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カルフォルニア や テキサス などの州において 2021年夏の 熱波 による停電の可能性もあり

記事:Reuters, 2021/5/15, “Extreme heat could cause U.S. power shortages this summer -NERC”

記事によりますと、北米における電気信頼性に責任を有する組織は、 カリフォルニア 州、 テキサス 州、 ニューイングランド 州、中央アメリカ今年の夏にエネルギー不足が起こり得ると警告した。「(酷暑において)最大の懸念は、 カリフォルニア 州であり、太陽光出力が低下するのを相殺するために午後遅くに、最大11GWの追加供給が必要と予測している」と、北アメリカ電力公社( North American Electric Reliability Corp , NERC )は、2021年5月14日の遅くに、理事会の後に述べた。NERCは、アメリカ、カナダ、メキシコの一部に対して、電力の品質に関する基準を策定している。また11GWが不足すると述べたが、1GWとは平均して約100万軒の家庭に電力を供給することができる量であるが、消費者がエアコンを点ける暑い夏の日では、わずか20万軒にしか供給できない。

2020年は、コロナウイルスの大流行、歴史的なハリケーンの到来、西側の酷暑と山火事、テキサス州の極寒と天然ガスパイプラインの凍結、主要な石油パイプラインを閉鎖したサイバー攻撃など、これまでにない状況がエネルギー業界に生じた。

2021年 テキサス で起こった冬の災害による損害額と比べると、冬季対策費用は割安FRB による、2021年2月に テキサス 州で起こった停電に伴う経済損失に関する分析結果が報告されている記事。...

そうした状況を踏まえて、NERCは、電気会社とガス会社間において大きな調整を望んでいると述べた。NERCの技術及び品質管理担当副社長Howard Gugel氏は、「我々は至近で、極端な気候やサイバー攻撃による影響を経験し、巨大な電力システムにおける信頼性を有する運用に対するこうした現実のリスクに緊急で対応しなければならないことを知った。」と述べている。

そこでNERCは、ガス規制当局に対し、現在の基準と比較してサイバーセキュリティに関する基準を確立するよう求めた。NERCのJim Robb最高経営責任者( CEO )は、「Colonial パイプライン攻撃は、電力と他のインフラとの相互接続に関して警笛しており、重要な燃料を供給するパイプラインシステムの信頼性に再度焦点を当てなくてはならない理由である。」と述べた。参考:U.S. capital running out of gas, even as Colonial Pipeline recovers

更に同氏は、「極寒の下で、発電所に燃料を供給する主要なガスラインにこれが起こった場合、結果は壊滅的だった可能性がある。」と述べた。

考察

カルフォルニア 州の電源構成

カルフォルニア 州は、2020年8月14日及び15日において、輪番停電を実施しています。2021年の2月に大停電を起こしたテキサス州と同様に、 カルフォルニア 州は再エネの導入率が大きな州となります(図1)。

図1 アメリカ全土及び3州(テキサス、カルフォルニア、オクラホマ)における電源比率

2020年8月の輪番停電に対する検討報告書

2020年8月の輪番停電が起こって以降、 カルフォルニア の独立電力システム運用会社( California Independent System Operator, CAISO )、 カルフォルニア 公共インフラ委員会( California Public Utilities Commission, CPUC )及び カルフォルニア 電力委員会( California Energy Commission, CEC )が調査を行い、2021年1月13日に報告書を発表しています

この報告書によりますと、輪番停電が生じた主な理由は以下の3つとしています。

1.気候変動により酷暑をもたらす 熱波 が発生、アメリカ全土を覆い、既存の電源予備(Resource Adequacy, RA)及び計画量を超える需要が生じた。
報告書によれば、過去35年の気象データから、2020年8月の暑さは、30年に一度のものであったとのことです。加えて、その範囲が カルフォルニア だけではなく、西側にも広がり、想定以上の需要が生じてしまったとこのことです。

図2 カルフォルニアの気温

2. 再エネ 導入などの新たな電源構成において、供給計画の際に、夕方の需要を満たすことができる安定電源を十分に確保することができなかった。
14日及び15日の輪番停電は、最大ピーク需要が発生した後、つまり正味のピーク需要の間におこっており、これは太陽光や風力発電の出力が低下しだす時間帯であったということです。つまり、再エネ電源の出力が落ちていく一方、エアコンなどの需要は継続しており、結果的に正味のピーク需要が夕刻に発生し、電力システム全体で維持するのが難しい状況になっていました。
2016年以降、CAISO, CPUC及びCECは、再エネによる電力網への影響を検討していました。単にピークだけではなく、時間帯毎の状況についても検討していたものの、正味のピーク需要や負荷を任せられる電源の選定など、追加で検討が必要であると述べています。この点については、事項以降にもう少し詳しく記載します。

