記事:The Guardian, 2021/9/4, “Gone with the wind: why UK firms could miss out on the offshore boom”
ゼロカーボンに向けて、 洋上風力 を中心とする再エネを大量に導入すべく政策を進めるイギリス。しかしながら、その活況が自国の企業に利益をもたらさず、欧州の他の国にそのうまみが持っていかれている状況です。その状況に関してまとめられた記事となります。日本でも、初期の太陽光導入では、欧米を中心とした投資会社がFITのうまみを得て、パネルは中国や韓国が販売、日本の企業の多くはまともに参入できずに、補助金のみを国民が支払う構図でした。今後の洋上風力大量導入に向けて、イギリスの上場は参考にできるのではないでしょうか。
イギリス企業が政府に対して 洋上風力 への多額投資が自国に利益もたらすように要請
ハンプシャー海岸の廃止されたFawley発電所の足元には、巨大な風力タービンブレードが浜辺で寝そべる海の哺乳類のひれのように砂の上おいていある。かつて英国で最も汚染の多い発電所の1つであった場所には、タービンのブレードがおかれ、英国沖で予定されている風力発電所の建設に備えている。
精密に設計された風力構造物1,000以上が、約80メートルの長さで、Wight島の工場から出荷される。デンマークのエネルギー大手MHI Vestasが所有し、島で約700人を雇用し、週に7枚のブレードを生産している。 最新のバッチは、英国のグリーン雇用ブームを加速するための広大なサプライチェーンの一部として、スコットランドで開発中の最大規模の 洋上風発 であるSeagreenプロジェクトに向けて出荷される。
英国では既に、約10GWの洋上風力を運用開始しており、その規模は約700万戸の住宅に電力を供給するのに十分である。Boris Johnson氏は昨年、その能力を4倍にし、2030年までに英国のすべての家庭に電力を供給するのに十分な巨大タービンを建設する計画を立てた。
Vestasは20年前に Wight 島でタービン用部品の生産を開始し、現在はイングランド北東部に新しい施設を開設する予定で、最大2,000人の熟練労働者を雇用する可能性がある。これは、この再エネ電源が地域全体のグリーン経済革命に活力を与えることを示している。しかし、野心が高まるにつれて、外国企業が最初にうまみを得る一方で、自国の企業はその機会を逃すのではないかと懸念している。
2030年の目標は大きい。これは、投資でほぼ£50biliio(約7兆5,000億円)を必要とし、次の10年間毎日、1つの風力タービンを設置するのに相当するものである。これを実現するには、2019年に政府と風力発電業界との間で行われた画期的な「セクター取引」であり、民間部門と公共部門の両方から広範囲に及ぶ目標とコミットメントを取り付けている。
政府の補助金と引き換えに行われた重要な業界のコミットメントは、すべての風力発電所において、少なくとも60%で英国製品を使用するという誓約である。これは現在の状況よりは改善されることになろうが、自国のサプライチェーンを構築し、世界的な再エネレースに取り残されることを避けるためにはもっと多くのことをしなければならいないという人もいる。
洋上風力 産業評議会(Offshore Wind Industry Council ; OWIC)によると、この分野に関連する直接的および間接的な仕事で働く人々の数は、今日の26,000人から2026年までに69,800人以上に増加するものと見込まれている。これらの仕事のほとんどは、かつて英国の産業の中心地であったイングランド、ヨークシャー、ハンバーの北東部、西アングリア、スコットランドにある。しかし、労働者の多くは外国企業に雇用されることになる。
業界はヨーロッパのエネルギー大手によって支配されている。風力発電所の建設に投資し、見返りに補助金の支払いを得るこれらの大手開発者には、デンマークのØrsted、ノルウェーの国営エネルギー大手Equinor、スペインの再エネ大手Iberdrolaの一部門であるスコティッシュ・パワーなどがあります。SSEは、ロンドン証券取引所の上場をしている英国の海域で風力発電事業をしている数少ない国内企業の一つである。
サプライ チェーンを構成する企業(ブレード、ファンデーション、高電圧ケーブルのメーカー)は、多くの場合、外国企業である。デンマークのVestasに加えて、英国に拠点を置くブレードメーカーには、ドイツのSiemensと米国の複合企業GEが含まれる。GMB労働組合は、 洋上風力 ブームに関わる産業の多くがアジアの工場や製鉄所で製造できてしまうと、英国は大きな経済的利益を取り損ねるリスクがあると警告している。労働組合によると、英国の気候目標を達成するために必要となる8,000台の風力タービンを製作するのに必要となる仕事は、今後30年間で30,000人の雇用を創出する可能性がある。英国で製造されれば、2,000万トンの鉄鋼が必要となり、更に8,000人の雇用を産むことになる。GMBのGary Smith事務総長は、「現状では、これらの鉄鋼製造の仕事はアジアにあり、英国の労働者はそのためにお金を払うだけになってしまう。これは不要であり、政治的に受け入れられない。」と語っている。 Gary Smith氏は、「鉄鋼サプライチェーン企業は、業界が必要とする技術開発と投資を展開するうえで、他の国々に比べて英国がどれだけ遅れているかを認識している。」と付け加えた。
化石燃料産業が衰退するにつれ、英国の再エネ容量は増加
ゼロカーボン風力発電に必要な2,000万トンの鉄鋼が、コーキング石炭などの高炭素燃料に依存する工場において生産され、汚染燃料油を使用してこれらの海岸に運搬されることは「重大な偽善行為」であると Smith氏は述べている。
毎年何十億もの補助金が 洋上風力 開発者に渡されるのと引き換えに、King’s Lynn、Great Yarmouth、Lowestoft、Felixstowe、Harwichなどの場所にある鉄鋼製造施設を使用するよう開発者に奨励するよう、閣僚がもっと多くのことをするように組合は促している。
