記事の概要
テキサス では2021/6/14-16にかけて、熱波により気温が上昇し、需給が厳しくなるとの予測のもと、節電要請がなされています。しかしながら、気温自体はそれほど上昇しておらず、どうして節電要請に至ったのかの原因がはっきりしていませんでした。しかし、ERCOTはその原因に関して2021年7月7日に報告をしています。
そこで、ライス大学のDaniel Cohan教授の考察にそって、状況を説明していきます。
節電要請時の状況
ERCOTは2021年6月14日から16日の間、節電要請を発生しましたが、その際の主要な状況は以下の通りでした。
- 電力需要が非常に高く90年代で最大と同程度で70GW(7,000万kW)であった。しかしながら、夏のピーク時の予測、熱波が来た場合は80GWで、そうでない場合は77GW(図1)という予測よりも値としては低かった。
- 風力の発電量が非常に小さく、約25GW(25,000MW)の設備容量に対して、約180MWであった。
- 火力発電所の発電停止が、6月を通して、予測よりも多かった(64GWのうち、約15%)。
- 太陽光は発電していた。
ERCOTの2021年の夏に使えるとする火力発電所の容量は、設備容量の95%となっており、この値はかなり楽観すぎる状況といえるようです。過去の火力発電所の利用可能な設備容量を見ると、全体のうち、85%ー90%であり、概ね90%を下回るというのが実績となります(図2)。
加えて、ERCOTが所管する64GWの火力発電所のうち、20GWは設備として40年以上を経過しており、30GWは30年以上を経過している状況となっています。それを勘案すると、設備容量のうち95%が利用可能というのは、相当楽観主義的ではないかと思われます。ここでERCOTはリザーブマージンを15.7%としていますが、その前提が以下の通りになっているというものです。
- 火力設備の停電は設備全体のうち全体の5%。
- 風力の出力は設備容量の18-61%。
- 太陽光は設備容量の80%。
- 自主的に負荷を低減してくれるとこを増やす。
火力発電所が非常に古くなってきている一方で、テキサスでは風力と太陽光の導入が著しくなっています。2020年に比べて2023年には太陽光は7倍の28GW、風力は1.5倍の38GWで、電源構成比率は大きく変わっていきます(図4)。6月14-18日においては、昼間は太陽光により受給が緩和されていますが、風力発電は発電できていない状況であることがわかります(図5)。更に詳しく見ていきますと、その時期に計画外停電している火力発電所は2021年2月に停電が起こった発電所と多くが一緒になっています(Parish gas and coal, Limestone coal, Barnie Davis gas, Sandy Creek coalなど、図6)。これに加えて、停電には記載されていないものの、発電支障(燃料の問題)があったのが3つの石炭火力であり、出力の合計が2.4GWとなっています。こうした記載上には出てこない発電支障もあるようです。
また記事にありますように、当該6月14日から18日はあつかったものの、熱波によって異常気温であったわけでななかった一方で、停電自体は6月を通しておこっており、運転可能な発電容量として挙げている数はかなり楽観的であったと言えそうです。
こうした厳しい状況の上に、風が弱かった6月15日午後において(図7)、停電の半分以上が、Comanche Peak nuclear, Limestone coal, Barney Davis gas, Parish coal & gas, Kiamichi gas, & Antelope Elk gasとやはり2月の際に停電した電源と同じということです。
また発電実績は図8のようになるのですが、これからも化石燃料による発電が多いのですが、設備自体が古くなっている、また定期点検後には不具合が多くなることを考えると、これまでの電源政策のままでは、同じような事象が起こる可能性が高いということがいえそうです。
考察
テキサスでは、再エネの大量導入や設備の老朽化等により2021年冬に停電、4月にも需給逼迫により電力高騰、6月には記事にあるように節電要請と、電力が不安定化しています。
この記事は、その6月の節電要請にいたった理由を検証したものですが、一般的には熱波により電力需要が大きくなり、電力需給が逼迫したとされています。しかしながら、個別で見ていくと、そうではなく、原因としては冬の停電時と同様の事象も起こっているといえそうです。つまり、根本的な原因解決をなされなければ、また同じような大規模停電が起こりかねないということです。
そうした中、アボット知事の発言、またERCOTの新たな対策に関する公表など、そうした危機感から具体的な政策を実施に向けて動き出したのかもしれません。特にERCOTの新たな対策は、テキサスがkWh市場だけで電力系統を運営してきたものが、その路線を変えるということを意味し、今後動向が気になるところです。