出が減少した。これは、業界の一部が政治的動機を持っている可能性があるためである。そうした状況において、ガス価格が上昇することは、ガス火力発電所に大きく依存している英国にとって非常に困難な状況といえる。更にはいくつかの発電所が計画外に停止したことや1961年以来最も風速が弱かったことを機に、英国の電力供給に対する懸念が高まっている。

英国の電力問題は今週、フランスから電力を輸入する最大の電力ケーブルの1つが(IFA 1)、Kentのコンバーターステーションで火災に遭い、2022年3月下旬まで閉鎖を余儀なくされるというニュースによって悪化した。ケーブルが使えなくなったことにより、英国は電力供給を安定させるために、ガス供給の不足に拍車をかけることになるガス火力発電所や、記録的な収益を得ている石炭火力に依存するになる。

CF Industriesは、英国の施設でいつ生産が再開されるか予想がつかないと述べており、専門家は、他の重工業企業もこの冬に操業停止または急騰する事業コストに直面することを恐れていると述べた。UK Steelは、現在の電気料金では、鉄鋼生産者が昼夜を問わず特定の時間に利益を上げることは不可能であると述べ、政府と規制当局に介入するよう要請した。「この状況が続くのであれば、政府とOffice of Gas and Electricity Markets (Ofgem)は行動を起こす準備をしなければならない。冬季には電気料金が高騰すると予測され、状況は日々緊急を要するようになっている。 」とグループの局長であるGareth Stace氏は言いました。

考察

2021年9月から始まった英国における 電力価格高騰 は、ゼロカーボンを目指した偏った電源構成が原因といえると思います。特にイギリスは日本と同様に島国であるため、天然ガスの調達は、自国で生産しているものの近年は輸入が多くなり、大陸とはことなり、LNGに頼る部分もあって、周辺国の需要の影響を受けやすい状況です。英国を含む欧州全体に影響を与える天然ガスの広域的な影響については、政府から説明がなされています

図6 英国 石油およびガスの輸出入の状況
図7 ガス輸出/輸入の比率推移

特にノルウェーからの輸入が著しく、ヨーロッパ全体としても、ノルウェーの天然ガスは非常に重要となっており、今回のガス価格上昇に伴い、EUから増産を依頼されています。しかしながら、ノルウェーは国内ではゼロカーボンを述べながら、化石燃料を輸出するという、ゼロカーボンの理念に反する行為を行っているともいえるように思います。

ノルウェー は、 EV 普及の有効なモデルなのか?何故、 ノルウェー ではこれほどEV が普及したのか。 価格ではガソリン車で大きく劣後している EV 。しかし大きく普及している理由は ・ EV への優遇税性 ・世界きっての 再エネ 大国で電気は クリーン電気 ・石油で儲けた莫大な資金 石油やガスを売って、自国ではCO2削減が ノルウェー の戦略です。...

またガス価格に影響を与える国としてロシアの存在がありますが、ノルドストリーム2の建設が完了したものの、政治的な問題により、ガス輸出がいつ始まるかはっきりはしていません(2021年9月時点)。欧州議会はロシアからのガス輸出は否定的であり、これにより供給不安の要素となっています。

こうした混乱に加えて、国際連携線であるIFAの火災が英国の電力供給を一層不安定にしました。英国はかなり電力融通に頼っているところがあるので、域内での電力逼迫だけではなく、連携送電線の状態によってもその電力危機は過去にも発生しています。

今回の英国における電力価格暴騰は、以下の2点が主要な原因であり、これは日本も参考にすべき事象だと思います。

  • 電源構成に偏りがあり、その電源の出力低下が連鎖的に電力供給不安につながる
  • 電力供給を他国にゆだねている部分も多く、当該国の事情で電力供給が大きく影響を受ける
図8 イギリスの電源構成の推移
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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など