Cheshireに拠点を置く鉄鋼加工機であるHutchinson Engineeringは、Hornsea 2 ウィンドファーム用の10トンプラットフォームを数十台建設するなど、 洋上風力 発電での契約を獲得し始めまた。同社は、農業および石油産業に鉄骨を提供する企業であり、1971年に設立された。同社のオペレーションディレクターであるSteve Adams氏は、「Hutchinsonは、より厳しい納期と品質基準を満たすために、一部の外国のライバルよりも迅速に対応できるように、自国の優位性を活用した。」と述べている。しかし、コストを抑えるために、風力開発者はヨーロッパやアジアからの安価な鉄鋼部品を選ぶことが多い。「英国は 洋上風力 における英国の要件を押し進めるのが遅く、このため外国企業が初期に 洋上風力 産業を支配することができた。洋上風力の開発者にサプライチェーンを変更してもらうことは難しかった。」と Steve Adams氏は述べた。
政府が求める60%という閾値は、次世代の風力発電所の建設が本格的に始まるまでの4年の間に、地元のサプライチェーン企業に利益をもたらす可能性は低い。しかしそれでも、政府が地元の製造業者にプラスの影響を与えることを望むならば、当局はこのコミットメントを開発者に保持させる必要があると、 Adams氏は言う。
一方で政府は、業界全体の基準とより明確な入札機会を確立するのを支援することによって、断片化した産業を育むためにより多くのことを行うことができる。「サプライチェーンがバラバラで、一貫性が確保されていないという点で、業界はまだ未熟である。 これを修正する方法はたくさんあるものの、調整がなされていない。」 とAdams氏は言う 。
英国は、風力と太陽光により原子炉を置き換え、今後30年以内に前例のない電力システムの見直しを実施することにしている。
風力発電を使って地域経済を押し上げなければ、英国のグリーン革命の重要な時期に、絶好の機会を無駄にするだろう、とGMBのSmith氏は警告する。「ここ30年間においてこの規模での変革は、通常通りビジネスでは達成できない。」
石油大手が狙うものは。
ビッグオイルは、北海にある数十億ポンドの事業機会を見逃すことはなかったが、石油メジャーは現在、低炭素の未来に適応するために、英国のリグを風力タービンに交換する準備をしている。多くの点で 洋上風力 は、自分達の行為を洗浄することを望んでいるエネルギー企業が再エネ事業に入っていくためには最適な事業である。
BPの再エネ責任者であるDev Sanyal氏は今年Guardianに対し、石油大手は、急速に成長している風力セクターで成功するために、厳しい洋上環境で巨大なプロジェクトを実行した経験を活かす計画だと語った。「まさに、私たちがやるべきことであり、私たちは古い世界から新しい世界に自分達のスキルを適用していく。それによって、我々はエネルギー転換の勝者になれると信じている。」と Sanyal氏は言った。
BPは、英国の海底権の記録的な入札で競合相手との競争を見送り、業界に衝撃を与えた。ドイツのユーティリティEnergie Baden-Württemberg (EnBW)に関して、アイルランド海に2つのサイトを開発するためにクラウンエステートに£462million(約700億円)を年間支払うことを申し出た。これは、過去に同様の契約に支払われた価格の15倍以上である。BPは、洋上風力産業を征服するためにビッグオイルのレースから撤退した。
Ørstedは、石油会社から風力会社に変わった巨大企業であるといえる。開拓プロジェクトに投資を行い、その利益を享受するにつれて、デンマークの元国営石油会社の株価は、2016年の原油価格暴落以来4倍になった。
ノルウェーの国営石油会社Equinorも、タービン用リグの取引に早期に動いた。同社の成長するポートフォリオには、SSEとのパートナーシップを通じて、建設中の世界最大の 洋上風力 発電所、Norfolk沖のDogger Bank プロジェクトの株式が含まれています。
Royal Dutch Shellは、親密なパートナーシップを通して英国の 洋上風力 市場に進出する石油メジャーとなっている。スコティッシュ・パワーの再エネ事業と提携し、スコットランド北東海岸沖に初の本格的な浮体式 洋上風力 発電所の1つを建設した。この協業は、英国最大の 洋上風力 開発者の一つとしてのスコティッシュ・パワーの実績と、北海の厳しい海域で活動してきた Shell の数十年にわたる経験に基づいて達成しようとしている。 Shell はまた、Enecoとオランダ沖でパートナーシップを持ち、フランスのエネルギー会社EDFと一緒に米国の大規模な 洋上風力 発電所を計画している。洋上で儲けられる機会があれば、石油会社はいつでも参入する準備ができているといえる。
考察
洋上風力 事業では、石油メジャーの参入が著しいが、BPをはじめ、英国企業の出遅れは目立っています。英国は洋上風力 に適した場所も多く、多くのプロジェクトが計画されていますが、その多くが海外企業に開発されているのは日本とよくにた状況ではないでしょうか。
そうした大量の再エネ導入を目指す英国ですが、2021年9月の時点において、早くも電力不安が持ち上がり、電力の高騰が現れてきています。これは、発電指令が可能な電源(火力や原子力)が少なく、太陽光や風力発電が増えるに従い、自然状況に大きく影響を受けるようになったためです。2021/9/5において、先物取引で、2010-2020の平均の4倍 33円/kwh(£219/MWh)を記録しており、更に30分前の取引では、750円/kwh(£4,950 per MWh)の状況です。
加えて、洋上風力の入札における高値入札も今後波乱要因になる可能性もあり、洋上風力自体からは儲けることができない状況になりかねません。現在、再エネバブルともいえる状況であり、トタルエナジーのCEOがこの状況に警笛を鳴らしているのも注目に値します。