3. 過酷状況において、前日先物市場における取引が、供給力への懸念を助長した。
電力の市場取引により、前日先物市場における電力をCAISOへ供給することを優先もしくは実施することを妨げたということです。実際の供給力が厳しい状況にあることを分かりにくくする取引として、需要家や小売り業者が必要とする電力を前日先物市場において低く見せたりする取引や、前日先物市場とリアルタイムでの価格設定を統合するのに使う金融電力市場取引が含まれていたということです。つまり、前日には需要を低く見せかけ、需要と供給を厳しい状況にして、価格を吊り上げるという取引が一因だったようです。こうした市場取引がおこった原因は、CAISOでは前年において市場を強化したことが原因のようです。ただし、正確な情報が発信されていれば、デマンドレスポンス(需要抑制)を効果的に実施することができたと考えられるようです。

以上が主な原因とされている内容であり、これを受けて、2021年夏に備えてCAISOを中心に対策を実施していくことになっていました。

また カルフォルニア のこうした状況を記載した記事のうち、添付は非常によくまとまっていますので、参考に添付しておきます。”California scrambles to improve electric grid to avoid summer blackouts

2021年の夏に向けた カルフォルニア 州における取組

上記の検討結果を受けて、2021年の夏の対策を実施する必要があります。安定電源の確保が最重要課題ですが、2020年に停止予定であった4つのガス火力発電所を延長しています。もともとは、環境問題を理由に冷却水の取水停止を勧告しており、それに従って事業者は発電所を廃止予定でした。それが2020年8月の輪番停電を切欠に、当面運転となっております。

CAISO は、2021年の夏に向けて2021年5月12日に、Summer Loads and Resources Assessementという報告書を発表しております。内容は、夏の需給状況を予測したものですが、昨年度と同様に酷暑を招く 熱波 が生じると輪番停電を実施する必要があるというものです。

夏の対策としては、1. 予備力を15%>>17.5%にする、2. 既存の電源をできる限り存続させる(上記に記載した通り、主な安定電源はガス火力発電所です)、3. Demand Response Program策定する(事前の警告など、横のつながりを強化するようなもののようです)になりますが、大きなリスクとして、昨年に引き続き、 水力 発電所の貯水容量が少ないうえ、雪解けによる流入量も少ないという状況のようです。

そうした状況を踏まえて、3による対応は除き、1と2、 水力 に関するリスク、また現状の電源構成を踏まえて、2,000のシナリオによる解析を実施し、統計的に停電が生じる可能性について検討しています。因みに、2020年及び2021年における最大需要予測は表1の通りです。

表1 CAISOにおける最大需要予測

解析では、予備率が6%以下のStage 2、3%以下のStage 3、供給力が需要を下回るケースの確率が示されています(表2、図3及び図4)。これによりますと、4.6%の確率で輪番停電が生じる可能性があるという結果になっています。ただし、デマンドリスポンスで調整を行い、停電が回避できる可能性はあります。

表2 供給予備率の超過確率(ベースケース)
図3 供給予備率のヒストグラム
図4 供給予備率(時間別)とヒストグラム

更に感度分析として、他の電力網から輸入する電力量を、2015年から2020年の平均値で制限をかけて同様の解析を行った場合、輪番停電の起こる確率は12.4%とベースケースの3倍程度となります(表3)。これらは、統計的な解析結果となっていますが、積み上げによる供給力の予測も実施されています(図5)。これによりますと、輸入できる電気量次第で、CAISOが設定している予備率17.5%を確保できることにはなっていますが、近傍の州においても、需給が厳しくなった場合、想定通りの輸入ができなくなるリスクが高まります。

表3 供給予備率の超過確率(感度分析)
図5 供給力予測

上記の結果に加え、国立衛生機構による研究が発表されており、今年も酷暑が生じることを予測しています(図6)。一方で、下記の記事にもあるように、南部の州では、再エネの新設が進んでいるうえ、アメリカのガス開発も停滞していることから、ガス火力発電所を廃止していく流れは大きく変わらないように思います。そうした場合、この問題は昨年や今年だけではなく、今後も続くものと考えられます。

アメリカでの新たな追加再エネ電源
再エネ 、アメリカにおいて、2021年第1四半期に新規電源が過去最高に2021年の第1四半期において、アメリカの新規 再エネ 電源が、過去の四半期に比べて、最高値を示したことを報道している。従来から再エネ導入に積極的であった カルフォルニア や テキサス において顕著であった。...

よって、再エネ電源は導入を進めつつも、安定電源を如何に確保するかが、系統全体の安定につながることは間違いありません。日本においても、 テキサス 州や カルフォルニア 州での事例を参考に、電源の安定に向けた議論を行ってほしいと考えます。

図6 アメリカにおける最高気温予測
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Paddyfield
土木技術者として、20年以上国内外において、再エネ 事業に携わる。プロジェクトファイナンス 全般に関与、事業可能性調査 などで プロジェクトマネージャー として従事。 疑問や質問があれば、問い合わせフォームで連絡ください。共通の答えが必要な場合は、ブログ記事で取り上げたいと思います。 ブログを構築中につき、適宜、文章の見直し、リンクの更新等を行い、最終的には、皆さんの業務に役立つデータベースを構築していきます。 技術士(建設:土質基礎・河川、総合監理)、土木一級施工管理技士、PMP、簿記、英検1級など